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「NGO・外務省相互学習と共同評価」(ベトナム)
「総合的子どもの栄養改善事業」
「フエ市児童福祉総合支援プロジェクト」

1.NGOとの共同評価:
 今回の共同評価においては、ベトナムにおいて実施されている、開発福祉支援事業2件を評価することにより、開発福祉支援事業や双方にとっての今後の協力・連携の具体的なあり方等について、提言を得ることを目的とする。
 (従来、「NGO・外務省相互学習と共同評価」は、NGO関係者とODA関係者が、共同で双方の援助活動を評価することを通じ、互いの援助活動につき学習するとともに、各々の事業形成や援助方針等にフィードバックしつつ、今後の協力・連携の方向性を導き出すことを目的としてきた。)
(クリックすると画像が変わります)
2.国名:ベトナム
3.評価対象:開発福祉支援事業
 (1)総合的子どもの栄養改善事業
 (社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、1998年12月~2001年12月)
 (2)フエ市児童福祉総合支援プロジェクト
 (ベトナムの「子どもの家」を支える会、1999年1月~2002年1月)
4.評価者:
 (NGO側)
 磯田 厚子 日本国際ボランティアセンター副代表、女子栄養大学助教授
 杉本 正次 名古屋NGOセンター副理事長・事務局長
 吉田 明彦 日本国際飢餓対策機構職員
 (ODA側)
 白川 光徳 外務省経済協力局評価室長
 村松 一二美 外務省経済協力局民間援助支援室事務官
 内田 淳 JICA企画・評価部評価監理室職員
 (コンサルタント)
 岩川 薫 (株)パデコ プロジェクト・コンサルタント
5.現地調査実施期間:2001年2月19日~23日
6.プロジェクトの分野:福祉
7.プロジェクトの目的及び活動内容
(1) 総合的子どもの栄養改善事業
(目的)プロジェクト対象地域での3歳以下の子どもと妊産婦の栄養状態改善状況を数値化できる指標を用いて持続的に向上させる。
(活動内容)(イ)子どもの栄養事業(ロ)産前検診(ハ)家庭菜園の普及(ニ)小規模貸付
(2) フエ市児童福祉総合支援プロジェクト
(目的)フエ市における障害児のリハビリを行うと共にストリートチルドレン等の児童の福祉を促進する。
(活動内容)(イ)病気の子ども及び障害児の手術・リハビリによる治療(ロ)児童文化センターの充実による音楽、図書、日本語、英語、絵画等の児童文化の普及向上(ハ)子どもの自立を目指した上級職業訓練センターの建築及び研修の実施
8.評価結果:
 開発福祉支援事業においては、「住民への直接裨益」「住民参加」「ソフト支援」に重点を置くべきであるが、今回視察を行った2つのプロジェクトについては、双方共に草の根レベルの住民等に直接裨益している点で評価できる。
(1) 総合的子どもの栄養改善プロジェクト
(イ) 目標の達成度・効果
プロジェクトの主要目標である中・重度の低体重栄養不良については、大幅な改善が見られた。また、急性の栄養不良についても、明確なプロジェクト効果が測定された。なお、長期的なスパンで効果が発現する軽度の低体重栄養不良及び慢性の栄養不良については、一部の地域を除いて、まだ十分な効果が現れるには至っていない。
(ロ) 効果・活動の持続性
対象地域の村民から選ばれる「草の根保健婦(Health Volunteer)」を中心として、母親の意識改革及びそれによる行動変化を重視し、地元で手に入る食材を利用するなど、持続性、自立発展性によく留意してアプローチ方法を選択している。対象地域の人民委員会についても関係局間相互の連携が行われており、各関係者の当事者意識は高い。現地視察を行ったビンロック村では、すでに母親の行動変化が見られるなど協力効果はかなり浸透、定着しており、プロジェクト終了後も子どもの体重測定や誤った習慣の改善普及などの活動は継続されていた。今後、それらの活動が周辺地域へも徐々に波及することが期待される。
(ハ) 開発福祉支援事業としての妥当性
このプロジェクトは、開発福祉支援事業の対象7分野のうち、「保健衛生」と「コミュニティー開発」に該当し、まさに開発福祉支援事業が目指している住民参加型の住民に直接裨益するプロジェクトである。最終受益者は3歳以下の子どもであるが、そのような子どもを持った母親達が活動に直接参加しており、コミュニティーレベルで事業を進めている「草の根保健婦」も地域の母親である。
(ニ) 開発福祉支援事業によるインパクト
開発福祉支援により、活動地域の拡大やプログラムの規模の増大(家庭菜園事業の実施など)がもたらされ、総合的な栄養支援を組めるようになった。
(2) フエ市児童福祉総合支援プロジェクト
(注:2000年2月に行った南条読売新聞論説委員による有識者評価も参照可能)
(イ) 目標の達成度・効果
