海洋

ソマリア沖海賊対策に関するハイレベル会合(6月9日~10日)
(概要と評価)

平成21年6月10日

(写真)

1.概要

(1)全体の流れ

(イ)6月9日及び10日、韓国(ソウル)において、ソマリア沖海賊対策に関するハイレベル会合が、韓国、日本及びIMOの協力により、ソマリア沖・アデン湾の沿岸国の代表を含む34か国、16機関(注)の参加を得て開催されました。なお、本会合は、本年2月に中曽根外務大臣が訪韓した際、柳明桓外交通商部長官との間で、ソマリア沖海賊問題の深刻性について認識を共にし、今後日韓間での海賊対策分野での協力の可能性を検討することで合意したことを受け、日韓両国の協力により開催されました。

(注)参加国:ジブチ、エチオピア、ガーナ、モルディブ、セイシェル、ソマリア、タンザニア、イエメン、エジプト、サウジアラビア、オマーン、米国、チリ、韓国、日本、中国、インド、ロシア、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、英国、フランス、イタリア、ギリシャ、トルコ、ドイツ、スペイン、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、エリトリア、豪州
 参加機関:国際海事機関(IMO)、国際海事局(IMB)、国連ソマリア政務事務所(UNPOS)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)、アラブ連盟、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)、連合海軍(CMF)、日本かつお・まぐろ漁業協同組合、バルチック国際海運協議会(BIMCO)、国際海運協議会(ICS)、石油会社国際海事評議会(OCIMF)、国際独立タンカー船主協会(INTERTANKO)、国際刑事警察機構(ICPO-INTERPOL)、トマス・ミラーP&I社

(ロ)我が国からは、西村康稔外務大臣政務官が政府代表として出席し、開会の辞を述べたほか、我が国は、「海運業界のベスト・マネジメント・プラクティス」に関するセッションの議長国を務めました。

(ハ)本会合においては、1)船舶への海賊・武装強盗抑止における国際・地域機構の役割、2)海運業界のベスト・マネジメント・プラクティス、3)地域の能力構築、4)最近の軍事措置の動向について議論が行われ、ソマリア沖海賊対策に関する「ソウル声明」が発出されました。同声明は、ソマリア沖の海賊問題が益々増加しており、大きな懸念であることを強調しました。同声明には、各国政府によるベスト・マネジメント・プラクティスの励行、漁船と各国軍隊、その他関係者との間の情報交換、「ジブチ行動指針」の効果的な実施、ソマリアの安定のための更なる支援、ソマリアとその周辺国の取締能力向上のための支援が重要であること、ソマリア沖海賊対策に関するコンタクト・グループ(以下、コンタクト・グループ)で支持された信託基金創設が努力すること等が謳われています。

(2)各セッションの概要

(イ)「海運業界のベスト・マネジメント・プラクティス」セッション

 我が国(外務省原田海上安全保障政策室長)が議長を務めた本セッションにおいては、海運業界の代表者より業界の取組についての説明があり、日本かつお・まぐろ漁業協同組合よりソマリア沖で活動する各国漁船の現状についての説明がありました。これを受け、我が国より、1)アジアの海運業界を国際社会における海賊対策の議論に参画させる必要性、2)これまで商船と比べて、必ずしも十分な対応がなされてこなかった漁船の海賊対策について、漁船と各国軍隊との間の情報共有体制の整備や緊急連絡体制の構築、の2点につき提起し、参加各国・機関から、かかる問題の重要性につき賛同を得ました。漁船の海賊対策については、今後、コンタクト・グループの作業部会などにおいて、引き続き検討がなされる予定です。

 これを受けて、声明に「漁船と各国軍隊を含む関係者との間の情報共有の強化」との記述が盛り込まれました。

(ロ)「地域の能力構築」セッション

 本セッションにおいては、沿岸国の海賊対処能力構築のための支援の必要性について議論が行われ、我が国は、新たな取組として、沿岸国の海賊対処能力の強化、ソマリアの安定のための支援、周辺国への取締能力強化、IMO海賊センターへの支援等を図るための経費として約36億円の支援を行うことを発表し、各国に高く評価され歓迎されました。

(ハ)「最近の軍事措置の動向」のセッション

 本セッションにおいては、我が国より最近現地に派遣されたP-3C型哨戒機の活動及び海賊対処法案の現状と見通しについて説明を行ったところ、英を含む多くの国よりP-3Cの派遣は大きな貢献であるとして高く評価されました。

(3)コンタクト・グループ作業部会1の開催(開催中)

 また、今次会合と併せ、ソマリア沖海賊対策に関するコンタクト・グループ作業部会1の会合が開催され、沿岸国への能力構築支援の調整についての議論が行われました。我が国は同作業部会会合にも参加し、上述の36億円の支援の表明をするなど、積極的な貢献を行う予定です。

(4)我が国は9月に予定されている次回ソマリア沖海賊対策に関するコンタクト・グループの議長を務めることとなっており、今次会合の成果も踏まえ、今後コンタクト・グループの枠組みも活用しつつ、我が国が行った提案の具体化を含め、国際社会による連携強化に向けて取り組んでいく予定です。

2.とりあえずの評価

(1)ソマリア沖・アデン湾は、世界全体の海上輸送の約1割に当たる年間約2万隻が通航しており、我が国そしてアジア諸国にとって、欧州や中東から東アジアを結ぶ極めて重要な海上交通路であり、このような海域において、海賊行為が多発・急増していることは、国際社会全体にとって懸念すべき事態です。こうした事態に迅速かつ効果的に対処することにつき、34か国、並びに民間団体を含む16団体の機関が一致し、ソウル声明に合意できたことは大きな成果です。

(2)今次会合は、そのような危機感を共有する日韓両国の緊密な連携・協力のもと開催されましたが、我が国からは、西村外務大臣政務官が出席し、海賊対策についての我が国の取組につき積極的にアピールすることができました。とりわけ、「地域の能力構築」セッションでは、我が国代表団より、新たな取り組みとして、沿岸国の海賊対処能力の強化、ソマリアの安定のための支援等を図るための経費として合計約36億円の支援を行う旨を発表したことは、参加各国・機関の高い評価を得ました。

(3)また、我が国は、アジアの海運業界を国際社会における海賊対策の議論に参画させる必要性を問題提起しました。これにより、日本を含むアジアの海運業界の意見を、国際社会の取組により効果的に反映させる契機になることが期待されます。

(4)加えて、我が国は、漁船の海賊対策について、漁船と各国軍隊他の関係者との間の情報共有体制の整備を提案が受け入れられ、声明に盛り込まれました。これが実現すれば、日本漁船だけでなく、インド洋西部で操業する全ての関係国の漁船の安全が向上すると共に、漁船から得られる情報が各国軍隊の活動にも資することになると期待されます。

(5)最後に、「ソウル声明」が発出され、関係各国、国際機関及び民間業界の協力の必要性を含め、海賊対策についてインパクトのあるメッセージを発出できたことは有意義なことでした。日韓両国が協力してかかるイニシアティブを発揮できたことも評価されます。

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