岡田外務大臣

岡田外務大臣のロシア訪問

平成21年12月28日

  • 日露外相会談
  • 大臣のロシア訪問

 12月27日及び28日、岡田大臣はモスクワを訪問し、ラヴロフ外務大臣と日露外相会談を行うとともに、フリステンコ産業貿易大臣と貿易経済に関する日露政府間委員会共同議長間会合を実施し、さらに、ナルィシュキン大統領府長官とも会談した。これら一連の会談の結果概要は以下のとおり。

【ポイント】

  • 外相会談において、岡田大臣から、鳩山政権として政治と経済を車の両輪のように前進させたい、日露行動計画に基づき日露関係が進む一方、領土の帰属の問題について目に見える進展がない、領土問題について具体的な前進が図れるよう外相レベルでも努力しなくてはならない、帰属の問題に関し、56年宣言では最終的な解決にはなり得ず、ロシア側の積極的な対応を求めたい旨発言。
  • ラヴロフ外相は、ロシア外交にとって日本との外交は優先事項であると説明しつつ、領土問題に関し、人為的に解決を遅らせるつもりはない、国際法及び第2次大戦の結果を踏まえる必要があると述べつつ、ロシア側の原則的立場を説明。
  • 岡田大臣からは、メドヴェージェフ大統領、プーチン首相、鳩山総理という顔ぶれが揃っている機会を逃さずに前進を目指すべき、特に外相同士でしっかり取り組むべきと指摘。
  • 両大臣間で、日露間でアフガニスタンの平和と安定に向けた対話を開始することで一致。また、日露戦略対話の早期開催で一致。
  • 貿易経済に関する日露政府間委員会共同議長間会合では、プーチン首相が言及した極東・東シベリア地域での日露協力が期待される各種プロジェクトを中心とする協力の可能性を検討していくため、政府間委員会の下に、両議長の直接の監督の下、新たに次官級の貿易投資分科会を立ち上げることで一致。
  • 岡田大臣とナルィシュキン長官の会談では、領土問題の交渉加速の必要性で一致。岡田大臣から、日露間の領土問題を解決することを唱えた故ソルジェニーツィン氏の一節を紹介。

1.日露外相会談(28日、午前10時半から午後1時)

(1)日露関係に関する基本的考え方(領土問題を含む)

  1. (イ)岡田大臣からは、鳩山政権として、政治と経済を車の両輪のように前進させたい旨述べると同時に、両首脳の間で確認されたところにしたがい、領土問題について具体的な前進を図りたい旨述べた。
     これに対し、ラヴロフ外相からは、ロシア外交にとって日本との外交は優先事項である旨述べ、2003年1月に採択された「日露行動計画」は依然有効であり、同計画に従って日露関係の発展を目指したい旨述べた。

  2. (ロ)岡田大臣からは、日露行動計画に基づき日露関係が進む一方、領土の帰属の問題について目に見える進展がないことが問題であることを強調し、両首脳が具体的前進を図れるよう、両外相で努力していく重要性を指摘した。その上で、帰属の問題に関し、56年宣言では最終的な解決にはなり得ない旨述べ、ロシア側の積極的な対応を求めた。
     これに対し、ラヴロフ外相は、領土問題に関し、1)人為的に解決を遅らせるつもりはない、2)国際法及び第2次世界大戦の結果を踏まえる必要がある、3)メドヴェージェフ大統領にもプーチン首相にも、双方に受入可能な解決策を模索する政治的意思がある、4)今回の協議で一時期双方に見られた感情的なやり取りに終止符が打たれることを期待する旨述べた。

  3. (ハ)これを受け、岡田大臣からは、日露関係は本来もっと豊かな関係であるべきであるのに、領土問題があるが故に、日露間で本当の信頼関係や交流が深まらないことは惜しい旨述べ、今議論すべきなのは四島の帰属の問題である、メドヴェージェフ大統領、プーチン首相、鳩山総理という顔ぶれが揃っている機会を逃さずに前進を目指すべき、そのために外相同士でしっかりと議論していきたい旨述べた。

(2)アフガニスタンの平和と安定に向けた日露対話の開始

 両大臣は、テロの脅威に対処し、アフガニスタンの国造りを支えるために、周辺諸国による協調された努力が重要であり、日露間でもアフガニスタンの平和と安定に向けた対話を開始することで一致した。

(3)今後の政治対話

 日露戦略対話(次官レベル)を来年早々に開催することで一致。

(4)国際情勢

  1. (イ)北朝鮮問題に関し、ラヴロフ外相から、最近北朝鮮側に軟化の兆しが見られ、近く対話が再開される可能性があるのではないかとの見方が示された。拉致問題について、日本側の立場を良く理解しているとの発言があった。

