
G8ムスコカ・サミット(概要)
平成22年6月26日
1.日程,議題等
(1)日程・場所
2010年6月25日(金曜日)~26日(土曜日)(於:カナダ・ムスコカ)(注1)
(2)議題・参加国
25日
- ワーキング・ランチ:世界経済(非公式な議論)
- 午後セッション
- アフリカ・アウトリーチ首脳との会合(開発,平和・安全保障)(注2)
- アフリカ及び拡大アウトリーチ国首脳との会合(安全保障及び開発に対する新たな脅威)(注3)
- ワーキング・ディナー:国際的枠組みのあり方(非公式な議論)
26日
(注1)なお,来年の議長国はフランス。
(注2) G8(日,米,英,独,仏,伊,加,露,EU)及びアルジェリア,エジプト(欠席),ナイジェリア,セネガル,南アフリカ,エチオピア(NEPAD運営委員会議長国),マラウイ(AU議長国)。
(注3)上記注1に加え,コロンビア,ジャマイカ,ハイチ。
2.主要な成果
開発,気候変動,貿易等に関する「G8首脳声明」及び「テロ対策に関するG8首脳宣言」に合意(別添:骨子)。首脳間の主要な議論は以下のとおり。
(1)世界経済
- 現在の経済情勢等を非公式に議論し,多くの首脳から,回復は予想以上であるが,依然として脆弱であり,短期的には景気への配慮を怠るべきではないとの発言があった。その上で,成長モメンタムを維持していくためにも,財政健全化,構造改革,貿易自由化を進める必要があるとの認識を共有。複数の首脳が,経済危機の再発防止のためには,世界的な需要の不均衡の改善,金融規制改革の推進が必要である旨強調。
- 菅総理からは,欧州の問題によって財政健全化と成長の両立が課題であることが明らかになり,「強い経済,強い財政,強い社会保障」の一体的実現に向けて,中期的な財政規律のあり方を定める「財政運営戦略」及び成長の拡大に向けた「新成長戦略」を策定した旨説明。その際,先進国では高齢化が進み,社会保障費の増加が負担とみられがちであるが,むしろ,介護,医療,保健等の分野で成長に繋げていく視点も必要である旨指摘。成長と財政再建を両立させるには雇用がポイントであり,成長を生み出す雇用を創出し,所得,税収を増大させることが重要である旨強調。
- こうした議論を踏まえ,各国首脳は,世界経済の運営に当たっては成長確保が鍵となること,また同時に財政健全化の推進は重要であり,実施のタイミングを誤らなければ持続可能な成長の確保に資するとの認識を共有。
(2)開発
- アフリカ・アウトリーチにて取り上げられ,各国首脳は,本年は2015年が期限であるミレニアム開発目標(MDGs)達成まで5年となった節目の年であり,9月に開催されるMDGs国連首脳会合に向けて,取組を強化すべきとの認識で一致。G8各国は,MDGsの中で進捗が遅れている母子保健に対する支援を強化する「ムスコカ・イニシアティブ」を打ち出した。また,G8の支援を触媒に,より大きな国際的取組へ繋げるべく,その他政府・機関及び途上国自身にも協力を呼びかけた。
- 菅総理からは,MDGs,特に母子保健は「人間の安全保障」の観点からも重要である旨,母子保健の向上のためには,産前から産後まで切れ目なく適切な治療やサービスを行うことや栄養不足への対処が必要であり,我が国としてこれらの取組を重視している旨,また,「ムスコカ・イニシアティブ」の下,母子保健分野で,2011年から5年間で,最大500億円規模,約5億ドル相当の支援を追加的に行う旨表明。
(3)アフリカ
- アフリカ首脳との会合において,各国首脳は,G8とアフリカの対話の機会の重要性を再確認しつつ,アフリカ支援につき議論を実施。アフリカ首脳は,母子保健へのイニシアティブを含むG8の取組に感謝を表しつつ,MDGsの達成は困難な状況であり,国際社会が約束を着実に履行することを期待すると発言。
