経済外交

令和4年7月12日

1  医薬品アクセス

 新ラウンドの途上国関連問題の一つ。
 アフリカ等途上国を中心とした感染症(特にHIV/AIDS、マラリア及び結核)の蔓延を背景に、特許制度により医薬品が高価になったり、コピー薬の生産・使用・輸入等が制限される結果、医薬品へのアクセスを阻害しているとの指摘がなされてきている。
 これに対し、先進国は、TRIPS協定をはじめとする知的所有権制度に関する対処だけですべてが解決可能なわけではなく、これらはあくまでも総合的対策の一つの側面にすぎないことに留意すべきであり、医薬品開発の促進のためには特許制度は必要である旨主張してきている。
 感染症に対する社会的関心の高さもあり、ドーハ閣僚会議において「TRIPS協定と公衆の健康に関する宣言」が採択され、特に医薬品生産能力のない国への対策について検討することとされている。途上国関連問題の中でも一つの象徴的な問題となっている。

2  S&D

 「Special and Differential treatment(特別のかつ異なる待遇)」を指し、WTO協定の文言上、途上国やLDC諸国に対して「特別」または「(先進国とは)異なる」扱いを認めているもの。
 具体的には、義務の免除や緩和、技術協力を途上国に与える条項などが各協定にS&D条項として存在している。途上国はこういった条項を義務的なものに改定することでより使いやすい条項になるとして、協定改定や新たな解釈を行うべきを主張している。

3  オファー

 自由化のための約束を提示すること。
 ラウンドの過程で、各分野において、それぞれの国・地域が自由化出来る分野・程度を示した(オファーした)後に、各国のオファーを交渉によって改訂し(自由化水準を引き上げ)ていき、ラウンド終結までに全ての加盟国・地域と合意する。(13.「サービス貿易上の初期オファー」の項も参照)

4  関税評価

 関税の課税標準となるべき価格(課税価格)を決定すること。WTO関税評価協定においては、「輸入貨物の取引価額、すなわち、貨物が輸入国への輸出のために販売された場合に現実に支払われた又は支払われるべき価格」であると定義されている。

5  キャパシティ・ビルディング

 途上国の能力構築。
 現在、途上国はWTOのルールや規律を遵守する上で、さまざまな困難に直面しており、このことが新ラウンド交渉への参加を躊躇する原因になっている。しかし、新ラウンドの成功には途上国の積極的参加が不可欠であるため、途上国に対し、協定についてのセミナーの開催、産業育成・中小企業人材育成としての研修員の受け入れや専門家の派遣等の技術支援を行うことによって、途上国が交渉に参加できる能力をつけていくことが必要となっている。

6  強制実施権

 本来特許発明の使用には特許権者の許諾が必要であるが、一定の条件下において特許権者の許諾を得なくても特許発明(例えば医薬品)を使用する権利を第三者に認めることができる場合がある.
 このような権利を強制実施権という。ドーハ閣僚会議の宣言では、HIV/AIDS等も強制実施権を認める際の条件となり得るとなっている。

7  グリーン補助金

 補助金協定上にグリーン補助金という言葉は使われていないが、同協定の第四部に規定されている「相殺措置の対象とならない補助金」を指す。
 原則として、他の加盟国から対抗措置を打たれることがなく、基本的に自由に交付できる補助金であるが、WTO協定発効日より5年間の暫定的な適用であったため、1999年末で失効した。

8  原産地規則

 国際的に取引される物品の原産国を決定するための規則。一般特恵制度や自由貿易協定による特恵税率を適用する場合に用いる特恵原産地規則と、WTO協定税率やアンチダンピング税などの非特恵分野での税率適用のために用いる非特恵原産地規則がある。

9 国内助成

 農業分野での補助金や価格支持(農産物価格を一定の水準に維持する政府の政策)を指す。WTO協定上は、信号機のように、削減対象外の「緑」、一定の条件下で削減対象外の「青」、削減対象の「黄」に分類される。「黄」の政策に伴う助成額はAMS(Aggregate Measurement of Support:助成合計量)とも呼ばれ、ウルグァイ・ラウンド合意では作物毎のAMSを合計したトータルAMSを基準とし、右を6年間で20%削減することとされた。

10  シークエンス問題

 「シークエンス」とは紛争解決の手続協定である「紛争解決了解(DSU)」の21条(勧告の実施の有無を判断する手続)と22条(勧告未実施の場合にとられる対抗措置の手続)の前後関係のこと。21条の手続を終えた後に22条の対抗措置手続がとられることが常識的な解釈であるが、現行条文上、両条の前後関係が必ずしも明確でないとの問題があり、実際の紛争処理に支障が生じたケースがある。このシークエンスの明確化は今回のDSU改訂交渉の重要な論点のひとつとなっている。

11  「実施」問題

 途上国がUR合意の結果であるWTO協定の実施段階に入って様々な困難に直面しているという問題。途上国は、途上国の義務は遅らせ、途上国に特別な配慮を与え、先進国の義務は前倒しにせよという主張を100以上の項目にわたって展開していた。

