広報文化外交

平成25年10月29日
10月28日,「海外における日本語の普及促進に関する有識者懇談会」(第6回会合)が開催された。概要は以下のとおり。

【概要】
1.基調報告

(1)吉尾啓介国際交流基金上級審議役より2012年海外日本語教育機関調査(最終結果及び分析)について報告が行われた。
最終結果として,日本語教育機関数は16,046機関(前回調査(2009年)比7.5%増),日本語教師数は,63,805人(同28.1%増),日本語学習者数は3,985,669人(同9.2%増)である。学習者数の多い国・地域は,中国,インドネシア,韓国,オーストラリア,台湾の順となった。日本語学習の目的・理由の一位は引き続き「日本語そのものへの興味」であったが,東南アジア諸国で中等教育に日本語教育が導入されたこともあり,「機関の方針」の伸びが大きかった。それと関連し,教育上の問題点において,「学習者不熱心」が拡大している点には注意が必要であろう。逆に,前回の調査で問題点の一位であった「教材不足」には改善傾向が見られた。学習者数を増やすという観点からは,今後も中等教育への日本語教育導入を進める国に対する支援,導入奨励といった支援策が鍵となると考えられ,教師・教材の質・量両面での向上,地域的広がりを意識した「種まき」,「水遣り」,多様化するニーズへの対応を着実に実行に移す必要がある。

(2)島田丈裕外務省大臣官房文化交流・海外広報課長より,外務省・国際交流基金の平成26年度日本語教育関連予算要求の取組状況について報告が行われた。
日本語学習の機会の拡大と環境整備を行い,また本懇談会での提言を諸施策として実現するため,平成26年度予算として約10億円を要求している。日本語教育については,日本再興戦略の中でもクールジャパンの推進に関連し,現政権での政策としての重要性がうたわれている。東南アジアの中等教育機関における学習者数の大幅増や,海外における中韓の自国語普及政策の強化の状況に鑑みると,日本語普及に係る速やかな施策の実施が急務となっている。

(3)岩佐敬昭文化庁文化部国語課長より,文化庁・文部科学省の平成26年度日本語教育関連予算要求取組状況について報告が行われた。
文化庁における日本語教育関連予算のうち,「新しい日本のための優先課題推進枠」として,新規で「魅力的な日本語発掘・発信プログラム」を要望している。これは,魅力ある日本語を媒体として日本文化や日本語自体を発信することで,日本文化や日本語自体への興味を喚起し,またそれをきっかけに日本語学習者を増やすための日本語学習アプリの開発を行なうことを目的としており,訪日外国人数の増にもつながると考えている。また,文部科学省では,在外教育施設等における継承語教育の在り方に関する調査研究を行なうため,「継承日本語教育等推進事業」を新規で要求している。

(4)齋木尚子国際文化交流審議官より,安倍総理の下に設置された「アジア文化交流懇談会」につき,概要の説明があった。
同懇談会は,本年4月,安倍総理がインドネシア共和国にて表明した対ASEAN外交5原則の中に「アジアの多様な文化,伝統を守り,育てていく」ことが掲げられており,この原則に受けて具体的な施策をとり進めるために立ち上げられた。9月に総理に提出された同提言では,「日本語学習支援」は「文化芸術交流の深化」と並び2本柱の一つとされ,日本人派遣教師の増員,現地人教師の指導力向上,現地教育関係者への働きかけ,IT技術の活用,日本語学習のメリットを享受できる環境づくりの5点の具体的施策が提起されており,それらは本懇談会の提言とも軸を一にするものである。

2.討議概要
上記基調報告を受け,会合出席者より,主に以下の意見がなされた。
  • 日本語教育関連政策の実施において,他省庁及び民間の活動との接点を探り,オールジャパンで実施する必要がある。現地に駐在する日本人や日本への観光客とも接点を持つことが重要。観光施策との接点で言えば、国際交流基金はJNTO(日本政府観光局)と関わる局面も多いことから、どのような形で協力できるのか検討していく必要がある。いずれにせよ、観光施策や企業進出との連携を図り、官民双方がwin-winになるような事業展開を行うことが必要。
  • 今回の基金調査結果によると,日本語学習の理由として「機関の方針」という項目が前回調査より大きく伸びているが,日本語教育導入の決定権者等への働きかけに関し,日本語を学ぶことの魅力や有用性を,中等教育段階から高等教育段階,更には社会人段階への流れの中で理解してもらえるようなアプローチが求められる。最終的には出口論を含んだ形での日本語教育を提示する必要がある。
  • 学習者が急増している東南アジア諸国、特に、インドネシアでは、中等教育段階で日本語が必修となったことにより,現地の日本語学習者数が急増したが,同学習者を高等教育においても日本語選択につなぎとめておくためには,中等教育から高等教育へのアーティキュレーション(連続性・連携性)が必要になってくる。また、日本語教師に占める母語教師の割合が圧倒的に低いことも課題。他方、母語教師の重要性はあるものの,長期的な日本語普及を考えるにあたっては,現地人教師の環境整備を充実する等,地域ごとの持続可能なシステム作りを目指す必要がある。
  • 日本語学習者のボリュームゾーン以外の国・地域においても,様々な日本語のニーズが生じている。各在外公館に,日本語普及担当官を据え,現地のニーズに合ったきめ細かい対応をすべきである。
  • 現在来日している日本語学習者については,ここ1、2年でその出身国・地域に変化が見られる。これまで中国,韓国,台湾で約8~9割を占めていたが,韓国,台湾の減少,ベトナム,ネパールの急増により,現在,中国,ベトナム,ネパール、韓国、台湾の順になっている。ベトナムやネパールの来日者については,母国での日本語学習の経験がない者も多いため、来日後の日本語学習のフォローや生活の基盤等にも注意を払っていく必要がある。
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