平和構築

国際セミナー
平和と人材育成に関する日本の貢献:
「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」の
総括と将来に向けた課題及び展望
(概要)

平成21年3月

(写真)

 3月24日(火曜日)、東京の国連大学本部ビル(UNハウス)において、外務省、広島平和構築人材育成センター(HPC)及び国連大学(UNU)の共催で、国際セミナー「平和と人材育成に関する日本の貢献:『平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業』の総括と将来に向けた課題及び展望」が開催された。

【趣旨・成果】

1.2007年、外務省は、アジアにおいて平和構築の文民専門家を養成することを目的として、「アジアにおける平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」を立ち上げた。この事業は、外務省の委託を受けて、広島平和構築人材育成センター(HPC)によって実施されてきた。過去2年間のパイロット事業の成果を踏まえて、2009年4月から同事業を拡充・強化していく予定である。

2.このような事業の節目にあたり、外務省、HPC及び国連大学(UNU)は本セミナーを開催し、(1)過去2年間に実施されたパイロット事業の成果及び教訓を総括するとともに、(2)平和構築分野の人材育成の将来に向けた課題及び展望を様々な観点から議論した。

3.セミナーでの議論を通じ、(1)過去2年間の事業で、平和構築分野の文民専門家が着実に育成されていること、関係機関との信頼関係が構築されつつあること等が確認され、また、事業の改善点としては、海外研修期間の長期化、NGOからの参加促進、修了生のPKO等への就職促進などが指摘された。また、(2)将来に向けた課題と展望としては、法の支配分野の文民が世界的に不足していること、現場ではチームで働ける協調性のある人物が望まれること、研修内容として人間の安全保障の講義や交渉能力向上、自己防衛術の習得などを含めることも重要であること、研修内容とスタッフの継続性が重要であること等の指摘がなされた。

4.セミナーでは、コンラッド・オスターバルダー国連大学学長及び西村康稔外務大臣政務官による開会の辞に続き、山中燁子衆議院議員、浜田昌良参議院議員、中満泉国連平和維持活動局政策・評価・訓練部長等が発表者・コメンテーターとして出席するとともに、約100名の聴衆が参加して活発な議論が行われた。(プログラム(PDF)PDF

【各セッションの概要】

1.開会の辞

(1)コンラッド・オスターバルダー国連大学学長より、国連は平和構築に高いプライオリティを置いている、本事業は、2006年に麻生外務大臣(当時)が国連大学で行った「平和構築者の寺子屋つくります」から始まったものであり、国連大学は本事業の拡大と発展に強くコミットしている、本日のセミナーで本件事業のこれまでの成果及び今後の課題に関する活発な議論が行われることを期待している旨述べた。

(2)西村康稔外務大臣政務官より、平和構築における文民の役割の重要性が再認識されている、平和構築は我が国の主要外交課題の一つであり、1)安保理における取組、2)国連PKOや多国籍ミッションへの派遣、3)アフリカの平和維持能力の強化、4)文民の育成と派遣を実施、文民の育成と派遣では2年間の平和構築人材育成パイロット事業で約60名の専門家を育成、平成21年度より本事業を拡充する、小さな種である本事業を立派な大木に育てることが責務である旨述べた。(資料)

2.セッション1:過去2年間のパイロット事業の概観

(1)発表

(イ)篠田英朗HPC事務局長より、パイロット事業の3本柱である 1)国内研修、2)海外実務研修及び3)就職支援の概要を示した上で、本事業は単なる研修に留まらず、研修員の将来のキャリア支援まで含む、まさに人材を育成することに主眼を置いた事業である旨述べた。(資料)(PDF)PDF

(ロ)福島葉子平成20年度平和構築人材育成パイロット事業研修員より、平和の構築に貢献したいとの思いと自分の職業的専門(購買)との関連の薄さをつなぐものとして本事業に参加した、平和構築における日本の強みは政治的中立性や技術力の高さにある、平和構築の第一人者の講義や仲間との緊密な交流が良かった、海外実務研修の期間の短さは要改善である旨述べた。(資料)(PDF)PDF

(ハ)カナーラ・セナラトネ平成20年度平和構築人材育成パイロット事業研修員(スリランカ)より、海外実務研修を通じ、平和構築は現実的なアプローチが要求されることを実感した、海外実務研修の期間を長期化するとともに、派遣先を多様化することが本事業の改善に資する旨述べた。

(2)コメント

(イ)村田俊一・国連開発計画(UNDP)駐日代表より、平和構築と開発・復興は一体として進められるべき、日本人のみならずその他アジア人も研修していることは適切であるが、両者の相互理解が深まるように努めるべき、海外実務研修についてはビザ取得遅延を含め実務的問題への対応も重要等述べた。

(ロ)アン・リビングストン・ピアソン平和維持センター(PPC)副所長より、本事業とPPCとの関係をより強化したい、平和構築はグローバルな取組が必要であり、研修員をアジア域外にも拡大して欲しい、海外実研修を一年に延長するのは良いこと、この研修での教訓を受けとめ分析することが大切である、HPCはアジア地域の平和構築人材育成関係者の組織化・ネットワーク化に努めるべき旨述べた。

