
2010年OECD閣僚理事会結論文書(仮訳)
平成22年5月28日
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- 1. 2010年のOECD閣僚理事会(MCM)の機会に,我々,閣僚は,議長ベルルスコーニ・イタリア首相をとし,オーストラリア,ノルウェーを副議長とし,その下に集まった。我々は,OECDをよりグローバルかつ多様なものとすることに資する,チリの加盟及び最近のエストニア,イスラエル及びスロベニアに対する加盟招請を歓迎した。
- 2. 閣僚理事会の討議は,加盟プロセスを継続しているロシア及び「関与強化」プロセスにある5か国(ブラジル,インド,インドネシア,中国及び南アフリカ)の参加により,多大な利益を得た。
- 3. 我々は,我々の経済が,前例なき国際協調の下にとられた力強い政策対応の結果,回復していることを歓迎する。しかしながら,多くの国における高い水準の失業率及び金融部門及び家計におけるバランスシートの調整が進む中で,回復は,いまだぜい弱である。我々は,最近の出来事が示したように,経済的安定へのリスクが引き続き残存していることを明確に認識する。特に,ソブリン債市場における現下の緊張した状態は,いくつかの国の経済見通しを依然として取り巻く高い不確実性をよく示している。我々は,金融市場の規制及び監督においてさらなる進捗がなされるべきであることに合意する。我々は,経済のガバナンスを強化する決定と並んで,欧州における金融の安定を確保する力強い措置を歓迎する。
- 4. 我々は,民需の持続可能な成長が根付くまで適切な措置により回復を支援する努力を継続する。同時に,政策支援を必要以上に継続するリスク及び問題を最小化することが重要である。我々は,個別の国の状況を考慮しつつ出口戦略を策定し,これを公に伝え,回復が確実になれば,国際的な波及に留意しつつ,これを実施する。可能な国は,国内における成長の源を拡大すべきである。これは貯蓄を増やし財政赤字を削減すべき国における需要減少の影響を和らげるだろう。
- 5. さらに,回復を確固たるものとし,持続可能かつバランスのとれた成長への移行を達成するために,特に,競争力を高め,新たな成長の源を活用するための構造改革を実施するための新たな政策及び戦略が必要である。我々は,かかる我々の努力を支援するためのOECDの取組みを評価し,OECDが,マクロ経済や構造問題及びこれらの相互関係に関する相互審査の取組みを通じたものも含め,関連する政策分析や勧告を提供し続けることを慫慂する。
- 6. かかる観点から,我々は,事務総長が,昨年の挑戦課題や成果の主なものを記載し,OECDがさらなるインパクトを持つための事務総長としての戦略をとりまとめた事務総長によるOECD戦略的方向性ペーパーを歓迎する。
財政再建
- 7.1 ほとんどのOECD諸国の財政状況は,危機の結果,著しく悪化し,また,国民の高齢化による増大しつつある圧力に直面しており,より持続可能な軌道に乗せる必要がある。財政再建は,重大な課題である。
- 7.2 回復の速さや持続可能性,財政状況を含め,各国固有の状況を考慮しつつ,財政ルール等の適切な制度的メカニズムを通じ,信頼性と透明性のある中期的な財政再建計画を策定することが重要である。我々は,成長を危うくしないような形で,これらを実施する。
- 7.3 財政再建を実施するにあっては,構造的な財政収支を改善し,中長期的に公的債務の負担の安定化・低下を図る。公共支出の優先順位付け及び成長にやさしい税制改革により,潜在成長力を維持する重要性を認識する。
- 7.4 我々は,持続的成長を達成するための財政再建及び構造調整の役割に関するOECDの作業の成果に期待する。
雇用
- 8.1 我々は,「雇用なき回復」及び「雇用なき成長」を回避するために取り組んでいる。我々の政策措置は,危機による最悪の影響を緩和することに役立ったが,ほとんどのOECD諸国で失業率は高止まりしている。我々は,この雇用危機に対処し,すべての人々のための回復及び成長を促進するため,包括的で,遍く広がり,革新的な雇用・社会政策を策定する。
