平成20年7月
去る3月3日、三田共用会議所において、外務省と「国連改革を考えるNGO連絡会」との共催により、第6回国連改革に関するパブリック・フォーラムが開催され、学生、一般市民を含め総勢約130名が参加した。今回は、専門性の高い議論を行うために専門家による分科会を前半と後半の2回ずつ実施し、後半のそれぞれの分科会では、TICAD IVや北海道洞爺湖サミットに向け、アフリカと関連づけたテーマでの議論を行った。(プログラム及び主な発表者、参加者は別添(PDF)参照。)
フォーラム冒頭、開会挨拶を行った佐藤啓太郎アフリカ紛争・難民問題兼国連改革担当から、グローバル化が進展した今日においては、地球規模の課題が深刻化し、人間の安全保障という考え方が注目を集めていること、そしてこれに関連してグローバル・ガバナンスに関心が集まっており、この点では、政府だけでなくNGOを含む市民社会が重要であり、本フォーラムが非常に重要な役割を担っていることが強調された。
同じく開会挨拶を行った上村英明氏(国連改革を考えるNGO連絡会/市民外交センター)からは、2008年が世界人権宣言60周年であるとともに、本フォーラム4年目であり、本フォーラムの経験が、TICAD IVや北海道洞爺湖サミットにも、国連政策という視点から貢献できるとの期待が表明された。また、NGO連絡会が準備した「日本の国連政策の優先課題」がその期待の実現に向けて土台となりうるとの紹介もなされた。
午前中は気候変動問題の特に「適応」部分について議論された。すでに起きている影響にいかに対処していくかという問題に焦点があてられ、バングラディシュなど現場の事例や、適応基金のあり方についても議論された。企業の側からは、「適応」に関してほとんど知られておらず、議論も不十分であるという意見が出された。外務省からは気候変動への対策基金の説明を行った。「適応」に関しては政府だけで解決するのは難しく、NGOを含む民間アクターと今後有機的な連携が必要であるとの議論もなされた。
その他、気候変動の問題が環境のみならず開発・人権などいろいろな分野が関わってくるので、その意味でも、本パブリック・フォーラムが非常に重要であるとの意見も出された。またG8だけでなくG20が開催されるが、気候変動の議論に途上国が入ってきて一緒に議論することも重要であるという意見も出された。開発機関との協力体制の強化の必要性も指摘され、ガーナの事例が報告された。また貧困削減という国際的な開発の第一の目標にいかに効果的に関わっていくか、日本の役割は何か、という点での議論も行われ、TICADなどの場で日本がアジェンダ設定においてリーダーシップをとる必要がある、市民社会との連携を今後も強化しつつ取り組むべきとの指摘もなされた。
主にアフリカの平和構築についての話し合いがなされた。アフリカの1990年代以降の構造を読み解き、どのように平和構築を実施していくのか、そして「グッド・ガバナンス(=良い統治)」とはいかなるものか、基本的には、「ガバナンスとアカウンタビリティ」が重要という議論の流れであった。
アフリカは紛争後に如何に復興を進めるか、という議論の中では、民主化のプロセスについては、西欧のシステムを前提にした介入ではうまくいかないという指摘がなされた。またさまざまなアクターによるチェック、アンド、バランスが大切との意見も出された。
政治を通じた平和の定着、アフリカの温暖化問題、飛び火するアフリカの紛争をいかに防いでいくかについても議論が行われ、国連安保理が機能するようになってきたという指摘も行われた。
グローバル・コンパクトの紹介もなされ、現在の10の原則に更に平和と安全保障に関わる2つの原則を加えたいという意見も紹介され、これをそのように適用していくのか、適用させる側からのメリットとデメリットが指摘された。
外務省からは、TICAD IV、北海道洞爺湖サミットに向けた平和協力国家としての平和構築分野における我が国の取組を紹介し、その中でPKOセンター支援についても紹介した。また、平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業について紹介した。出席者からは、「結果は出てきているが、紛争解決だけでなく、紛争予防に向けてどのように動くのか」という指摘がなされた。また、外国人出席者からは、「日本の平和構築はもっと戦略的であるべき。平和国家としてのアピールが重要。」という意見も出された。
午前と午後を通じて、多国間の核軍縮・不拡散体制の立て直し、軍縮教育、武器貿易の取り締まりなどについての意見交換が行われた。
