2009年3月30日、JICA研究所において、外務省と「国連改革を考えるNGO連絡会」との共催により、第7回国連改革に関するパブリックフォーラムが開催され、NGO関係者、政府関係者、学術関係者、一般市民を含む約50名が参加し、過去6回のフォーラムを総括しつつ今後の取組の方向性につき議論を行ったところ、概要は以下の通り。(プログラム及び主な発表者・参加者は別添(PDF)参照。)
NGO側より、近年の国際金融市場の混乱と農産物価格の高騰が開発に甚大な影響を及ぼしており、人間の生存権において最も基本的な食糧へのアクセスという権利を脅かしている状況についての問題提起がなされた。また、開発の総括的評価に関して、国際社会全体を巻き込んだ規範の形成と、その規範に沿った成果重視のアプローチが重要であるとの指摘があった。人権に関しては、普遍的定期的審査(UPR)に関連して、国連の人権機構改革の評価、それに関する日本外交の成果と課題等について問題提起があった。
政府側からは、2005年の国連首脳会合成果文書において約半分が開発の問題に割かれており、人権の分野では「人間の安全保障」をどう実現していくかなどについて改革の方向性が示されていること、これらの改革に対して日本は可能な限り協力していく姿勢を表明したことが述べられた。また、MDGsに向けた取組、「人間の安全保障」の推進、経済社会理事会の改革・強化、国連システム一貫性への努力という4分野における日本の取組が紹介された。人権に関しては、普遍的定期的審査(UPR)について総じて良い評価が出ていること、すべての国連加盟国が真摯に参加している制度として評価できるとした上で、専門性が発揮できているのかという問題も指摘された。人権分野での日本独自の貢献に関しては、日本独自のスタイルで、途上国に伴走するようなスタイルが望ましいとの指摘があった。
政府側より、平和構築委員会(PBC)の概要及びPBCにおける日本の役割について説明がなされ、立ち上がりの大事なときに平和国家を掲げる日本がPBCを主導できたのは幸運であった、今後は安保理や総会などすべての関係機関との緊密な協力関係を推進する必要があると述べられた。軍縮に関しては、国連総会決議、2010年NPT運用検討会議の準備委員会、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)等に関連し、日本は現実的かつ着実な措置を積み重ねて、軍縮と信頼との相乗効果に期待するアプローチをとっているとの説明があった。また、米ロの新たな核軍縮条約の締結の合意に注目し、核軍縮にすべての核保有国を取り込んでいくこと、特に中国を含む核保有国の核軍縮における透明性が重要であるとの指摘があった。
NGO側からは、平和構築に関しては現場レベルでの連携強化が必要であり、特に地域住民と調整や連携が不可欠であると提起された。PBCに関しては、「ビジネスモデル」を示すことができた点は評価できる一方で、PBC内の議論が不透明であることや、今後いかにイラクやアフガニスタンなどハードルが高い国に取り組むのかとの問題提起があった。軍縮に関しては、我々は今、「核を削減はするが永続的に保有する」のか「核兵器のない世界を達成するのか」という分岐点にいるとの問題提起に対し、安全保障のあるべき姿を考える必要があり、日本のように非核保有国だが安全保障上核兵器に依存している国もこの問題に向き合うべきであるとの指摘があった。
第1セッションの総括として、NGO側より、オバマ政権の誕生は国連改革の進展にとり好機であること、開発の分野でMDGsなどの具体的な開発目標の達成努力がグローバルな金融・経済危機によって水泡に帰す危険性があること、「危機」を生かす意味で国際金融体制の改革が不可欠であることが説明された。人権に関しては、人権理事会をどう強化するかという指摘があり、「人間の安全保障」を人権の観点から再定義する必要性が強調された。
セッション2の総括として、NGO側より、まず国連システム全体に関わってくる問題として資源を軍備から人間の開発に向ける必要性が強調された。また、日本は国連外交および国際社会において軍縮を環境や開発、「人間の安全保障」とつながる問題としてアピールすることができるのではないかと提起された。
その他、NGO側より、複合的な危機に直面する中、持続可能な社会経済システムを構築することは喫緊の課題であり、その課題に取り組むためには、グローバル・ガバナンスがこれまで以上に重要になっていることが強調された。
企業側からは、企業と政府とNGOだけでは解決できない複雑な問題がある中で、グローバル・コンパクト(GC)ネットワークは一つのプラットフォームになると強調された。
政府側からは、環境に関して、国連では途上国と先進国が先鋭的に対立する構図となっているが、まさしく国連がどう応えるかが論点であること、軍縮に関しては、専門性をもった人材の登場を期待していることが述べられた。平和構築については、PBCはひとつのモデルであり、積極的に進めることが望ましく、人権に関しては、開発とのリンクの重要性について述べられた。
総括として、過去のフォーラムを振り返り、連続性と変化の両面が紹介された。連続性として、MDGsや平和構築、人権などの分野での着実な一定の進展、変化として、米新政権が誕生する一方で、気候変動問題の深刻化、エネルギー危機、食料危機、経済金融危機などの予想だにしなかった時代状況や危機が挙げられた。これらの危機はこれまで積み重ねてきた改革を打ち消すインパクトを持つものであり、禍機を好機に変えるためにも議論を活性化させていくことが必要と強調された。また、各分野の横断的な側面にも目を向ける必要が確認された。更に、草の根の視点からの行動、提言、発信、そして政府や国連の活動を検証する役割など、市民社会の参加の重要性が改めて確認された。日本の外交に関しては、「人間の安全保障」のアプローチの有用性や、現地の人々を主体として伴走し、能動的に協力していくべしとの意見、平和の配当の重要性などが強調された。最後に、安保理改革など進めるに当たっても、日本が国連や世界に対してどのような付加価値を提供し、指導力を発揮し、行動につなげていくことができるのかが大事であり、本フォーラムがそのことを考える貴重な機会となったと総括された。
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