寄稿・インタビュー
毎日新聞による河野外務大臣インタビュー
(2018年12月26日付)
「途上国支援のあり方」
世界経済が減速する一方,紛争地などで人道危機が拡大する中,先進国による途上国支援のあり方が問われている。外務省の有識者懇談会は先月末,政府開発援助(ODA)の効率化のために非政府組織(NGO)の活用を盛り込んだ提言をまとめた。日本の援助外交はどうあるべきか。河野太郎外相(55)に聞く。【聞き手・福島良典】
【NGO参入後押し ODAに競争原理】
【問】ODAに関する有識者懇談会(座長・伊藤伸「構想日本」総括ディレクター)は11月28日,NGOの財政基盤強化や民間資金の活用などを盛り込んだ提言を河野外相に提出しました。提言内容をどう政策に反映させていく考えですか。
【河野外務大臣】なるべく多くの提言を政策に生かしていきたい。例えば,ODA案件を実施するNGOには経費のうち(人件費や事務所家賃などに使える)「一般管理費」5%が認められているが,「5%だと足が出てしまう」という声が前々から寄せられていた。これを15%に引き上げようと思っている。一律引き上げではなく,透明性を確保し,きちんと対応できるNGOに対して15%を認めていきたい。
私自身,「NGOを『ODAの担い手』として育てていきたい」との問題意識を持っていた。ODA案件をNGOにもっと担ってもらわないといけないので,来年度のNGO関連予算を(今年度の約70億円から)約100億円に増やしたい。日本の技術や技能,知識を途上国に伝える「技術協力」は国際協力機構(JICA)が実施するものとみなされてきたが,その分野にもNGOに参入してもらい,「競争」が生まれてもいいのではないか。ODAの多様な担い手を作っていきたい。
【問】提言は「分野別,地域別の戦略的なシフトを明示することが重要」と指摘しています。安倍晋三政権は「自由で開かれたインド太平洋構想」を掲げています。今後,ODAの実施にあたり,どの地域に重点的に取り組みたいと考えていますか。
【河野外務大臣】日本はこれまでアジアの発展に力を入れてきた。自由で開かれた海▽法の支配▽(アジアとアフリカをつなぐ)連結性の向上▽海上法執行能力の強化――などを考えると,インド太平洋地域が大きなカギになる。特に来年はアフリカ開発会議(TICAD)が8月に横浜で開催されるので,アフリカに光を当てる。また,外相就任以来,中東外交に力を入れてきた。アフリカ,中東はしっかり見ていくべき地域だ。
【問】「米国第一主義」のトランプ政権は国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)や国連人口基金(UNFPA)などへの資金拠出を停止しました。米国が抜けた「穴」をどう埋めますか。
【河野外務大臣】米国の抜けた「穴」は相当大きかった。米国には「UNRWAに戻ってきてほしい」と何度も呼びかけたが,残念ながら理解を得られていないのが現状だ。
日本は今年,史上最高額の約4500万ドル(約50億円)をUNRWAに拠出した。また,今年9月にニューヨークの国連本部で開催されたUNRWA支援の閣僚級会合では「日本に共同議長をやってほしい」と声が上がったので,共同議長を務め,関係国に資金拠出の協力を呼びかけた。ペルシャ湾岸諸国が資金を出し,欧州諸国も協力してくれた。
これによって当面の危機は回避できたが,(米国からの資金拠出停止は)来年以降も続くので,米国が戻ってくるまでは米国分を何とかしなければいけない。「中期的にどう資金を集めるか」をしっかり考えていこうと,さまざまな国と話し合いをしているところだ。UNRWAが安定的に事業を実施できるよう日本は先頭に立って応援していきたい。
【問】日本は対中ODAを終了し,10月の日中首脳会談では第三国への経済協力を後押しすることで合意しました。どのような分野・国での協力を想定していますか。
【河野外務大臣】アフリカからアジア,島しょ国にかけてインフラ(社会基盤)整備の需要は非常に大きい。国際水準を満たした「質の高いインフラ」であれば協力できるのではないかと考えている。透明性,開放性,経済性,債務持続可能性などの基準を見極めた上で,当てはまる事業があれば協力する余地はある。
【問】貧困や飢餓の撲滅などを目指して,2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)を目標期限の30年までに達成するには資金が足りません。来年6月には大阪で主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれ,SDGsも議題になる見通しです。