障害児に関しては、病気も含め障害を持った子どもに対して治療・リハビリテーションが行われ、支援対象となった子どもに直接効果が現れている。ストリートチルドレン等に関しては、具体的には、児童文化センターが建てられ子ども達に利用されていること、上級職業訓練センターが建てられたことが確認された。しかし、児童文化センターと上級職業訓練センターによる効果はまだ時を待たなくてはならない。
(ロ) 効果・活動の持続性
このプロジェクトは、実施パートナーであるフエ市人民委員会にも高く評価されており、また地元のマスメディアにもしばしば取り上げられている。人民委員会はこの活動を継続して行きたいと考えているが、継続するためには資金が必要である。そこで、「子どもの家(児童文化センターもその一部)」の維持費創出のため、上級職業訓練センターで子どもに対してまずはバイク修理の職業訓練を行い、卒業生によるバイク修理による収入の一部を維持費に回すことを考えている。上級職業訓練センターは、プロジェクト活動の持続のためばかりでなく、子ども自身の自立のためでもあるが、このセンターが期待された成果を出せるかどうかは、まだ分からない。また病気・障害児の治療をさらに続けていくための資金目処もまだ立っていない。
(ハ) 開発福祉支援事業としての妥当性
このプロジェクトの活動内容は、開発福祉支援事業の対象7分野のうち「社会的弱者救済」に該当し、既に記した通り成果を上げている。開発福祉支援事業の特徴の一つである住民参加の観点からは、プロジェクトの裨益者たる子ども達及びその家族は、プロジェクトに参加するよりむしろ客体に留まっているという印象を受けた。今後、子どもの依存心を生み出さないように配慮することや、子どもあるいは保護者などが自ら事業運営活動に参加できるような仕組みを整備することが望ましい。
(ニ) 開発福祉支援事業によるインパクト
開発福祉支援事業が入ることによって、ベトナムの「子どもの家」を支える会による活動の規模が大きくなり、それ以前に出来なかった事業も手がけることが出きるようになった。しかしながら、以前に無給のボランティアによって一度行われた障害児を見つける仕事は、開発支援事業によってお金が支払われることになり、今後は無給では実施できなくなる可能性が考えられる。
9.開発福祉支援事業についての提言:
(1) 開発福祉支援事業に関する提言
(イ) NGOが出来ること、ODAが出来ることを組み合わせて効率的・効果的に援助を行っていくために開発福祉支援事業は有効であると判断されるので、積極的に活動すべきである。
(ロ) 開発福祉支援事業では、3年間で援助が終了することに留意し、活動による効果が持続する案件を採択すること、並びに、実施NGO団体に対して、活動方法についての情報(例えば類似案件での成功例、失敗例)を提供するなど、活動を持続させるための支援体制等を改善することが望まれる。
(ハ) 開発福祉支援事業は、現場レベルでは、草の根無償、開発パートナー事業等のスキームとの類似性が多く重なり合った部分もある。それぞれのスキームの特徴を活かして効果的に援助を行なうためには、ホームページを活用するなど、NGO等への情報提供を行い各スキームについての理解を深めることが必要である。また、現地の大使館及びJICA事務所においてニーズを総合的に把握するとともに、統括的に案件の調整、選定等を行うなど、現地と本部の役割を明確化するとともに、関係者間相互の緊密な連携体制が望まれる。
(ニ) 開発発福祉支援事業によってプロジェクトを実施している団体は四半期ごとの報告書と1年ごとの報告書をJICAへ提出することが義務づけられているが、提出回数が多すぎ本来の業務への負担にもなるので、提出頻度を減らすことが望まれる。
(2) ODAとNGOの連携・協力のあり方に関する提言
 ODAとNGOとのより良い連携・協力を強化するためには、外国でのODA側とNGO側の情報交換の場が整備されることが望まれる。形態は、既存ネットワークを活用したり新たな仕組みが必要とされる場合など、実情に応じたものが望ましい。現地の大使館やJICA事務所が、どのようなNGOが、どのような活動をしているか等について、把握できていればNGOの活動と連携したODA実施について検討することも可能となるのではないか。また、NGO側としても、このような場を通じて適切なODA情報を得て、ODAとの連携の可能性を探れることは有意義である。
10.外務省からの一言:
(1) 援助期間(3年間)が終了した後にも事業効果が持続するよう配慮し、援助期間、援助終了後のフォローアップの手段等について検討したい。また、四半期ごと及び1年ごとに実施団体が行う報告の義務については、活動状況の把握・管理および経理上の透明性を確保する観点から課しているため、報告回数の一律的な削減は望ましくないと考えているが、案件毎に柔軟に対応することを検討したい。
(2) ODAの適正かつ効果的・効率的な実施のためには、NGOとのパートナーシップ(連携・支援・対話)も重要である。ODAとNGOの情報交換ネットワークに関する提言については、具体的に何が可能か検討したい。


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