条約

「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定を改正する議定書」について
(略称:TRIPS協定改正議定書)

平成29年1月

 開発途上国における公衆の健康の問題に対処するため、特許権者以外の者が感染症に関する医薬品を生産し、これら諸国に輸出することを可能とするよう、加盟国がこのような生産等を認めるための条件を緩和する規定を追加する。

1.背景

(1)医薬品の生産能力が不十分または無い国(主に後発開発途上国)においては、エイズ、結核、マラリア等の感染症に関する公衆の健康の問題に対処するためには、医薬品の輸入に頼らざるを得ない。他方、医薬品の生産能力を有する国が、自国において特許が付与された医薬品をこれら諸国への輸出のために生産することにつき特許の「強制実施許諾(注)」を与えることは、TRIPS協定第31条(f)に抵触する恐れがあった。

(注)強制実施許諾
 特許権が認められている場合、特許権者以外は、原則として、特許権者から実施許諾を受けなければ、特許発明に係る物の生産、販売及び輸入を行うことができない。しかし、一定の条件の下で、政府は、特許権者の許諾を得なくても特許発明を実施する権利を第三者に認めることができ、これを強制実施許諾という。TRIPS協定第31条(f)は、強制実施許諾等について、「主として国内市場への供給のために許諾される」旨定めている。

(2)2001年にWTO第4回閣僚会議において採択された「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定と公衆の健康に関する宣言」(ドーハ宣言)を受けて、2005年12月に、このような公衆の健康の問題を解決するため、本改正議定書がWTO一般理事会により採択された。

2.議定書のポイント

 本改正議定書は、ドーハ宣言の理念を実現し、公衆の健康の問題に対処するため、一定の条件に従い、医薬品を生産し、及びそれを輸入する資格を有する加盟国に輸出するために必要な範囲において輸出加盟国が与える強制実施許諾に関しては、TRIPS協定第31条(f)の規定に基づく当該輸出加盟国の義務を適用しない(強制実施許諾を与えるに際しての制約を課さない)旨の規定を、同協定第31条の2として新たに追加することとしたものである。
 この改正議定書の発効により、医薬品の生産能力が不十分又は無い国における、エイズ、結核、マラリア等の感染症に関する公衆の健康の問題に対処する際の医薬品の生産、輸出における法的安定性の確保が期待される。

3.締結の意義

 我が国が本改正議定書を受諾することは、後発開発途上国等における公衆の健康の問題に対処するための国際的な取組みに寄与するとの見地から有意義であると認められる。

4.締結状況等

 2017年1月23日発効(注)。2017年1月23日現在、受諾国は112か国。

(注)WTO加盟国の3分の2が受諾したときに当該改正を受諾した加盟国について効力が生じ、その他の各加盟国について、それぞれによる受諾の時に効力を生ずる。

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