経済

2007年OECD閣僚理事会議長サマリー(仮訳)

2007年5月24日

 2007年の閣僚理事会はスペインが議長を務め、本閣僚理事会は「イノベーション:成長と公平のためのOECDアジェンダの推進」というテーマに重点を置いた。

1.拡大と関与強化(議題7)

 閣僚は、OECDが全世界に対して貢献できる範囲、政策的影響力、重要性を一層拡大する必要性を認識しつつ、「拡大と関与強化」に関する報告書を歓迎した。閣僚は、ブラジル、インド、インドネシア、中国及び南アフリカの政策や活動が如何にグローバルなインパクトを持ち、OECDの取り組んでいる問題に影響を与えるかに留意し、世界経済におけるこれら諸国の重要性を強調した。閣僚はまた、OECDによる優れた政策実施の経験がこれらの国々の利益となりうることを考慮した。閣僚は、関与強化のプロセスを通じて又は正式な加盟国として、これら主要な国との協力を強化するよう事務総長に要請した。

 閣僚は、チリ、エストニア、イスラエル、ロシア連邦及びスロベニアとの加盟交渉開始を決定した。ロシアはOECDとの歴史的関係を有する特別な事例と見なされた。閣僚は、加盟プロセスがこれらの国の改革アジェンダを促進し、その実施と持続性を確保するために役立つと考えた。チリ、エストニア、イスラエル及びスロベニアは、一定期間、積極的にOECDの活動に関与し、OECDのグッドプラクティスから利益を得てきた。これらの国々がOECDへの加盟を希望することは確認されている。

 閣僚は、OECDにとって戦略的利益を有する他の選ばれた国々や地域との関与を強化することを支持した。東南アジア諸国は、極めてダイナミックかつ影響力のある経済を有し、したがって加盟の可能性がある国を特定するために更なる注意を払うに値すると見なされた。

 閣僚は、組織拡大の影響を考慮した財政改革の重要性を強調した。理事会は、2008年の閣僚理事会までに、この改革に関する合意に達することとする。この改革はOECDが強力かつ持続可能な財政的基礎を確保するものである。

 閣僚は、OECDの取り組みは、健全な経済政策やグッドガバナンスを通じて、平和・安定・繁栄・民主主義的価値を促進するというOECDのもつ根本的使命を果たす上で、十分な機会を提供するものだと認識した。閣僚は、真のパートナーシップが真の成功を獲得すると確信しつつ、OECDが世界において、その創設の視野と高い標準に忠実であり続けるよう慫慂した。

 加盟国拡大とそれに伴う組織強化に関する議論した際、G8との強化された関係を通じて、或いはサービス提供を通じ途上国をサポートすることによって、OECDの重要性を高めるための更なる道筋が示唆された。G8議長に対し、特に新興経済大国に対するG8の関与について、OECDの支持が言及された。

 閣僚は、2006年閣僚理事会で与えられた最初の委任事項を実行するにあたっての事務総長の指導力を高く評価した。

2.事務総長による声明

 事務総長が2006年閣僚理事会による委任事項の進捗を報告した。事務総長は、OECDがグローバルな経済問題についての対話の拠点たる役割を発揮することのできる、より普遍的な機関となるための戦略的将来像を概説した。

 グローバル化は容赦なく進行するものである。その利益を最大化し、グローバル化から得た収穫を公平に分配するためには、優れた政策が行われなければならない。OECDは重要な役割を有する。OECDの分析と政策助言は、基準を作り、グッドプラクティスを提示し、相互審査を通して結果をモニターするというOECD独自の強みにより、世界経済を形成することに役立ってきた。OECDは一層、優れた政策を奨励し実施を後押しする必要がある。政治経済的問題を前進させ、改革を成功裏に実施するための選択肢を提供する努力において不作為や遅延がもたらす影響をOECDは説明できる用意ができていなければならない。

 グローバルな挑戦に対する一致した対応を編み出す能力を強化するために、OECDは、より積極性、開放性、代表性を高める必要がある。OECDは、多様性に対する感度を高めるとともに、成長と開発につながる多くの異なる道筋に対し、より深い理解を示さなければならない。OECDは、グローバル化の過程においてますます役割を増大させている新興経済諸国との関与を深めなければならない。OECDはまた、幅広い関係者、関係機関との結びつきを一層強めなければならない。

