平成19年4月26日
ワシントンを訪問中の安倍総理は、米東部時間4月26日午前11時20分頃から約1時間にわたり、米国連邦議会指導部の議員と下院議長会議室にて会談を行った。
米連邦議会側の出席者は、ペローシ下院議長(カリフォルニア、民)、リード上院多数党院内総務(ネバダ、民)、マッコーネル上院少数党院内総務(ケンタッキー、共)、イノウエ上院議員(ハワイ、民)、スティーブンス上院議員(アラスカ、共)、ホイヤー下院多数党院内総務(メリーランド、民)、ベイナー下院少数党院内総務(オハイオ、共)、ブラント下院少数党院内幹事(ミズーリ、共)、ラントス下院外交委員長(カリフォルニア、民)、レイティネン下院外交委員会共和党筆頭委員(フロリダ、共)、マツイ下院議員(カリフォルニア、民)。
会談は、ペローシ下院議長が司会を務める形で進められた。冒頭、ペローシ下院議長及びリード上院多数党院内総務がそれぞれ歓迎の辞を述べた後、安倍総理より概要以下のとおり述べた。
米国よりマンスフィールド大使、モンデール大使、フォーリー大使、ベーカー大使と、連邦議会の要職を歴任された有力な方々を駐日大使として送っていただいていることを大変有難く思う。日米同盟は、「かけがえのない同盟」であり、揺るぎない同盟関係である。アジアや世界の課題に共に取り組んでいくことが重要である。
朝鮮半島等不安定な要因が依然として存在するアジア地域の平和と安定は日米両国にとって死活的に重要であり、日米安保体制を中核とする日米同盟を一層強化していくことが必要である。北朝鮮、イラク、アフガニスタン等様々な問題に関し、日本は今後とも米国とともに取り組んでいきたい。
日米の経済が世界経済に占める重要性に鑑み、経済面でも関係を強化していきたい。また日米両国には省エネや環境関連の優れた技術があり、環境面でも日米が協力していくことが大事である。
本日は折角の機会なので、慰安婦問題について一言念のために申し上げたい。私の真意や発言が正しく伝わっていないと思われるが、私は、辛酸をなめられた元慰安婦の方々に、個人として、また総理として心から同情するとともに、そうした極めて苦しい状況におかれたことについて申し訳ないという気持ちでいっぱいである。20世紀は人権侵害の多い世紀であり、日本も無関係ではなかったが、そのような認識に立って21世紀が人権侵害のないより良い世紀になるよう、日本としても全力を尽くしたい。
日米間において相互理解を一層深めることが重要であり、イノウエ、スティーブンス両上院議員を始めとする関係者の議員交流活性化に向けた努力を多とする。人的交流を促進していきたい。
その他のやりとりの概要以下のとおり。
(1)出席した議員は一致して、日米同盟の重要性については米議会において党派を超え、また西部はもちろん東部においてもコンセンサスがあり、日本の総理が議会に来られたことを心より歓迎したい、日系企業の米国における大きな雇用創出等の活躍は喜ばしく、また、イラクやアフガニスタンにおける日本の貢献を米議会としても高く評価しており、今後とも日米がこれら国際社会の問題に共に取り組んでいくことが重要であるとの趣旨を述べた。
(2)出席した議員より安倍総理に対し、北朝鮮問題への今後の対応と見通し、日中関係の進展、イランの核問題、スーダンの人権状況の改善といった課題について総理の見解を求めたところ、総理から、北朝鮮に対しては対話と圧力が必要であること、中国が国際社会において責任ある建設的な役割を果たすよう働きかける必要がありその一環として対中国関係改善に努めていること、イランの核問題について懸念を共有しており厳しく対応していること、スーダンの人権状況改善のために努力していること等を説明し、一同、人権を含む国際社会の課題についてこうして日米が共に語り合うことの重要性を確認した。
(3)マツイ下院議員は外交面における日米の連携を誇りに思うと同時に、日米関係はより幅広く文化・芸術・ファッション・スポーツにおいても濃密になっていることは大変喜ばしいと述べ、これを受けて、野球選手の活躍などについて和やかな会話が交わされた。
(4)ペローシ議長は、日本が地球温暖化問題に関し、「中国やインドとの協力を行うためのイニシアティブを発揮していることに敬意を表したい」と述べたのに対し、総理から、低炭素社会を実現しポスト京都議定書を考えていくにあたり、米国やインド、中国と連携を深めていきたいと述べた。
(5)イノウエ上院議員は、日系人として今日の日米関係が良好であることは誠に喜ばしいとして、マンスフィールド元駐日大使が「日米関係は世界で最も重要な二国間関係である」と述べたことに言及した上で、「一つ残念なのは慰安婦問題を巡る米国内の動きであり、これまで7人の日本の総理が謝罪をしているにもかかわらず、こういうことが今後もずっと続くのかと思うと疑問に感じる」と述べた(これ以外に議員の側から、慰安婦問題に関する発言はなかった)。
(6)ラントス下院外交委員長より、「先般、潘基文国連事務総長に会い、日本の常任理事国入りを実現すべく支援してほしいと要請した、自分を含め議会としても日本の安保理常任理事国入りを支持しており、また自分(ラントス下院外交委員長)は、日本が経済や開発援助の分野で国際社会において素晴らしい役割を果たしていることに加え、安全保障面においても日本という大国にふさわしい役割を果たすべきであり、そのために憲法を改正しようとされる安倍総理の方針を強く支持している」と述べた。
最後にペローシ議長より、「上下両院の指導部が超党派で一堂に会して他国の総理にお会いするというのは、非常に稀(unusual)なことであり、これは、ここに出席している議会指導部の安倍総理に対する敬意の顕れであるし、また日米関係を更に強化したいという強い思いの顕れであると思う」と述べ、会談を了した。