- 8.2 現在の優先課題として,最もぜい弱なグループと地域に焦点をあてて,積極的雇用政策,就職支援プログラム,教育及び訓練の向上,労働のためのインセンティブと組み合わせた適切な社会保障制度やセイフティーネットの確保に取り組む。
- 8.3 中長期的には,人口動態の変化による課題や格差を縮小させるため,質及び量において優れた雇用を創出する成長を支援・促進し,労働市場への参加を改善する。このために,供給及び需要の両面において労働市場の機能を向上するために取り組む。
- 8.4 我々は,2009年9月のOECD労働雇用閣僚会合における,技能及び能力の開発及び訓練を促進するための措置をとるとのコミットメントを再確認する。これは,知識を基礎とした低炭素経済への転換や医療・介護分野の拡大から生ずるものを含め,将来の職のために,労働者が,十分な技能を備えることを確保するものである。我々は,イノベーション戦略及びグリーン成長戦略において,人的資源や技能の側面が強調されていることを歓迎し,OECDの分野横断的な知見にかんがみ,これがOECDによるさらなる作業の良い基礎となることを期待する。
- 8.5 我々は,OECDによる雇用に関する有益な作業やILO等の関係国際機関との協力の下での独特な貢献の継続を評価する。我々は,将来の職への展望を促進するために技能を高めることを含め,若者が労働市場において確固たる足場を得ることを支援するための政策が求められており,差し迫った課題である若年失業に関するOECDのさらなる作業に期待する。また,我々は,女性の経済的機会やジェンダー間の衡平を増加させることに関し,そのための政策オプションを含め,OECDのさらなる作業に期待する。
構造改革
- 9.1 我々は,我々の潜在成長力を拡大させ,財政再建,失業,高齢化,格差などに対処し,将来の経済ショックに対処するため,耐久力を強化するための構造改革を実施するとのコミットメントを改めて確認する。かかる観点から,我々は,OECDによる構造政策の作業が有する比較優位を評価する。
- 9.2 さらに,世界経済の回復が継続するとともに,グローバル・インバランスが拡大する可能性がある。OECD及び非OECD経済における,製品,労働,金融市場における改革の推進並びに適切なマクロ経済政策が,ひいては,よりバランスのとれたグローバルな成長の達成を支援すると確信する。
成長の源
(グリーン成長)
- 10.1 グリーン成長は,気候変動,生物多様性の損失,天然資源の持続不可能な使用等の環境面での課題に対応しつつ,経済成長や開発をもたらすためのパラダイムとして,国々の間で支持を得つつある。我々は,移行プロセスにおける構造的変化や必要な政策の一貫性の確保に適切に注意を払いつつ,費用効率的な政策を通じ,グリーン成長への転換を加速する重要性を強調する。我々は,グリーン成長を追求するためにとられる措置が,国際貿易に係る義務と整合的なものであることを確保する。先進国及び開発途上国の双方において,グリーン・イノベーション,環境物品やサービス,資源・エネルギー効率的な技術等の環境技術の先進国及び開発途上国の双方における普及が死活的に重要である。
- 10.2 我々はグリーン成長戦略に関する中間報告を歓迎するとともに,2011年の閣僚理事会において,イノベーション戦略の成果を活用し,実際的なメッセージや政策手段を提供するような統合報告を提出すること期待する。我々は,OECDがグリーン成長を促進する世界的な努力の中心的役割を果たし続けることを慫慂する。
- 10.3 我々は,環境に有害な補助金のような,グリーン成長経済への移行を損なうような政策を回避,廃止,または改革する重要性を認識する。我々は,G20によってとられた,中期的に,不経済な消費を奨励する非効率な化石燃料に対する補助金を合理化し,段階的に廃止するとのイニシアティブを支持し,G20の要請によるOECD及びIEAの作業の継続に期待する。