 閣僚は、OECD創設に結びついたマーシャル・プランから60周年を迎えることに留意し、OECDが、グローバルな水準で成功裏の協力関係を築くという伝統を継続することへの希望を表明した。閣僚は、グローバル化の利益のより幅広い共有を確保することを助ける政策を特定し、また、そうした利益を人々に理解させることに関し一層の役割を果たすことを、OECDに要請した。

3.グローバル化、成長と公平(議題3)

 閣僚は、グローバル化は経済成長の主要な原動力であるという点で一致した。OECD諸国の中でも、より開放された経済のほうが成長が速い傾向にある。また、人口の多いOECD非加盟国の国際経済への統合が増えることは、繁栄の促進と貧困の削減に寄与してきている。

 閣僚は、グローバル化により、調整の困難が生じるかもしれないことを認めた。開放された市場が新たな機会の生じる分野で雇用を創出する一方で、衰退する分野や職業における失業も引き起こす。このことは、職の不安定さ(特に失業率の高い国におけるもの)と世界的な統合が増すことから生じると考えられているその他の脅威を説明するかもしれない。閣僚はまた、多くの国々がグローバル化のプロセス及びそれがもたらす利益において傍観的な姿勢をとり続けていると認識した。

 これらの懸念に対し効果的な対応をとることが、全員に対するグローバル化の利益を最大化し、より自由な貿易と投資に対する大衆からの支持を維持するために、また、全ての経済主体がグローバル化によりもたらされる機会から利益を享受できるような環境を生み出すために重要である。国家や市民がイノベーションにより牽引される環境において調整を図り成功することを助ける上で、職業訓練や生涯学習を含む人的資源及び技能への投資が重要である。

 閣僚は、健全なデータと分析に基づいて、問題となっている事項の真の姿について世論を啓発することが緊急の課題であるということで一致した。閣僚は、グローバル化の利益を評価し、伝達することの重要性を強調した。閣僚は、この課題に臨む閣僚を助ける上で、経済社会の構造政策問題に学際的観点から対応し、ベストプラクティスを特定し共有することにおいて、OECDが優れているという点で一致した。

 閣僚は、グローバル化のもたらす試練と機会の両方についてのいくつかの国における経験を共有した。閣僚は、国の政策と制度の質が、グローバル化により現実に生じる影響を左右するということに留意した。

 閣僚は、OECDの「新雇用戦略」が製品及び労働市場の改革についてのベンチマークを提供し、それによりグローバル化によるネットの利益を強化するとともに、適切な職と所得の安定を提供することにつながることを認識した。閣僚は、また、この方面において、優れたパフォーマンスを達成しかつ維持するための処方箋は一つに限られる訳ではないことを強調した。

 OECDフォーラムへの参加者、経済産業諮問委員会(BIAC)及び労働組合諮問委員会(TUAC)は、今回の閣僚理事会の議長等と行った協議の中で、同様にこれらの懸念を表明した。OECDフォーラムにおける議論では、健康管理、エネルギー、水、公共サービスといった分野におけるイノベーションの果たす重要性が強調された。また、怖れるべき脅威とする見方と、変革と機会に向けた力とする見方の2つの対照的な見方に焦点を当てた。BIAC及びTUACとの協議においては、グローバル化の過程のこれら2つの側面が強調され、生活水準を向上させる潜在力と、グローバル化により生じ得る調整コストの両面に力点が置かれた。イノベーション促進と、人的資源を育成することの必要性についても一致がみられた。

4.経済の現状(議題4)

 閣僚は、マクロ経済の見通しを議論した。閣僚は、アジアにおける持続的な拡大のモメンタムとともに、欧州大陸における回復のダイナミズムと失業率の減少を歓迎した。閣僚は、米国の景気減速は住宅市場における調整を主に反映しており、それは他の経済部門には波及してはいないようだということに留意した。米国の最近の経常収支赤字の縮小にもかかわらず、エネルギー価格、ヘッジ・ファンドの役割、幾つかのタイプの資産の高い見積もり及び現在の経常収支不均衡の展開に関して幾つかの懸念が表明された。

