外交政策

平成25年4月9日
1 全体概要
 4月9日,ハーグ(オランダ)のオランダ外務省において,軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)第6回外相会合が開催された。NPDIは,2010年9月の国連総会の機会に日豪主導で立ち上げた,核軍縮・不拡散分野における地域横断的な有志国グループであり,本件外相会合は,昨年9月にニューヨークで行われた第5回会合に続く6回目の会合。午前10時15分から11時45分までワーキング・セッション,その後12時から13時30分までワーキング・ランチが行われ,引き続いて13時30分から14時まで共同記者会見が行われた。政治レベルの出席者及び国は以下のとおり。

我が国  岸田外務大臣
オランダ  ティマーマンス外相(議長)
ドイツ  ヴェスターヴェレ外相
トルコ  ダーヴトオール外相
UAE  アブダッラー外相
カナダ  デカード外務大臣政務官
 
2 会合の概要(1):ワーキング・セッション
(1)NPT体制への挑戦(北朝鮮)
岸田大臣より,北朝鮮による核開発は,国際社会全体に対する深刻な脅威であり,2月に核実験を強行したことは断固として容認できない,こうした北朝鮮の行為は,多様化する核リスクを増幅させる顕著な例であり,NPT体制への重大な挑戦である旨述べた。これに対し,ドイツやカナダの出席者からも,北朝鮮の挑発的な言動や核実験の実施,原子炉の再稼働に対する批判など,岸田大臣の発言に対する支持が述べられ,日本を含む関係国との連帯の重要性が述べられた。
 
(2)2014年NPDI広島外相会合と「ユース非核特使」
 岸田大臣より,2014年は被爆地広島で外相会合を開催予定であり,各国から外相に出席いただき,核兵器使用の惨禍の実相を直接見ていただきたい旨述べた。また,日本は唯一の戦争被爆国として,これまで非核特使の派遣を通じて核兵器使用の惨禍の実相を世界に発信する取組を行っている旨述べつつ,この非核特使制度を若い世代に広げ,「ユース非核特使」として立ち上げることを表明した。これに対し各国から,2014年に広島で外相会合を開催することは非常に時宜を得たものである旨発言が相次ぎ,広島会合に向けて,NPDIが更に存在感を高めるべく,市民社会の認識の啓発等,我が国のリーダーシップに対する期待が寄せられた。
 
 
(3)NPT運用検討プロセスに向けたNPDIの貢献
 オランダやドイツの出席者等から,非戦略核を含むあらゆる種類の核兵器の削減や,軍事戦略における核兵器の役割の提言など,NPT運用検討会議第2回準備委員会を念頭に,NPDIが今後のNPT運用検討プロセスにおいて果たしていく新たな分野での貢献の重要性について指摘がなされた。
 
(4)ハーグ共同声明及び作業文書の採択
 ワーキング・セッションの最後に,(1)非戦略核を含む全ての核兵器の体系的かつ継続的削減の必要性の強調,(2)5核兵器国に対する透明性向上の働きかけ継続,(3)核兵器の役割低減の重要性強調,(4)イランに対し,遅滞なき義務の完全遵守を強く要請,(5)北朝鮮に対し,全ての関連安保理決議の誠実な遵守と,更なる挑発の自制,(6)中東非大量破壊兵器遅滞設置構想国際会議の開催に向けたファシリテーターの取組を支持,(7)日本による「ユース非核特使」制度の立ち上げを歓迎,を内容とするハーグ共同声明を採択した。また,NPDIとしてNPT運用検討会議第2回準備委員会に提出する作業文書((1)包括的核実験禁止条約,(2)核兵器の役割提言,(3)非戦略核,(4)輸出管理,(5)非核兵器地帯,(6)核兵器国への保障措置の拡大適用)をエンドースした。
 
3 会合の概要(2):ワーキング・ランチ
 ワーキング・ランチでは,ヴェスターヴェレ独外相より,アルマティでのEU3+3とイランとの協議を含む,最近のイランの核問題を巡る状況について説明が行われた。また,中東非大量破壊兵器地帯設置構想国際会議のファシリテーターであるラーヤヴァ・フィンランド外務次官から同会議の準備状況について,また,ファルッツァNPT運用検討会議第2回準備委員会の議長より,同国際会議の開催延期が及ぼす影響を含む,第2回準備委員会の見通しにつき説明が行われ,NPT運用検討プロセスへのNPDIの引き続いての貢献に対する期待が表明された。出席者からは,中東地域においては,主要国の一部が現状維持を指向しているが,それは受け入れられないこと,NPTプロセスに対する市民社会の正当な理解と関心を如何に喚起していくかが課題である旨指摘がなされた。
 
4 評価
(1) 今次会合は,2月に核実験を強行し,核施設の再整備・再稼働を表明する等,北朝鮮の核問題が緊迫化する中で行われた。会合において,この問題を多様化する核リスクの顕著な例であり,グループの正当な関心事項であることを改めて確認し,北朝鮮に対してグループとして一致したメッセージを発信することができた。

(2) また,2014年の広島でのNPDI外相会合に関し,NPDI外相会合がNPT運用検討会議を翌年に控えたタイミングで被爆地にて開催されることの意義につき,各国から時宜を得たものとして評価が寄せられた。広島会合に向け,我が国のイニシアティブに対する強い期待が寄せられたことは,グループを主導してきた我が国の取組に対するメンバー国の高い評価を裏付けるものであった。

(3) 特に,核兵器の人道的影響や市民社会の認識を喚起することの重要性が各国から指摘される中で,核兵器使用の惨禍の実相を若い世代に継承していくという観点から,「ユース非核特使」制度の立ち上げを表明したことは,今後の軍縮・不拡散の取組における市民社会との連携について,我が国が先導して取り組んでいることを印象づけるものとなった。

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