安倍総理大臣

安倍総理の欧州訪問における内外記者会見

平成19年1月13日

 1月13日10時10分(現地時間)より約25分間、安倍総理は、欧州諸国訪問に関する内外記者会見を行ったところ、概要以下のとおり。

1.冒頭発言

 今回、国際社会における重要なパートナーであるイギリス、ドイツ、ベルギー、そしてフランスを訪問した。各国の首脳と大変有意義な会談を行うことができた。また、ベルギーを訪問した際に、欧州委員会及び北大西洋条約機構本部を訪問した。
 我が国は、志を同じくする国々と共に、自由、民主主義、基本的な人権、法の支配といった基本的価値に基づく自由で繁栄した世界を支えていく。それこそが日本の国益であり、そして、責任でもあるという、この考え方のもとに立って、今回の訪問では、欧州各国首脳との信頼関係を構築するとともに、二国間関係の枠を超えて、国際社会が直面するさまざまな課題に対して、日本と欧州がともに取り組んでいく、貢献をしていくことで一致した。そのことは、大きな成果であったと思う。価値を共有する国が国際社会において協力することの重要性を認識した。そして日本と欧州は、その意味において重要なパートナーであるという認識を持ったことは有意義であったと思う。
 我が国総理大臣として初めてNATO本部を訪問し、世界の平和と安定のために我が国とNATOとの協力関係を強化していくことの必要性を訴える政策スピーチを行い、各国代表より賛同が得られた。このことは有意義であり、日本のこれから目指していく道について理解が得られ、支持が得られたと思う。
 個々の課題について、北朝鮮について、ミサイル発射、核実験が、我が国や、東アジアのみならず国際社会全体の平和と安定に対する脅威である、そしてまた、これらの問題の解決のために国際社会が一致協力して安保理決議第1718号に基づく措置を実施し、北朝鮮に国際的な圧力を加え続けることが重要であることについて首脳間の間で意見の一致を見ることができた。
 また、北朝鮮による拉致問題は重大な人権の蹂躙であり、国際社会全体に広がりを持つ問題であること、したがって国際社会が一致してこの問題の早期解決に取り組む必要があるとの我が国の立場を強調し、各国の支持を得ることができた。
 安保理改革については、私はこれに積極的に取り組んでいくとの日本の意志について述べ、説明し、各国の首脳から理解と支持を頂くことができた。
 アフガニスタン、イラク、中東等における国際社会の平和と安定に影響を及ぼす重大な課題については、日欧が一層連携して対応していくことで一致をみた。
 さらに、エネルギー・気候変動、アフリカの開発といった人類社会の将来にかかわるグローバルな課題、WTOドーハ・ラウンド交渉についても、協力を推進していくことで一致した。
 このように、今回の訪問では、幅広い諸課題の解決に向けて、目的と責任を共有する戦略的なパートナーである欧州諸国との間で連携を一層強化することができた。各国の首脳との間で信頼関係を構築をすることができた。大変有意義で、実り多い、今回の訪欧であったと思う。
 この5日間にわたり、訪問した国々、また、国際機関において、大変暖かい歓迎を頂いたことに対し、それぞれの関係者の皆様に、またそれぞれの国民の皆様に対し、心から感謝と御礼を申し上げたい。

2.質疑応答

(問)総理は一連の会談で、日本の安全保障に直接関わる問題として、北朝鮮の核・ミサイル開発・拉致、さらには中国への武器禁輸解除問題について、これまで以上に日本の立場を強く主張された。こうした日本の立場が、各国首脳よりきちんと理解されたかどうか、総理の感想及び一連の会談の評価を伺いたい。

(総理) 基本的な価値を共有する日本と欧州が協力して、世界に存在する諸課題に対応していくこと、これは地域の発展或いは世界の平和と安定のために極めて有意義であると考えている。そしてまた、このような考えについて、欧州各国から理解を得ることができたと思う。
 北朝鮮のミサイル発射、核問題、そして、さらには拉致問題は、日本と北朝鮮との問題だけはでなく、そしてまた、東アジアの問題だけではなく、大量破壊兵器の不拡散体制への脅威、そしてまた、拉致問題の世界への拡がりという観点から、世界全体で取り組んでいくべき問題であり、また、世界全体で取り組むことで初めて、解決に向けて進んでいく問題であると思う。
 そういう意味において、今回、この北朝鮮に対してかけるべき圧力をかけていく、安保理決議第1718号の実効ある処置を行っていくことの重要性、EUの国々がそれを早期に実施をしていくことの重要性について訴え、理解を得ることができたと思う。それは、北朝鮮に対して、大きな更なるプレッシャーになると思う。
 そしてまた、中国についてであるが、中国の発展は、日本だけではなく世界にとり大きなチャンスであると思う。それと同時に、私は昨年10月に中国を訪問し、両国間を「戦略的互恵関係」のレベルに引き上げていく、「戦略的互恵関係」を共に築いていくことで一致を見た。一方、中国においては、軍事費が年々増加している。そして、軍事の近代化においても不透明性が指摘されているところであり、対中武器禁輸解除については、アジアの安全保障環境に対する影響についての懸念があり、我々は反対の立場を説明した。このように、我々は主張すべき点は主張する。我が国の国益だけではなく、地域や世界の発展と平和と安定に資するとの考え方、信念の下に、主張すべき点は主張していかなければならないと思う。今回はそういう意味で、主張する外交が展開できたのではないか、そして多くの国々から、理解と賛同を得ることができたのではないかと思う。