 閣僚は、グローバル化のディスインフレ効果にも関わらず、部分的にはエネルギー価格の高騰と経済の供給余力の縮小の結果として、幾つかのOECD諸国ではインフレーションが迫っている或いはいくらか適切なレベルを超えていることに留意した。主要な例外は日本であり、持続的成長にも関わらず、デフレーションからの脱却は緩慢である。財政面では、少なくとも高齢化により高まる歳出圧力という観点から、閣僚は、財政再建のため歳入の拡大を活用する必要性を強調した。

 閣僚は、閣僚レベルで開かれたIEA運営委員会の結果に留意した。

5.イノベーションと成長(議題5)

 閣僚は、イノベーションの成否が、競争力、生産性及び国の発展にとって決定的な要素であり、気候変動や持続可能な開発のようなグローバルな挑戦に対処するための重要な鍵であるという考えで一致した。

 幾つかのOECD諸国で生産性のモメンタムが衰えている又は低下している中で、閣僚は、製品と労働の市場のより一層の開放と統合を通じてイノベーションのための枠組みの条件を改善する必要性があるという点で意見の一致をみた。閣僚は、イノベーションにおいて公共投資と並んでより大きな民間投資を促進する必要性と、技術と研究者の供給を確保するための教育システムの重要性に特に留意し、イノベーションの分野横断的性格を強調した。閣僚は、イノベーションと環境の関連性を強調し、エコ・イノベーションが各国の環境問題への取り組みに貢献しうることに留意した。閣僚は、イノベーションは技術面と非技術面の双方を含む広い概念であることに留意した。閣僚はまた、特に偽造や著作権侵害など知的財産権の侵害に対する取り組みを継続しなければならないと同時に、知的財産政策による継続的なイノベーション奨励と知識普及の助成を確保するためには、知識及び革新的な製品と手順に対する開かれたアクセスを促進する手段とネットワークが必要であることに留意した。

 閣僚は、“価値の連鎖を動かす:グローバル経済における競争力の維持とビジネス・サービス分野におけるグローバル化とイノベーション“という研究を歓迎した。閣僚は、グローバル経済のインフラにおける根幹をなす構成要素としての情報通信技術の役割に留意し、2008年6月に韓国のソウルにて開催予定の”インターネット経済の未来“に関する閣僚会議を歓迎した。

 閣僚は、イノベーションのパフォーマンスとそれの成長に対する貢献を強化するためには戦略的包括的な政府横断的政策アプローチが必要であると結論付けた。閣僚は、イノベーションの領域におけるOECDの質の高い貢献を認識し、OECDがこの領域における作業を深化させることを要請した。閣僚は、「新雇用戦略」に沿って策定され、OECD加盟国及び非加盟国における政策形成に重要な貢献を行いうる、「イノベーション戦略」の計画を歓迎した。この「戦略」は、実証分析と評価、対話とレビューの枠組み、イノベーションと経済パフォーマンスのリンクに関する新しい指標群、イノベーション・フレンドリーなビジネス環境のためのイニシアティブ、及びベストプラクティスと政策提言の作成を中心的要素として策定される。

 この戦略には、イノベーション、起業家精神及びより広域のビジネス環境に関するOECDの作業が活用できる。閣僚は、グローバルな課題(特に環境や保健分野における課題)、イノベーションのグローバル化、イノベーション政策の評価、及び国別分析に関する横断的な作業を取りまとめることを歓迎した。閣僚は、サービス分野におけるイノベーションの影響に関する研究をOECDに要請した。OECDはまた、新しくより開かれたイノベーションのためのビジネス環境といった文脈において、現行の知的財産権制度の機能を精査することができ、イノベーションを刺激することと知識へのアクセスを提供することとの間の適切なバランスを確保する方法を提案することができよう。ソフトウェア分野におけるイノベーションに関するプロジェクトを実施するという提案が、この努力に有効に貢献するものとして歓迎された。