多国間の核軍縮・不拡散体制の立て直しについては、特に2010年の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議に向けた課題について議論を行った。外務省側からは国連決議などを通じて核兵器隔絶に向けた現実的かつ着実な取組を着実に訴えていきたいとの意見が出され、NGO側からは「米印原子力協定がNPT体制を崩壊させる危険をはらむ」との意見が出された。
軍縮教育に関しては、このテーマで政府と市民社会との対話をもてたことが画期的であったとの意見があった。外務省から、2002年に国連事務総長の報告書が国連総会で採択され、昨年から、日本政府が軍縮教育の新しいイニシアティブを立ち上げている旨の説明があった。国連研究の成果や実施状況の報告、被爆体験の普及が重要であるとの指摘がなされた他、若い世代の国際的な取組などが紹介された。「これまでの開発研究の成果もふまえ、構造的な理解と共感的な理解の双方が大切である」という意見と、「それこそが参加型教育だ」という意見もあった。
武器貿易に関しては、アフリカの紛争の一つの責任は、武器輸出国・供出国が負っているという問題提起があった。武器を輸出しない国・日本は積極的に問題解決に協力すべきとの意見や、日本が持っている憲法9条の平和主義を国際的に活用すべきであるとの意見が出された。また武器輸出の取締の強化に向けては、政府だけではなく企業をも含む市民社会の協力と能力拡大が不可欠であるとの指摘もなされた。
権利基盤アプローチについて議論した。また外務省からは、国連人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)について説明を行った。
権利基盤アプローチに関しては、人権が剥奪された結果、環境破壊など様々な問題が起きているという指摘があった。人権を回復することがどれだけ他の諸問題に影響するかについての意見交換もなされた。国連ミレニアム開発目標(MDGs)を権利基盤アプローチから再定義しようという議論も紹介された。ニーズアプローチ(必要があるから持って行く)ではなく、根本解決を目指す権利基盤アプローチをしないと本質的な解決には至らないとの意見も出された。ケーススタディーとして、マニラの水の民営化の事例についての言及がなされた。「人間の安全保障」の考え方と権利基盤アプローチは、人々の自己実現を可能にするための能力強化を目指す点において共通の目線で議論できるのではないかとの意見が出された。またアフリカに関しては、このようなアプローチが必要なのではないかとの指摘もなされた。
午後は国際刑事裁判所(ICC)とアフリカについて意見交換が行われた。外務省からICCと日本の役割について紹介した。また、日本はこれまでのように経済協力・技術協力だけでなく司法協力も大切ではないかという議論もなされた。
ダルフールの現状報告を受けて、ICCの役割の重要さを再確認したという意見が出された。またICCが抱えているスキームの問題点も指摘された。もっと各国間の協力関係を深める必要がある、また、当事国だけでなく周辺の国々が協力関係を作っていくことが重要であるとの議論がなされた。
武者小路公秀・大阪経済法科大学特任教授の司会でまとめの全体会合が行われた。
秋元審議官より、午前と午後で合計8つの分科会に参加したが、開発、平和構築、軍縮、人権のいずれをとっても、それぞれの領域を政府が専管事項として行っていくだけでなく、国際社会全体の関心事項として、市民社会と共に考えていく必要があると述べた。また、政府、民間企業、NGOのそれぞれにできることがあり、政府、市民社会、メディアがより協力を深めることでオールジャパンとしてできることがあるのではないかと指摘した。また今年はG8洞爺湖北海道サミットも開催されるので、本日の意見交換の内容を役立てていきたいとの考えを述べた。
最後に司会の武者小路氏より、これまでのフォーラムより一つ進んだのは、国連改革だけでなく、TICAD IVやG8につながっていくような議論ができるようになったことであると述べられた。また、日本国民か地球市民かというような議論があったが、国益と人類益がどうつながるのかという視点は大切であり、「人間の安全保障」という理念を日本が打ち出すことはその両面につながるとの指摘がなされた。本日のような課題について、企業もCSRとして取り組むことは、企業の利益にもつながり、その面でも、今回の意見交換には前進が見られたとの言及もあった。参加者からは、「外交問題に関するパブリックフォーラム」と改名した方がいいのではないかとの提案も寄せられたが、今回このテーマで様々な意見交換が可能であることを確認できたとの意見も述べられた。NGO、外務省、そして企業が一緒に議論できる場が今後も発展していくようにしていきたいとの言及でしめくくられた。
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