
第46回OECD閣僚理事会(概要)
平成19年5月24日
1.5月15日から16日、第46回OECD閣僚理事会が開催され、我が国を代表して、甘利経産大臣、大村内閣府副大臣(経済財政政策担当)、及び浅野外務副大臣が出席した。
2.閣僚理事会では、「グローバル化、成長と公平」、「マクロ経済」、「イノベーションと成長」、「拡大と関与強化」、「貿易」等の議題の下で議論が行われた。会議終了後に、議長サマリー(原文
・仮訳)が発表された。
3.閣僚理事会の各議題における議論の概要は、次のとおり。
(1)事務総長による声明
- 2006年の閣僚理事会の付託事項についての進展を報告。OECDが国際経済問題に関する対話の拠点として、普遍的組織となる戦略的ビジョンを提示すべき(グローバル化への対応、新興経済諸国との関与強化等)。
(2)グローバル化、成長と公平
- グローバル化は経済成長の主要なエンジンであるとの見方で参加国の意見は一致した。同時に調整の困難(開放された市場により新たな雇用が創出される一方で、競争力のない分野で失業が生じる等)が生じうること、それへの対応が重要であることについても意見が一致した。グローバル化のメリットを国民一般に伝えることと、職業訓練や生涯学習を含む人的資源及び技能への投資が重要であることについても一致した。
- グローバル化の痛みへの対応について各国のベストプラクティスを広めるなど、OECDの果たす役割は大きいとの意見で参加国が一致した。
- 日本(大村内閣府副大臣)からは、日本が現在、グローバル化のポジティブな側面を最大化する「グローバル化戦略」と、グローバル化に伴う痛みを最小化するための「成長力底上げ戦略」により、グローバル化に対応する構造改革を進めていることを説明した。また、労働生産性の伸びを1.5倍に高める「成長性加速プログラム」等により、今後5年間のうちに2%程度、あるいはそれをかなり上回る実質経済成長率が視野に入ることが期待されることを説明した。
(3)経済の現況
- 参加国閣僚は、全体的な景気回復、ヨーロッパにおける失業率の減少、アジアの持続的な経済拡大を歓迎した。また、米国の景気減速は住宅市場における調整を主に反映しており、経済の他の部門には波及していないように見受けられるという見方を示した。日本に対しては更なる利上げは慎重にすべきであり、デフレ脱却が確認できてからにすべきとの指摘があった。
- 日本(大村内閣府副大臣)からは、日本経済の見通しを説明するとともに、「成長なくして財政再建なし」との理念の下、生産性向上を通じて成長力を高めると同時に、税の自然増収は安易な歳出に振り向けず、将来の国民負担軽減に向けるという、本年1月に決定した原則を堅持し、財政再建を着実に進めていくとの考えを表明した。
(4)イノベーションと成長
- イノベーションの成否が、競争力、生産性及び国の発展にとって決定的な要素であり、気候変動及び持続的成長のようなグローバルな挑戦に対処するための重要な鍵。
- イノベーション促進のためには、製品・労働市場の一層の開放・統合、民間・公共投資の増加が必要。教育システムも重要。偽造や著作権侵害など知的財産権の侵害への対処継続、知識と革新的製品・手順へのアクセス促進の手法とネットワークが必要。
- 環境・保健分野、イノベーションのグローバル化、イノベーション政策の評価及び国別分析に関する作業集約・統合を歓迎。サービス分野におけるイノベーションの影響に関する研究をOECDに依頼。
- 日本(甘利経産大臣)からは、「OECDイノベーション戦略」策定への支持を表明するとともに、「イノベーション・フレンドリーなビジネス環境整備」、「エコ・イノベーション」に関する研究プロジェクトを提案し、各国の賛同を得た。
(5)気候変動(「イノベーションと成長」の議題の下で議論された)
- 気候変動は、OECDの加盟国及び非加盟国の双方の経済に対する大きな試練。深刻な気候変動による潜在的な人的・経済的コスト回避のために、緊急の政策行動が必要。
- 気候変動に対応する環境・経済両面で効率的な枠組み構築のために、OECD及びIEAからの更なる寄与を期待。この枠組みには、主要な温暖化ガス排出国の参加が必要。この枠組は、民間投資家が排出削減への長期的投資を行うための予見可能な環境を提供し、低炭素ガス排出経済への移行のための支援策を提供すべし。
(6)改革の政治経済
- 議長(ソルベス・スペイン副首相)が、改革への取り組みとその困難について、スペインにおける公的年金及び地方財政制度の改革を例にとり、自らの経験を発表。