  2. (ロ)イランの核問題に関し、ラヴロフ外相から、制裁の有効性については懐疑的に見ているが、今後、イラン側の対応次第では、制裁について国連で追加的な議論が行われることとなる場合には、ロシアとしても議論に応じる用意がある旨の発言があった。

2.フリステンコ産業貿易大臣との貿易経済に関する日露政府間委員会共同議長間会合(27日、午後7時50分~10時20分)

(1)両大臣は、極東・東シベリア地域において日本との協力を期待する各種プロジェクトを中心に協力の可能性を検討するために、政府間委員会の下に、両議長の直接の監督の下、新たに次官級の貿易投資分科会を立ち上げることで一致した。

(2)両大臣は、省エネ協力に関する日本ロシア共同委員会(注)が設立され、来年3月に第1回会合が開催されることを歓迎した。
 (注)本年5月のプーチン首相訪日時に署名された「エネルギー効率の向上及び再生可能エネルギーの利用の分野における協力に関する日露エネルギー当局間の覚書」に基づき設立。

(3)岡田大臣から、ロシアによる自動車輸入関税引き上げなどの保護主義的措置の改善を求めるとともに、ロシアにおける企業活動環境の改善について、メドヴェージェフ大統領も年次教書演説において指示している各種手続の簡素化を申し入れた。これに対し、フリステンコ大臣は、保護主義的措置は、あくまで暫定的なものであり、安定的に解除出来る方策を検討していく旨述べた。


3.ナルィシュキン大統領府長官との会談(28日、午後1時20分~午後2時)

(1)ナルィシュキン長官から、「鳩山政権と手を組んで、鳩山政権の間に日露関係を大きく前進させたい」との鳩山総理へのメッセージがあった。また、同長官から、今年に入って首脳レベルで集中的に対話が行われていること自体、日露関係の重要性・戦略的意味を示している、との発言があった。

(2)岡田大臣から、ナルィシュキン長官が先般鳩山総理を表敬した際に、ロシアの世論が厳しいことを指摘したことに関連し、故ソルジェニーツィン氏(注)が著書「廃墟のなかのロシア」の中で、ロシアが東の友人を得るために日本との領土問題を解決することがロシアの利益になると訴えていることを紹介し、参考までに別添資料をナルィシュキン長官に手交した。また、右をメドヴェージェフ大統領にも伝えるよう述べた。
 (注)ロシアの愛国者として広く知られる。メドヴェージェフ大統領が最近スターリンの政治弾圧を批判する中で同氏の言葉を引用。

(3)岡田大臣から、両首脳は自分達の世代で領土問題を解決したいという強い思いを有しており、こうした思いを実現するためにしっかりと努力したい旨述べると同時に、交渉を加速するためには両首脳のリーダーシップが必要である旨を指摘した。これに対し、ナルィシュキン長官は、すべての関係者が領土問題の作業を加速しないといけない旨述べた。


(別添)ソルジェニーツィン氏の著作「廃墟のなかのロシア」(1998年)における日露関係に関する記述(抜粋)

 「我が政権は交代したが、南クリル諸島(千島列島)の問題に対しては一貫した態度をとってきた。しかしこの態度は、あまりにも愚かで、許しがたいものである。ロシア人のものである何十という広大な州をウクライナやカザフスタンに惜しげもなく譲渡し、80年代末からは我が政権は国際政治の舞台でアメリカに取り入ってきた。それなのに、他に例を見ないようなエセ愛国主義の意固地と傲慢から、日本に千島列島を返還することは拒んできている。これらの島がロシアに帰属していたことは一度もなかったし、革命以前にロシアが所有権を主張したことは一度もなかった(ゴロヴニン艦長は19世紀初頭に、プチャーチン提督は1855年に、現在日本が主張している国境を認めていた。1904年に日本の攻撃を受け、国内戦のときには干渉されたから、ロシアは侮辱を受けてきたのだという弁解をするのなら、1941年に締結された5年期限の「中立」条約を破って、ソ連が日本を攻撃したことは、いったい侮辱に当たらないとでもいうのだろうか)。ロシアの未来がかかっているかのように、これらの島を抱えこんで放さない。国土の狭い日本がこれらの島の返還を要求するのは、国家の名誉、威信に関わる大問題だからである。周辺の漁業資源の問題をはるかに超えた問題なのだ。漁業資源の問題なら協定を結べばよい。来るべき世紀で、ロシアが西にも南にも友人を見つけられず、ますます窮屈な思いをすることになるとすれば、この充分に実現可能と思われる善隣関係、さらには友好関係を斥ける理由は何もない。」

(草思社出版「廃墟のなかのロシア」からの該当箇所の抜粋)

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