- 菅総理は,国際社会が支援を強化することと,アフリカ自身の主体的な努力の双方が不可欠であることを強調し,各国の賛同を得た。さらに,説明責任の重要性に触れつつ,その好例としてアフリカ開発会議(TICAD)における公約履行のあり方を紹介し,また,アフリカ側にガバナンスの改善やビジネス環境整備等への一層の努力を求めた。
- 菅総理は,TICAD IVの「横浜行動計画」に沿って,我が国は,対アフリカODA倍増とともに,母子保健等のMDGs達成のための支援を強化していること,また,地域の安定のために,我が国は,アフリカのPKO訓練センターの能力向上支援等を実施しており,これからも協力を続ける考えである旨述べた。(会合前にはマラウイ,セネガル,エチオピアの首脳から菅総理に対し,これまでの我が国の支援に対する感謝が述べられた。)
(4)国際的枠組みのあり方
- 非公式な自由討議との前提の下,国際社会における構造変化を受けて,G8,G20といった国際的な枠組み,国連のような国際機関をどのように強化していくかにつき議論が行われた。
- 新興経済国の関与・参加を高めていくことは重要であるとの点で一致があった一方,G20は,今次危機への対応に大きな役割を果たしたが,今後,考え方の異なる国が参加する中でいかに意見を収斂させていくかが課題との指摘もなされた。G8につき,価値観を同じくする国が率直に意見交換を行い,国際社会が直面する諸問題の方向性を定めるという意味で,引き続き有用との点で認識が広く共有された。また,国連に関し,安保理改革や気候変動の交渉プロセスの促進の重要性も言及された。
- 菅総理は,今般の欧州危機への対応に見られたように経済が成熟した国の協力は重要であり,G8は先進国間の意思疎通の場として維持した上で,G20は新興国との間の調整の場と位置づけることが現実的ではないか,また,中国の責任感を一層高めるためにも,時には中国をG8に呼ぶことを考えてもいいのではないかと発言した。
(5)平和・安全保障
- 北朝鮮について,菅総理より,韓国哨戒艦に対する北朝鮮による魚雷攻撃は許されない行為であり,国際社会が一致して韓国を支持し,毅然とした対応を示すことが重要であると述べ,議論をリードした。特に,G8として,北朝鮮による攻撃を非難,韓国政府の努力を支持,北朝鮮が攻撃や挑発行為を行わないことを求める力強いメッセージを発出することの重要性を強調し,これらの諸点は首脳宣言に盛り込まれた。北朝鮮の核・ミサイル問題については,安保理決議に基づく制裁措置を着実に実施し,核・ミサイル計画の放棄を求めていくこと,また,拉致問題の解決に向けて北朝鮮に行動を求めていくとしてG8各国の理解と協力に期待することを表明した。
- イランの核問題について,イランが国際的義務に違反して濃縮活動を継続していることに対する懸念が共有され,イランに対する「圧力」を高める必要があるとの意見で一致。一方,引き続き外交的解決に向けた努力を続ける用意があるとの認識も共有された。菅総理より,新たな安保理決議の措置を確実に実施しつつ,我が国としても外交的解決に向けて貢献していくと発言した。
- アフガニスタン・パキスタンについて,カルザイ政権を引き続き支援し,アフガニスタンの治安能力の向上,和解・再統合に向けた取組を促しつつ,同政府の努力を支援していくことが重要であるとの認識を共有。菅総理より,今月のカルザイ大統領の訪日結果を説明しつつ,我が国として引き続き同大統領の努力を支持する方針である,和解・再統合,教育,農業,インフラ等の分野で積極的に支援していくと発言。また,アフガニスタンの安定のためにはパキスタンの安定が必要であり,地域全体の安定のためにパキスタン支援に取り組む重要性を強調した。
- 中東和平について,イスラエルとパレスチナの間接交渉が直接交渉に発展することへの期待や,ガザへの人道・復興物資の確保の必要性,パレスチナ国家建設に向けたパレスチナ支援について議論が行われた。