12  市場アクセス

 一般的に、物品貿易において市場アクセスの問題を扱う際には、貿易障害措置としての関税障壁の引下げに関して議論が行われてきた。関税に関しては数次の多国間交渉(ラウンド)を通して引下げが行われてきており、成果を上げている。同時に非関税措置が貿易障害措置として物品貿易の障害となりうる場合があり、非関税措置の協定整合的な運用の確保が重要となっている。

13  サービス貿易上の初期オファー(3.も参照)

 サービス貿易については、各加盟国・地域は「サービス貿易一般協定」(GATS)に基づき、それぞれ各サービス分野の貿易の自由化程度を表の形で国際的に約束している(この自由化約束は「特定約束」、それらをまとめた表は「特定約束表」と呼ばれる)。今回のラウンドではこの約束の改善を目指して交渉が行われる。各加盟国・地域は相互に自由化要望(リクエスト)を提出し、これを踏まえて自国(地域)の自由化提案(オファー)を行う。その後、それぞれ二国間・地域で交渉しながらオファーを改訂し(自由化水準を引き上げ)ていき、ラウンド終結までに自国(地域)にリクエストを出した全ての加盟国・地域との合意を達成する。このオファーの最初のものが初期オファーであり、ドーハ閣僚宣言により各加盟国・地域は2003年3月末にこれを提出することが定められている。

14 ピア・レビュー

 各国の貿易政策などを、加盟国間で批判し合うことによって、相互に改善していくこと。
 競争の分野で、紛争解決制度を活用するかピア・レビュー方式とするかという際には、WTOで新しく策定されるマルチの競争ルールを紛争解決手続の対象として紛争処理で争う途をつくるか、紛争解決手続の対象とせず、各国の競争政策がそのマルチの競争ルールに適合しているかどうかを加盟国間で批判しあうことによって改善していくか、ということを意味する。

15 非貿易的関心事項

 農業分野での貿易問題を議論するにあたり貿易的側面のみでなく、食料安全保障や環境保護の必要などを考慮することが重要であるという「貿易」か「非貿易」かという区分に注目した概念。
 環境保全のように農業が行われることによる外部効果(多面的機能)と、動物愛護のような農業の生産等のあり方に制約をもたらすものに分類される。

16 貿易歪曲

 関税、補助金、価格支持等で、本来、障壁がなければ実現されたであろう貿易が阻害されている状態を指す。
 但し、各国とも関税、補助金等で国内において育成若しくは保護していく産業があることから、完全に貿易歪曲性を撤廃させるのではなく、如何に諸制度を調和させることが課題。

17 ミニマム・アクセス

 ウルグァイ・ラウンド合意で関税化した農産品の内、輸入実績が殆どないものについて、1986~1988年の国内消費量の3%(1995年)に相当する輸入数量枠を設定し、これを5%(2000年)まで拡大することとしたもの。なお、コメについては関税化の特例措置(即ち、ミニマム・アクセスは受け入れるが関税化はしない)を適用したため、ミニマム・アクセス枠は加重化され、4%(1995年)→8%(2000年)となっている(但し、1999年にコメを関税化したので、2000年の枠は7.2%)。

18 メインストリーム化

 WTOの枠組みにおける多角的自由貿易体制は、途上国の経済成長と貧困の削減に多大な役割を果たすことが出来るものであるという観点から、途上国各国の国家開発計画や貧困削減戦略中で、貿易政策に高いプライオリティーを置いていくこと。

19 モダリティー

 今後、どのように貿易の自由化を進めていくか、各国に共通に適用されるルールや自由化の方式・水準。
 例えば、ウルグァイ・ラウンドの農産物の関税分野で言えば、「全ての国境措置を関税化し、平均で36%、品目別に最低15%の関税を削減する」といった合意が行われている。  また、ウルグァイ・ラウンドの非農産品分野の関税率については、「全体で平均の33%の引き下げ。但し引き下げ方式は各国の自由。主要国間でゼロゼロ(分野別の関税相互撤廃:医薬品、建設機械、医療機器、鉄鋼、家具、農業機械、紙・パルプ)、関税ハーモニゼーション(関税率を一定値に調和:化学品)を行う。」という合意が行われている。

20 輸出競争

 輸出促進的な措置を指す。主に輸出補助金(農産品を輸出する際、国が補助金を出して、国際競争力をつける)が対象。その他にも輸出信用、食料援助の有する輸出補助金的な要素、輸出国家貿易企業等がある。
 日本は、輸入国に課せられる関税等の規律に比して、輸出競争の規律は緩いとして、新ラウンド交渉で規律強化を求めている。

21 リクエスト

 ラウンドの過程で、各分野において、自由化のための結果を他の国・地域に対し要求すること。「サービス貿易上のリクエスト」については、上記13を参照。

22 リバランシング

 現行のWTO協定は先進国寄りの協定であるので、協定を改定して途上国の利益のバランスを図るべきとして、途上国問題(S&D、実施問題)などにおいて途上国が主張しているもの。

23 ローカル・コンテント規制の撤廃

 ある産品をA国内で生産する際に、一定の比率のA国内企業が生産する産品(特に部品)を購入又は使用することを要求すること。
 海外で生産活動する企業(投資家)にとっては、ローカル・コンテント規制は、その生産活動に大きな影響を与えることになる。TRIM協定では、段階的にこの規制を撤廃することとなっている。

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