(7)拡大と関与強化(詳細は別添参照)
- ロシア、チリ、エストニア、イスラエル、スロベニアとの加盟協議開始、ブラジル、インド、インドネシア、中国、南アとの関与強化(将来の加盟の可能性を視野に入れる)、地域的協力関係強化の優先地域として東南アジアを指定することを決定。
- 拡大後のOECDが持続可能な財政基盤を持つようにするための財政改革を2008年閣僚理事会までに決定。
- 日本(浅野外務副大臣)からは、OECDのルールが新興経済国にも遵守される状況を作る必要があることを強調し、また、加盟国が拡大した場合の経費増をまかなうため、合理的で公正な財政負担の方法を遅滞なく決定すべしと主張し、各国の賛同を得た。
(8)貿易
- ドーハ開発ラウンドは、開放された貿易が世界経済の成長と、途上国の経済見通しの改善を実現する上で、歓迎すべき好機。この好機を活用し、成果を得ることは喫緊の課題。
- ドーハ・ラウンド交渉の後も、開放的な世界貿易体制について取り組むべき課題は存在する。急速に成長するサービス部門を効果的に自由化する方法、貿易の障壁を作ることなく国内改革を達成する方法、二国間・地域的・特恵的取り決めが多角的な体制をどのように補完すべきか等に関し、OECDの分析と助言を期待。
- バイオ燃料の生産及び使用についてOECD及びIEAにおいて更なる作業を行うべしとするスウェーデン及びノルウェーの提案を歓迎する。
- 日本(甘利経産大臣)からは、1)二国間・地域における経済連携の枠組みでは代替できないWTO体制の維持・発展の重要性、2)ドーハラウンド後の新秩序の方向性についての検討の必要性について述べるとともに、3)新国際貿易秩序の形成に向け、EPA、国内規制のあり方、サービス貿易のあり方等について、OECDが知的貢献を行うことへの期待を表明した。
別添
第46回OECD閣僚理事会(拡大と関与強化)
平成19年5月24日
第46回OECD閣僚理事会(5月15~16日)において、「拡大と関与強化」が議論され、新規加盟交渉の開始などについて決定された。その概要及び評価は以下のとおり。
1.概要
(1)拡大及び関与強化
(イ)ブラジル、インド、中国、南アフリカ、インドネシアとの間で、将来の加盟の可能性も視野に入れ、関与強化プログラムを通じOECDとの協力を強化する。
(ロ)ロシア、チリ、イスラエル、スロベニア、エストニアの5カ国との間で、OECD加盟交渉準備のための協議を開始する。
(ハ)他の既加盟申請国及び新規の加盟申請国については、将来個別に検討する。
(ニ)OECDにとって戦略的利益の高い国・地域との関係強化策を策定する。対象として、東南アジアを優先的に扱い、加盟の可能性のある国を特定することも視野に入れる。
(2)財政問題
(イ)OECDの安定的な財政基盤を確保するため、受益者負担原則と負担能力原則の双方を反映した形で改革を進める。この改革は、2008年の閣僚理事会前までに合意することとする。
(ロ)財政改革が完全に実施されるまでの暫定措置として、新規加盟国はOECDにおける自国の活動に必要な経費を負担する。
2.評価
(1)今回の閣僚理事会においては、新興経済国がOECDルールに沿って行動することを確保するため、特別に関与強化を進めるとの方向性がはっきり打ち出された。これは、わが国の従来からの主張と一致する。
(2)また、ロシアと加盟に向けた協議を早期に開始するとの決定も、ロシアの政策に肯定的影響を及ぼすことが期待される。なお、今回の決定は、加盟承認とは異なる。加盟の可否を決定するまでには、加盟候補国がOECDの各種ルールや規範を満たすか否かを様々な観点から審査するという過程が残されている。
(3)OECDが中国、インド、ブラジル、南アフリカ、インドネシアとの間で将来的な加盟の可能性も視野に入れて関与強化を図ることを決定したことも、上記(1)の我が国主張と合致したものと評価できる。また、東南アジアが優先的に関係を強化する地域として指定されたことも有意義であった。
(4)加盟国拡大に伴うOECDの経費増の具体的な分担方法については、今回の閣僚理事会では合意に至らなかった。ただし、我が国も提案した、明確な期限を設け、全加盟国が最低限の基礎料を負担すること及び受益者負担の原則に基づいて、新たな枠組みに合意すべしという点については原則的な合意をみた。その結果、明年閣僚理事会前までに財政改革の最終的な形について合意することとなった。