6.気候変動

 閣僚は、気候変動がOECDの加盟国及び非加盟国の双方の経済に対する巨大な試練であり、また、深刻な気候変動による潜在的に大きな人的かつ経済的コストを回避するために、緊急の政策行動が必要であることを認識した。OECDによるこれまでの分析が示すように、この分野における政策を正しく実施することが、経済発展に及ぼす影響を最小限に抑えつつ、気候変動による影響の緩和と気候変動への適応を確実に実現するために重要である。閣僚は、気候変動に対応する環境上及び経済上効率的な枠組みの構築を助けるために、OECD及びIEAからの更なる寄与を期待する。行動に要する費用を低く抑えるため、このような枠組みには、主要な温暖化ガス排出国の参加が必要である。この枠組みは、民間投資家に対して排出削減への長期的投資を行うために必要な予見可能な環境を提供し、また炭素ガスの排出量が少ない経済への移行を支援する方策を提供するように、一連の異なる政策手段を統合するものでなければならない。

7.改革の政治経済(議題6)

 議長は、スペインにおける改革実施及び関連する困難にいかにして取り組むかについて、公的年金の改革及び地方財政制度の改革という2つの例をもとに、自らの経験を出席者に紹介した。豪州、オーストリア及びポルトガルも、改革の政治経済に関する自国の経験を紹介した。閣僚は、改革に痛みが伴わないことはまれである一方で、不作為でいることの費用が高いことに留意した。そのため、改革の必要性を一般市民に効果的に伝えることが主要な課題となる。各国が他の国における改革の経験(成功と失敗の両方)から相互に学ぶべきことは多い。閣僚は、改革の過程において、経済成長及び雇用創出の条件を維持する必要性とともに、調整を支援することの重要性を強調した。閣僚はまた、改革努力においては、より幅広い関係者に働きかけることと、社会的パートナーを巻き込むことの必要性を強調した。

 閣僚は、改革の立案、実施及び政治経済的側面に対するOECDの質の高い実証分析や国際比較可能なデータを通じた貢献の重要性を強調した。OECDは、国別及びテーマ別審査における豊富な経験を基礎にグッド・プラクティスを見い出すことができる、格好の立場にある。閣僚は、OECDが改革の政治経済に関する作業を強化し、改革に努力する各国政府に対する支援を増大させるよう呼びかけた。

8.貿易(議題8)

 OECDの作業が明確に示したように、ドーハ開発ラウンドは、開放された貿易が世界経済の成長に寄与し、また、とりわけ途上国の経済展望を改善する上で、歓迎すべき好機を提供するものである。閣僚は、この好機を活用する決意を表明するとともに、この時機に求められる成果を得ることの緊急性を自覚した。

 ドーハ・ラウンドの成功裏の妥結は、多角的な貿易体制への是認であり、また貿易摩擦のリスクを回避しつつ、相互に合意したルールを一致した行動に基づく世界経済のガバナンスと持続可能な成長に貢献するものである。

 閣僚は、貿易を成長のエンジンとして機能させるため、途上国に対して貿易のための援助を提供することの重要性を強調した。

 ドーハ・ラウンド交渉が妥結したとしても、開放的な世界貿易体制に対する大きな試練が存在することが見込まれる。また、貿易自由化により得られる利益とそれにかかる費用、及びより開放された貿易環境に向けた調整を促進する効果的な政策対応は、なお一層広く理解される必要がある。急速な成長を遂げているサービス部門を効果的に自由化する方法を描くためには、新しい情報と革新的な分析が求められるであろう。規制や基準の面を含め新たな貿易障壁を生じさせることなく、国内政策上の目標を達成する方法を見い出すことが、ますます重要となるであろう。如何にして二国間・地域的・特恵的取り決めが多角的体制を最も良く補完するようにするかに関する情報が必要とされるであろう。閣僚は、このような試練と好機に最善の対応をとるためのOECDによる分析と助言を期待する旨示唆した。

 閣僚は、OECDとIEAが、バイオ燃料の使用増加促進を含め、バイオ燃料の生産及び使用に関する研究に一層取り組むとの、スウェーデン及びオランダからの提案を歓迎した。この研究は、2008年のOECD閣僚理事会に先立って発表される。アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、香港、インド、ロシア、南アフリカの代表がこのセッションの議論に積極的に参加し、議論を深めた。

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