【河野外務大臣】先進国に「援助疲れ」が見え,日本のようにODAを増やす財政上の余地がない国も多い。SDGsの達成には毎年約2兆5,000億ドル(約280兆円)もの資金が不足すると試算されている。難民・国内避難民は第二次世界大戦後で最多の約7,000万人に達し,気候変動の影響もあって自然災害も増えている。難民・避難民,被災者への人道支援には「瞬発力」が必要だ。今までと違う「革新的な資金調達」を行わないといけないだろう。
国連総会,アジア太平洋経済協力会議(APEC)などの席上,人道支援のための「国際連帯税」を議論しようと呼びかけ,前向きな反応を得ている。グローバリゼーションの恩恵を受け「光」が当たった人たちに,それを少し「影」に分けてもらうことをお願いしてもいいのではないか,という考えだ。具体的には,世界中で行われている巨額の為替取引に対して極めて薄い税率をかけ,徴収した資金を国際機関に投入して人道支援に直接使ってもらえるようにする――などだ。為替取引に限らず,国際社会が知恵を合わせ「革新的な資金調達」のメカニズムについてさまざまなアイデアを出し合おうと提案しており,日本として国際的な議論のリーダーシップを取っていきたい。
【「情け」日本のため 国民の理解求める】
【問】日本記者クラブでの記者会見(12月19日)では「なぜ,この時期に(ODAで)海外にカネを出さないといけないのか」という国民の批判に触れました。
【河野外務大臣】世界の貧困を撲滅することは,暴力的な過激主義やテロリストの発生を抑えることにもつながる。エボラのような感染症への対策は発生国で抑え込むことによって,日本に入ってくるのを防ぐことができる。「情けは人のためならず」。「回り回って,日本の国民にも影響があることなのだ」ということをきちんと説明していかないといけないと思う。
日本も東日本大震災の時に諸外国から支援してもらった。ODAを提供した国々が「ここぞ」とばかりに応援してくれた。「困っている時のお互い様」という側面もある。ODAの重要性を国民に理解してもらう努力をさまざまな形で行っていかないといけない。
【問】ODAに限らず外交政策には国民の支持が必要ですが,先日の記者会見で日露平和条約締結交渉に関する質問に「次の質問どうぞ」と繰り返した応答が批判を受けました。水面下で行われる外交交渉と,国民の知る権利の間には,「二律背反」の面もあります。外交活動と世論の支持をどう両立させるつもりですか。
【河野外務大臣】外交活動は積極的に広報すべきだと思っているが,外交交渉は全く別物だ。野球の試合をする時に「次の球は内角高めの直球」と言ってボールを投げるピッチャーはいない。
日露は立場が違うため数十年にわたり平和条約が結べなかったが,(安倍首相とプーチン大統領の)首脳同士が合意して(締結交渉を)加速化することになった。立場が違う両国が納得できるものを作らなければならない。
北方領土問題を解決して平和条約を締結することになっている。領土問題はいかなる国のどんな領土でも,やはり世論がヒートアップするわけで,それが交渉に影響を及ぼすことにならざるを得ない。それは日本にとって好ましい状況を作り出さないと思っている。交渉に影響を及ぼすようなことは避けないといけないと思っている。
私の発言の一部分が切り取られて報道されれば,日本国内だけでなく,ロシアにも伝わる。切り取られた発言についてロシアの政治家なりがコメントを求められれば,当然,向こうも発言しなければならなくなる。すると,さらに,それが世論に影響を及ぼすという事態になる。それは避ける必要がある。
他方,ODAのような外交活動は国民の理解を得なければ「持続可能性」がなくなる。「こういう事業をこういう目的のために,いくらいくらの金額を投じて実施し,成果はこうだ」と丁寧に説明をする必要がある。
【問】大きな国際会議の国内開催も予定され,日本外交の正念場となる来年。どのように外交のかじ取りにあたりますか。
【河野外務大臣】来年は(日露)平和条約締結交渉がある。日韓関係をしっかりと維持していかなければいけない。北朝鮮についても核・ミサイル,拉致問題を一歩でも前に動かしたい。そして,日中関係はさまざまな文脈の中で最も気を使わなければいけない。中東外交も先手先手で対応していかなければいけない。
日本は軍事力を外交に使わない。ODAは1997年度のピーク時(1兆1687億円)から(5538億円に)半減している。そうした状況下,「裸の外交力」を高めていくことが大事だ。外交は「オールジャパン」だが,中でも,外務省に人材を集めて磨きをかけ,活用することが必要だ。それができる体制を作っていかなければならない。