寄稿・インタビュー

「日本とチリ:信頼に基づく友情」

令和5年5月10日

 チリは、日本から地理的に遠く離れていますが、ともに太平洋に面する隣国であり、価値や原則を共有する重要な「戦略的パートナー」です。私は民間企業に勤務していた際にチリを含め中南米地域を訪問する機会が多々あり、親近感を抱いています。チリには2018年に文科大臣として訪問しました。実直な気質で日本と近い印象を抱いたこの国を再訪できることをとてもうれしく思います。

 今回の訪問では、現下の厳しい国際情勢の中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化や、サプライチェーンの強靱化、クリーンエネルギーなど、重要な国際課題への対応について、バン・クラベレン外相を始めとする政府要人と議論し、更なる連携を図ることができることを期待しています。また、日系人や日本企業関係者の方々と意見交換をさせていただく予定です。

 この機会に、最近の日チリ関係について少し具体的に触れてみたいと思います。両国には、政治・経済を始め、防災、科学技術、学術等、幅広い分野で交流が行われています。この数年は新型コロナウイルス感染症により両国の交流が制限されましたが、外交関係樹立125周年を迎えた昨年は、国際会議の場を活用した外相会談や首脳会談といったハイレベルの交流が行われました。

 日本は、長い信頼と友好の歴史を有し、価値や原則を共有する中南米諸国との外交関係を重視しています。この中南米重視の流れで、今回チリを含む中南米諸国を訪問することとしましたが、日本の外務大臣としては国際会議の機会を除き44年ぶりとなる今回の私のチリ訪問を機に、日本とチリの人的往来が改めて活発になることを期待します。

 経済分野については、2007年に発効した日チリEPA等を基盤として、両国間の経済関係は良好に推移し、官民の間には深い信頼が根付きました。チリには多くの日系企業が進出し、チリの銅、サケ、ワイン等が日本に輸出されています。この関連で、本年2月にはチリについてCPTPPが発効したことを心から歓迎するとともに、両国経済関係が一層拡充されることを期待します。

 両国は、地震・津波といった自然災害に見舞われることが多いという意味でも共通点があり、両国の災害対策の経験をもとに、チリを拠点とした防災分野における中南米地域の人材育成に資する、いわゆる「KIZUNAプロジェクト」を実施するなど、防災分野において協力を積み重ねてきています。両国は困難に直面したときも、互いに助け合って克服し、また、災害時の協力・支援等を通じて両国には深い友情が育まれました。

 信頼に基づく友情をさらに深化させ、今後はサプライチェーンの強靱化、クリーンエネルギー開発をはじめ、科学技術面での協力も深めていきたいと考えています。

 さらに、日本とチリの協力は二国間関係にとどまりません。ロシアによるウクライナ侵略により国際社会が歴史的な転換期を迎えている中、両国は、国際場裡においても緊密に協力するかけがえのないパートナーでもあります。

 本年、日本はG7の議長国を務めています。エネルギー・食料安全保障や、気候変動、保健、開発といった地球規模の課題への対応を主導していきたいと考えています。こうした諸課題への対応においては、G7メンバーのみならず、チリを含む国際社会の幅広いパートナーと協力していくことが不可欠です。こうした観点からも、チリとの連携を一層進めて参りたいと考えています。また、世界を分断や対立ではなく協調に導くべく、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けてチリと共に取り組んでいきます。

 日本とチリの間には、まだまだ大きな可能性が秘められています。長年の良好な関係に裏付けられるように、信頼の置ける皆様と力を合わせ、両国の友好協力関係を更に発展させると同時に、国際社会が直面するこの難局を乗り越え、より良い世界の実現に向け一緒に進んでいければと思います。

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