平成19年11月
去る8月1日、三田共用会議所において、外務省と「国連改革を考えるNGO連絡会」との共催により、第5回国連改革に関するパブリック・フォーラムが開催され、学生、一般市民を含め総勢約130名が参加した。今回は、国連をより幅広く知ってもらうためのインフォーマル・セッションを行った他、全体のテーマとして「気候変動」を掲げてパネルディスカッションを実施するなど、9月から開催されている第62回国連総会を意識した話し合いが行われた。(プログラム及び主な発表者、参加者は別添(PDF)参照。)
フォーラム冒頭、開会挨拶を行った高須幸雄国連代表部特命全権大使からは、グローバル化が進展した今日においては、地球規模の課題が深刻化し、人間の安全保障という考え方が注目を集めていること、そしてこれに関連してグローバル・ガバナンスに関心が集まっており、この点では、政府だけでなくNGOを含む市民社会が重要であり、本フォーラムが非常に重要な役割を担っていることが強調された。
同じく開会挨拶を行った上村英明氏(国連改革を考えるNGO連絡会/市民外交センター)からは、本フォーラムは違う立場の人達が緊張感を持ちながら建設的に対話を行う場であること、今回のフォーラムに際しては、企業や在京の大使館などより広い層からの参加に力を入れたこと、また、地球環境問題の複合的な側面を、開発、平和構築、軍縮、人権の諸観点とリンクさせて議論したいと説明された。
続いて、西村六善気候変動担当政府代表・地球環境問題担当大使による基調講演が行われ、日本はこれまで国際平和の面で実質的な貢献をして国際的な評価を得ているように、地球温暖化問題に関しても、自分の座標軸をしっかりと持ち、日本自身が自分たちの方針を決めるべきであると力説した。
地球環境問題/気候変動問題をテーマに行われたパネルディスカッションでは、外務省からは今後の国際交渉に関しての政府の見方が説明され、市民社会の側からは、企業が行っている環境問題に向けた取組の紹介や、気候変動問題と国内政策との関連性、食糧を通じたエネルギー消費のあり方につき紹介がなされた。
開発分科会では、温室効果ガスを半減する国際的な合意はできてきているが、国内的な目標が明確になっておらず、具体的な国内政策が必要という指摘がなされた。またとくに企業を通じた国連グローバルコンパクトの取り組みや背景の紹介(CO2対策や植林など)があり、政府・NGO・企業の協力体制のもとで国連に協力することの必要性が議論された。
一方、開発と環境問題との不可分の関係については、先住民族の生存と気候変動など、生態系の持続可能性と社会の持続可能性との連関に注目することが、現在の緊急的課題であるという指摘があった。その意味で、気候変動だけでなく「開発」の議論をもっとすべきであるとの意見も出された。
平和構築分科会では、第一テーマである「天然資源管理からみる紛争」について活発な議論が行われた。安保理をはじめ国連の枠組みの中で天然資源の取引によって得られる利益が、時に紛争の温床となり得るという問題意識が認識され始めたとの報告があった。天然資源をめぐって開発途上諸国で起こっている紛争については、日本などの先進工業諸国は国連を通じて協力を行うとともに、紛争が発生している諸国に対する経済協力において、フィリピンの例のように、紛争の被害者の人権を守り、関係国政府のガバナンスの方向付けに協力する必要があることが紹介された。また、ダイヤモンドなどを例とする、希少天然資源の不法な流通の問題などに関し、先進工業諸国の企業の関与のあり方や、企業の国際的な社会責任にも配慮するべきことが議論された。
平和構築委員会に関しては、平和構築委員会と平和構築基金につきその効率的使用について議論すると共に今後は平和構築委員会の検討対象国を増やすことが必要であるとの説明がなされた。人材育成面では「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」が紹介された。また、平和構築委員会の議長国として、平和構築の取組において日本がリーダーシップを一層発揮していくことへの期待が表明された。
軍縮分科会においては、「原子力の平和的利用」と核兵器廃絶との関係が大きなテーマとして議論された。とくに、濃縮ウランやプルトニウムを生み出す技術を多国間、国際的に管理しようと、という動きに対して、原子力を推進しつつ核の軍事利用を否定する日本としてはどうすべきかが議論された。国際的な核不拡散の諸規範の普遍性、透明性、経済的合理性が必要であることが指摘された。非核兵器国として唯一核燃料の再処理施設をもつという日本が、世界的に重要な役割をもっていることが確認された。
米印原子力協定に関しては、核不拡散体制の根底を揺るがすとの懸念が表明された。そして、テロなど非国家主体への拡散防止には、結局核軍縮の徹底以外に有効な対策がないことも確認された。そのためにも日本は、核兵器不拡散条約(NPT)第6条に定められた核兵器国の核軍縮義務の履行を求めていくこと、とくに核兵器の更新や新型開発をやめさせるように核兵器国に働きかける必要性があることが、日本の核廃絶国連決議と関連して、指摘された。なお、原子力平和的利用の拡大については、地球規模で見たコンセンサスが保たれなくてはならず、世界のエネルギーをどう考えていくのか、という大きな課題が今後の討論の対象として残った。
人権分科会では、外交における人権の主流化をすすめる上で、ODAの構造と同じように、一番弱い立場の人が一番人権の影響を受けることを、政策立案上の基本的な認識として確立すべきとの意見が出された。とくにアジア各国の人権の問題に対する日本政府の対応が紹介され、「人権対話」の定義、計画性などへの疑問が指摘された。日本の人権政策が「静かな外交」で、米欧諸国のような明確な対象国の断罪を行わないことに対する批判も出された。
「国連人権理事会の評価と課題」については、国連人権理事会の改革の内容が紹介され、UPR(普遍的定期的審査)のガイドラインなどがこれからの課題になるであろう、との意見が出された。
武者小路公秀・大阪経済法科大学特任教授の司会でまとめの全体会合が行われた。
各分科会の報告が行われた後、木寺審議官より、開発に関しては来年の第4回アフリカ開発会議やG8サミットで地球環境の問題がうまく取り入れられることを願っていること、平和構築に関しては、平和構築委員会では今年一年日本は議長国として、対象国をアジアにも増やすことを検討したいと述べた。また軍縮に関しては原子力の平和利用の点で日本が重要な役割を果たしたいとの表明がなされ、人権に関しては「対話と協力」の重要性が指摘された。
最後に司会の武者小路氏より、日本の国連外交において国際的に注目されている二つの提案、「人間の安全保障」と「持続可能な開発教育の10年」が紹介された。そして、「人間の安全保障」を「持続可能な開発教育」によって推進することは、国連においてだけではなく、開発途上国との協力にも生かされており、この二つの提案を推進するにあたり、NGO間、企業間、政府間、そしてその相関関係の中で知恵と経験を共有していくことが必要であるとの言及でまとめの挨拶がしめくくられた。
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