地球環境
オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書
第28回締約国会合(MOP28)
1 全体概要及び評価
- (1)10月10日から14日にかけて,ルワンダ・キガリにおいて,モントリオール議定書第28回締約国会合(MOP28)が開催され,我が国からは,外務省,経済産業省,環境省の関係者が出席した。
- (2)今次会合において,ハイドロフルオロカーボン(HFC)の生産及び消費量の段階的削減義務等を定める本議定書の改正(キガリ改正)が採択された。改正議定書は,20か国以上の締結を条件に2019年1月1日以降に発効する。なお,HFCはオゾン層破壊物質ではないが,その代替として開発・使用されており,かつ温室効果が高いことから,本改正議定書の対象とされたものである。
- (3)我が国は,温暖化対策を含む地球環境保全の観点から,HFC削減を重要な課題と認識。本議定書の改正には,これまで特に米国等が熱心に取り組んできているところ,我が国が議長国を務めた本年5月のG7伊勢志摩サミットでの首脳宣言には,本件改正議定書の本年中の採択を支持する旨記載される等,我が国も主要先進国の一員として各国と協調のもと,議論に積極的に参画してきた。
- (4)この度のMOP28において,先進国と開発途上国の双方によるHFCの生産・消費の段階的削減を内容とする本議定書改正が採択されたことは,我が国としても評価。
2 キガリ改正の採択
(1)改正の内容
- ア HFCの生産及び消費量の段階的削減義務として,(ア)先進国においては,2011-2013年の平均数量等を基準値として,2019年から削減を開始し,2036年までに85%分を段階的に削減,(イ)開発途上国においては,(1)第1グループ(中国・東南アジア・中南米・アフリカ諸国・島嶼国等,第2グループ以外の開発途上国)は2020-2022年の平均数量等を基準値として,2024年に凍結,2045年までに80%分を段階的に削減,(2)第2グループ(インド・パキスタン・イラン・イラク・湾岸諸国)は,2024-2026年の平均数量等を基準として,2028年に凍結し,2047年までに85%分を段階的に削減する。
- イ 本議定書の下で既に規制対象となっているオゾン層破壊物質と同様に,HFCについて,貿易規制,生産・輸出入量に関する定期報告等を実施する。
- ウ 上記に加え,本議定書の規制対象物質であるハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)生産過程において発生するHFC23(HFCの一種)を,2020年1月以降,MOPで承認された技術を用いて破壊する。
開発途上国 第1グループ(注1) |
開発途上国 第2グループ(注2) |
先進国(注3) | |
---|---|---|---|
基準年 | 2020-2022年 | 2024-2026年 | 2011-2013年 |
基準値 (CO2換算) | 各年のHFC量の平均+ HCFCの基準値の65% | 各年のHFC量の平均+ HCFCの基準値の65% | 各年のHFC量の平均+ HCFCの基準値の15% |
凍結年 | 2024年 | 2028年(注4) | なし |
第1段階 | 2029年 -10% | 2032年 -10% | 2019年 -10% |
第2段階 | 2035年 -30% | 2037年 -20% | 2024年 -40% |
第3段階 | 2040年 -50% | 2042年 -30% | 2029年 -70% |
第4段階 | 2034年 -80% | ||
最終削減 | 2045年 -80% | 2047年 -85% | 2036年 -85% |
- (注1)途上国第1グループ:開発途上国であって,第2グループに属さない国
- (注2)途上国第2グループ:印,パキスタン,イラン,イラク,湾岸諸国
- (注3)先進国に属するベラルーシ,露,カザフスタン,タジキスタン,ウズベキスタンは,規制措置に差異を設ける(基準値について,HCFCの算入量を基準値の25%とし,削減スケジュールについて,第1段階は2020年に-5%,第2段階は2025年に-35% 削減とする)。
- (注4)途上国第2グループについて,凍結年(2028年)の4~5年前に技術評価を行い,凍結年を2年間猶予することを検討する。
- (注5)全ての締約国について,2022年,及びその後5年ごとに技術評価を実施する。
(2)期待される効果
今次MOP閉幕に際し,本議定書事務局(オゾン事務局)から,今世紀末までのHFC由来の地球全体の平均気温上昇は摂氏約0.5度分となる推計であったところ,本改正議定書が着実に実施されることにより,この上昇が0.06度分まで抑制可能となるとの推計が紹介された。
(3)その他の関連する議論
- ア エネルギー効率に関する調査及び情報収集を内容とする決定が,モロッコ及びルワンダにより提案され,「エネルギー効率に関するキガリ宣言」として採択された。
- イ 改正採択に際し,HFC削減開始時期を第1グループの途上国の凍結期日よりもさらに前倒しし,2021年とする意思があることが,ミクロネシアにより提案され,マーシャル等の島嶼国,メキシコ,コスタリカ,チリ等の中南米諸国,及びモロッコ等のアフリカ諸国の支持により,「ミクロネシア宣言」として表明された。
3 本議定書の実施に係る議論
(1)不可欠用途申請
臭化メチルの不可欠用途申請について,2017年についてはオーストラリアからの申請数量が, 2018年については,アルゼンチン,カナダ,中国及び南アフリカからの申請数量が,技術経済評価パネル(TEAP)の臭化メチル技術選択肢委員会(MBTOC)の勧告に基づき承認された。
四塩化炭素について,中国から研究分析用途の不可欠用途の申請が提出され,TEAPの医療・化学物質技術選択委員会(MCTOC)の勧告に基づき承認された。
(2)HCFC段階的廃絶に関する問題
先進国における,(ア)2020年以降のHCFCの不可欠用途の可能性と必要性,(イ)2020年から2030年の期間におけるHCFC全廃後の0.5%のサービス用途の必要性,及び(ウ)2020年以降の開発途上国の国内の基礎的な需要を満たすための生産枠の見直しに関し,TEAPに対し調査報告作成を要請すること等が決定された。
(3)冷媒の安全性基準に関する問題
冷蔵冷凍空調製品及び機器での,可燃性冷媒を含む代替物質の使用に係る国際安全性基準に関連する基準設定機関との連携及び調整を促進する目的で,TEAPによるタスク・フォースを設置すること,及び2017年に,地球温暖化係数の低い物質代替の使用に係る安全性基準に関するワークショップを開催すること等が決定された。
(4)四塩化炭素(CTC)の大気放出量の観測値と報告データの齟齬の分析
CTCの生産・消費量の報告値と大気中の濃度の観測値との乖離に係るTEAP及び科学評価パネル(SAP)の報告が提出された。
(5)民間航空機分野のハロンに関する報告
航空機用途のハロンの再生方法,民間航空機用途のハロン需要に対する供給方法,及び民間航空機用途ハロンの転換促進に向けた国内政策に関する締約国からの情報について,TEAPによりとりまとめた報告が提出された。
4 次回MOPの予定
次回第29回締約国会合(MOP29)は,2017年,カナダ・モントリオールで開催される予定。