- 10.4 我々は,コペンハーゲンにおけるCOP15を含め,これまでの努力に基づき,カンクンにおけるCOP16において肯定的な成果に到達するとのコミットメントを再確認する。
(イノベーション)
- 11.1 イノベーションは,伝統的分野及び高成長・高付加価値分野の双方において,長期的成長の重要な源である。イノベーションは,より高い生産性のために極めて重要な貢献を提供し,グローバルな課題や社会的な課題に対処することができる。したがって,我々はイノベーション戦略の最終報告を歓迎する。
- 11.2 イノベーションは,幅広い分野の活動にわたる広範な現象であることを認識し,我々は,個々の国の状況を踏まえつつ,1)教育や訓練により,人々にイノベーションを行う能力を与え,2)イノベーションを促すような,規制や租税政策等の枠組的環境を採用し,3)起業家精神を促し,新興企業,中小企業を支援し,4)公共研究システムを向上させ,知的財産権の実効的な保護を伴う知識ネットワーク及び市場を発展させる。
- 11.3 イノベーション戦略を実施するにあたり,我々は政策の一貫性を確保するためガバナンスを向上させ,国際協力をさらに促進する。
- 11.4 イノベーション戦略は,それ自体が目的でなく,さらなる作業の方向性を提供するものである。我々は,OECDに対し,グリーン成長との強い連関を維持しながら,関連する計測手法や統計の改善や,イノベーション戦略の評価の枠組みを発展させることを含め,我々のイノベーション戦略の策定及び改善を支援するための努力の継続を要請する。
(貿易及び投資)
- 12.1 危機にもかかわらず,保護主義は,多くの人々が懸念したほど幅広く拡大しておらず,これは,特に,我々の国際的協調の努力の成果である。我々は,引き続き注意を払い,あらゆる形態の保護主義に対抗するとのコミットメントを再確認する。かかる観点から,我々は危機への貿易関連政策対応に関するOECDの勧告を歓迎する。我々は,OECD,WTO,UNCTADにより,協同作業として行われる,貿易及び投資に関する作業の継続を支持する。
- 12.2 我々は,市場を開放し,経済成長を生み出し,これまでの進展を基礎とする,早期の,野心的で,バランスのとれた,包括的なドーハ・ラウンドの妥結に引き続きコミットする。
- 12.3 持続可能かつあまねく広がる成長を促進するとの我々の共通の利益に照らし,我々は環境物品及びサービスの貿易及び投資を容易にするための努力を探求し,実効的な「貿易のための援助」を促進する。さらに,全ての主要な輸出国に対して,公的に支援された輸出信用の分野で共通の国際的な枠組み及びアプローチを適用するよう,引き続き慫慂する。我々は,持続可能な低炭素・エネルギー効率的な技術に関する公的に支援された輸出信用の枠組みをさらに発展させるための我々の努力を強化する。
- 12.4 我々は,開かれた市場が,高い水準の経済成長の達成や,究極的には,良質かつ高給の職を創出する際において果たす,極めて重要な役割を強調する。我々は,貿易,成長と雇用の関係を含め,貿易の利益に関するOECDのさらなる作業を歓迎し,今後1年におけるこれらの努力の成果に期待する。
- 12.5 国際投資は危機からの回復及び経済発展一般のために死活的に重要である。我々は,また,貿易のフローや雇用創出の主要な原動力として投資の重要性に留意し,経済成長の拡大や発展への投資の貢献に対し,より注意を払うことを要請する。我々は国際投資に関するベストプラクティスの促進や投資ルールに関する分析作業においてOECDが果たしてきた中心的な役割を認識する。かかる作業は継続し,他の機関と協力しつつ強化される必要がある。
- 12.6 我々は,多国籍企業に関するOECDガイドラインの改定作業の正式な開始を歓迎し,このガイドラインが責任あるビジネス行動に貢献し,また,それによって,開かれた市場に対する広範な社会的な支持に貢献していることに留意した。
(社会進歩の計測)