(ハ)長有紀枝ジャパン・プラットフォーム共同代表理事より、本事業は国際機関で働きたい人向けのプログラムと認識されており、NGOからの参加者が少ない、NGOが欲しているのはプロジェクトを実施するための資金であり、日本政府による緊急無償をNGOも直接受け取ることができるようにすべき、広島発のユニークなプログラムであり個人のみならず日本やアジアが平和構築に如何に貢献できるか考えて欲しい等述べた。

(ニ)ヨハン・セルス国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表より、関係する機関のニーズも十分考慮して欲しい、E-centerでの研修を検討して欲しい、平和構築のためには異文化の人との折衝能力、各種機関との調整能力が重要である、求められる職能は多様であり定職にある人が一時的に平和構築に従事し再び職に戻れる仕組みが大事である、現地政府・住民の自助努力が重要であり、現地政府の能力強化が大切である等述べた。

(ホ)浜田昌良参議院議員より、外務大臣政務官時のアフリカ諸国訪問の際、平和構築には連関的なアプローチが重要と実感した、アフガニスタンでも連関的アプローチが重要、本人材育成事業への男性参加率が低いのはキャリアパスを描けていないからである等述べた。

3.セッション2:将来に向けた課題及び展望

(1)発表

(イ)中島明彦外務省総合外交政策局審議官より、本人材育成事業の特性について説明した上で、今後の拡充の方向性(研修員募集国の地理的拡大(中央アジア、中東、アフリカへの拡大?)、派遣先の拡大(PKO、NGO)、研修内容(文化、経済を含むべきか、人権や法の支配をどう扱うか)、我が国政府における課題(公務員の参加をいかに拡大するか)、若干の一般的課題(アジアにおいて人材育成事業を実施する意義等)等述べた。(資料)(PDF)PDF

(ロ)山中敏弘陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚副長(国際)より、国際平和協力活動に参加するための陸上自衛隊の取組につき紹介があり、同隊各方面隊の待機体制や、中央即応集団国際活動教育隊による幹部に対する教育内容(含む国際機関、NGO、現地政府・住民等との連携)及び陸曹に対する実技主体の教育、同教育隊による訓練支援や隊員による各種ワークショップ等への参加につき述べた。

(ハ)中満泉国連平和維持活動局政策・評価・訓練部長より、国連PKO局は昨年秋以降、2003年の国連平和活動パネルの報告書(ブラヒミ報告書)以来となる包括的なPKOの見直し作業を実施中、平和構築の初期段階では政治的センシティビティが必要、現地政府の正統性強化は非常に重要、国際社会による初期の支援は集中投下すべし、特に法の支配の分野の文民が世界的に不足している等述べた。

(ニ)忍足謙朗国連世界食糧計画(WFP)駐スーダン代表より、事務所の9割を占める現地スタッフの支えがあって初めて業務遂行ができる、海外スタッフの7割がロジ・官房・警備担当だがこの分野での日本の貢献・支援は不十分である、家族同伴不可の厳しい勤務環境の地はWFP全体の5割を占め、当該地では、チームで働ける協調性ある人材が何にも増して必要とされている等述べた。(資料)(PDF)PDF

(2)コメント

(イ)星野俊也大阪大学教授より、本事業は単なる研修ではなく、人材育成事業であるべき、このためには地元住民の信頼を勝ちうる能力が重要である、脆弱な環境に置かれた住民には目に見える平和の配当が必要であり、そのためには日本が提唱する人間の安全保障の考えが良き指標となる、同考えは研修でも強調するべき、平和構築のための現場での努力はその政治的な影響を意識する必要がある等述べた。

(ロ)イェンス・ベーレント国際平和活動センター(ZIF)人事局長より、本人材育成事業は欧州・北米等から幅広く講師を集め、実務家から政治家まで支持を得ることに成功しており他の見本である、ZIFの経験からすれば、専属のスタッフ・他機関との協調関係や研修内容の継続性、講師の発掘、財源の確保が重要である、ZIFは引き続き本事業に協力していきたい旨述べた。

(ハ)長谷川 祐弘 法政大学教授(前東ティモール担当国連事務総長特別代表)より、シニア専門家コースの新設を特に歓迎する、平和を構築するためには国家指導者に対する良き助言者となることが重要であり、そうした人材を育てるべきである等述べた。

(ニ)アラア・アブド・アル・アジズ・アフリカ紛争解決・平和維持訓練カイロ地域センター (CCCPA)プログラム・ユニット長より、この2年間の事業の成功に祝意を表する、CCCPAはHPCと長期間にわたるパートナーシップ関係を築きたい、海外研修につき複数の研修員をエジプトで受け入れる用意がある等述べた。

(ホ)山中燁子衆議院議員より、アジアに位置する国として、日本はこの地域に貢献すべき、中央アジア、南アジア、西アジア、アフリカへの拡大を進めるべき、研修内容として交渉能力の向上や自己防衛術の習得も重要である、マレーシアのPKO訓練センター支援など地域の協力強化も重要である等述べた。

4.閉会の辞

 中島明彦外務省総合外交政策局審議官より、充実した議論が行われたことにつき、発表者、コメンテーター、HPCやUNUの関係者や傍聴者に対する謝意が表されて閉会した。

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