(問)今次欧州訪問は欧州にとり大変名誉なことである。何故ならば、今回の欧州訪問はワシントン訪問の前に行われたからである。スケジュール上の都合かもしれないが、私はやはり欧州に対する総理の信頼の表れであると思い大変喜んでいる。2番目に、我々は、ゆっくりとではあるが、あるプロセスが進んでいると考えている。それは、欧州をモデルとしたアジア地域での共同体の構築である。これに関して、どのようなにお考えか。また、如何なるプライオリティを有しておられるか。

(総理)私が今年初めての訪問先として欧州を選んだのは、日本と欧州の関係を重視しているからである。日本と欧州はともに長い歴史と文化、美しい自然を持ち、そして基本的な価値を共有している。私は、その国々と連携していくことの重要性を認識している。その認識のもとに今回それぞれの国々、また、2つの機関を訪問した。私は、この後、フィリピンのセブ島で開かれる東アジア・サミットへの参加を予定している。東アジア・サミットの際には、同時にASEAN+3の会合も開かれるが、東アジア・サミットはこのASEAN+3に豪州、ニュージーランド,インドを加えたものである。豪州、インド、ニュージーランドは、それぞれ基本的価値を共有している国々でもあるが、私は自由な社会の輪をアジアにも広げなければならないと考えている。それと同時に、アジアの強固な連携を構築する上において、日本も貢献していかなければならないのであり、その役割を果していきたいと考えている。
 現在、このアジアの中において、EPA,FTAが結ばれつつあり、経済的な連携を強めつつある。さらにそれを高めていくために欧州の経験は大変有意義であると考える。その意味でASEMの会合もあり、また、日EUが連携しながら、その意味でアジアをより発展させていく共同体的な連携を目指していかなければならないと考えている。

(問)外交安全保障体制の強化という意味で、NATO本部での演説でも触れていたが、自衛隊を海外に派遣するための法律、それから、いわゆる日本版NSCの創設についてどのような方針で臨むのか、また、必要な法整備のスケジュールについてどのように考えているか。

(総理)私は、外交・安全保障において万全を期すために、私もその責任者としてその責任を果たすためにも、政治の強力なリーダーシップにより、国家戦略を迅速に決定し、そして様々な事態に対処するために、その仕組みを構築することが大切ではないかと思っている。それと同時に、国際社会で起こる様々な出来事に対して、迅速に機動的に対応していくことも必要であり、国際社会から求められている日本の貢献を適時的確に行っていくことのできる仕組みを構築することも検討しなければならないと考えている。
 現在、私を議長とする「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」において、外交安全保障に関する官邸の司令塔機能を再編・強化するための施策について検討している。本年2月中に取りまとめが行われる予定であるが、この会議の意見も踏まえて、必要な措置を講じていきたい。政治のリーダーシップにおいて、外交安全保障に関する政策の立案、迅速な対応、的確な判断、そうした機能を強化していきたいと思う。
 また、国際平和協力のための「一般法」については、世界において責任を果たしていく、役割を果たす国になっていかなければならないという観点から、国民的な議論を十分に踏まえた上で検討をしていくべき課題であると認識しているが、具体的な日程については、現時点において、まだお答えできる段階にはない。

(問) ロシアのエネルギー政策について、今回各国首脳との会談で議論になったと聞いているが、G8サミットのメンバーでもあるロシアに対し、エネルギー安全保障の分野でどのような責任を果たしてもらいたいと考えているか。

(総理)昨年11月に私はプーチン大統領と会談を行った。日本は日露関係を重視していることを申し上げた。日本とロシアについては、共通の戦略的利益に基づくパートナーシップを構築していくことで一致した。このロシアが、さらに自由、民主主義、法の支配といった基本的価値を有する真のパートナーとなり、国際問題において建設的な役割を果たすことは国際社会においても重要であろうと思う。エネルギー問題であるが、エネルギー安全保障は極めて重要な問題である。この後の東アジア・サミットでも議論することになっているが、エネルギーの問題については、各国がそれぞれ国際社会の中において責任ある役割を果たすことが大切であろう。特に供給国には、その責任が求められている。昨年のサンクトペテルブルグにおいて、G8はエネルギーを政治目的に使わないことで合意した。ロシアにおいても、先ほど述べた通り、供給国としての責任をよく自覚し、果たして頂きたい。需要国の立場に十分配慮した行動をとることを期待したいと思う。

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