- 13.1 持続可能かつバランスのとれた成長を促進する必要にかんがみ,我々は,経済発展の社会的かつ環境的な側面を考慮した計測手法により利益を得るであろう。我々は,OECDに対して,計測の課題を政策決定者のニーズにより合致させることを目的として,この重要な問題について,さらなる提案を策定することを慫慂する。
適切性,健全性,透明性
- 14. 危機の深さ及び幅広さは,適切性,健全性,透明性という基本的な原則に対する我々のコミットメントを強化する必要性を示した。我々の将来の成長及び安定は,国際経済及び金融取引を支える共通の一連の原則に基礎を有するものでなければならない。OECD加盟国並びにブラジル,エストニア,イスラエル,ロシア及びスロベニアが「国際ビジネス及び金融活動に関する適切性,健全性,透明性に関する宣言」を承認したのはこのような点を念頭においてのことである。
開発
- 15.1 グローバルな経済協力は,開発途上国における経済発展と社会進歩を支援する際の鍵となる要素である。我々は,全てのパートナーの共同責任である,2015年にミレニアム開発目標(MDGs)を達成するとの強いコミットメントを再確認する。かかる観点で,政府開発援助(ODA)は,極めて重要な役割を果たし,OECDは,現在のモニタリング・プログラムを継続し,国際的なODAコミットメントを果たすための進展を慫慂する。同時に,我々はODAのみによっては,ミレニアム開発目標を達成できないと見込まれることを認識し,革新的資金調達を活用することを探求し,援助の効率性及び効果を促進する。我々は,我々の援助コミットメントの効果を高めるためのOECDの作業を評価する。我々は,また,MDGsの進歩のためには,開発途上国が,国内資源を動員し,広範な基礎を有する成長を支援する政策を講じ,また及び制度を構築することを認識する。
- 15.2 我々は,開発問題に対処するにあたり,開発援助だけでなく,良きガバナンスの重要性を強調し,究極的には世界経済の成長のより包摂的プロセスの促進により,より持続可能なものとなるような,広範かつ一貫性のあるアプローチを支持する。我々は,投入資金の計測をさらに進める努力を歓迎し,開発協力の影響や成果を計測することに,より焦点を当てる必要性に合意する。
我々は,三角協力,情報の共有,ベスト・プラクティスや教訓の広報を含め,伝統的及び新興ドナーとの間の対話の強化を呼びかける。
- 15.3 我々は租税と開発の分野において進展を図る緊急の必要性を認識する。効果的かつ透明性のある租税制度は,政府の市民に対するアカウンタビリティを向上させ,安定的かつ予見可能な成長を促す環境に貢献し,腐敗との闘いを支援する。我々はOECDがより効果的な租税制度の策定を補助し,これらの国が海外租税逃避と戦うことを支援するための,OECDと途上国との協力を賞賛する。
- 15.4 我々は,OECDに対し,より改善された開発のための政策一貫性を促し,全ての開発パートナーとの対話と協力を促進すること等により,開発効果を向上させることを目指すよう慫慂する。我々は,現在実施中の開発目標に係る取り組みを含め,開発の側面をOECDの組織全体の作業において,主要な取り組みとするためのOECDのさらなる努力を支持する。
グローバルな経済協力
- 16.1 我々は,OECDの実質的な作業において,より深い協力関係を設けることが,OECD加盟国,加盟候補国,及び「関与強化」パートナーにとって貴重であるとの見解を共有する。我々は,OECDの各組織,今後の閣僚会合,ならびにグローバル・フォーラムや地域対話において,よりあまねく広がる持続可能かつバランスのとれたグローバルな成長に向けて,共に緊密に取り組む。我々は,関与のための具体的なプログラムを策定・実施することや,プロセスを評価するため定期的に会合を行うことを探求する。
- 16.2 我々は,強固で,持続可能かつ均衡ある成長のための枠組を含む,G20やG8などの,様々な国際フォーラムへのOECDの貢献を歓迎し,OECDが質の高い作業を継続することを慫慂する。
我々は,OECD50周年と機を同じくして行われる,次回のOECD閣僚理事会で,再会することを期待する。