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資料4. ケーススタディ国のWID/ジェンダー分野の支援における援助協調に関する補足説明

 1. グアテマラ

(1)日本-米国

 グアテマラ女子教育支援プログラムは「地球的展望に立った協力のための共通課題(日米コモンアジェンダ)」によって策定されたものであり、グアテマラにおけるWID/ジェンダーへの取り組みの中心的な日米協調プログラムである。

 日米コモンアジェンダは、1993年7月の日米包括経済協議の一環として、地球的規模の課題に共同で取り組むことを目的に発足した1。1994年10月より3カ月間、日米コモンアジェンダ構想を受けて、JICA国際協力専門員(保健分野担当)がUSAID本部に派遣された。専門員は人口・エイズ分野における日米協力を推進するため、グアテマラ他2カ国を視察し、USAID在グアテマラ事務所の保健・教育担当と協議を行った。協議では人口問題における女子教育の重要性が強調された2。1994年12月には、グアテマラの教育大臣が、現地NGOである砂糖産業財団(FUNDAZUCAR)が実施管理しUSAIDが技術支援した「女の子に教育を(Eduque a la nina)」プロジェクトへの日本の協力を要請した3

 1995年1月にはWIDが日米コモンアジェンダの新たな協力分野として追加され、日米包括経済協議WID作業部会が形成された4。同年3月、日本政府はグアテマラに女子教育分野の企画調査員を約1カ月間派遣し、同国の国家計画における教育分野の位置付け、女子教育の現状と問題点の調査、他ドナーなどの援助動向調査を行い、協力の方向性について検討した5

 WID作業部会の結果を受けて、同年7月に約1カ月間、日米合同プロジェクト形成調査団がグアテマラに派遣され、日米協調プログラムの内容・スケジュールの確認、日本側の具体的協力計画案の形成が行われた。この調査では、グアテマラ政府教育省、USAIDグアテマラ事務所との協議および現地のNGO活動の視察を通して、「女の子に教育を(Eduque a la nina)」、「女子教育啓蒙教材の普及」、「女子の学校出席率向上のための教育方法の開発および教員訓練」の3つのプロジェクトに加え、日本からの支援として、公立小学校増改築計画への支援、協力隊派遣、研修員受け入れが検討された6。調査を受け、1996年5月から1998年6月末まで、JICA専門家(女子教育方法開発)が教育省に派遣されるとともに、上述した3つのプロジェクトが実施された7

1) プロジェクト1: 「女の子に教育を(Eduque a la nina)」プロジェクトの実施体制強化
 USAIDの支援を受けている砂糖産業財団に対し、草の根無償資金協力で女子教育啓蒙の巡回訓練活動用機材を供与した。しかし、巡回訓練活動の際にほとんど活用されず、また、「女の子に教育を」プロジェクトが終了した。このため供与機材は「女の子に教育を」プロジェクトを継いだ「女子教育巡回訓練活動」でJOCVに活用され、女の子の識字教育及び就学改善に貢献した。

2) プロジェクト2: 女子教育啓蒙教材の普及
 主要マヤ言語による副読本と地域普及のための機材を供与する予定であったが、副読本の内容に検討課題があったため、教員再訓練プログラムの教材を増刷した。

3) プロジェクト3: 女子の学校出席率向上のための教育方法の開発および教員訓練
 長期・短期各2人の専門家を派遣し、授業分析を行った上で効果的な教育方法を開発し、その普及に向けた現職教員研修のための教材などを整備するとともに、同研修を実施するプロジェクト。上記プロジェクト2で増刷した教員再訓練プログラムの教材を活用して、訓練ワークショップを実施した。

 また、日米協調のあり方については、当初USAIDグアテマラの保健・教育担当は、日米共同で計画するような形態の協調を考えていたようであるが8、互いの得意分野を尊重し、活動を補完し合うやり方でそれぞれ個別に進めることを基本とした9。USAIDが既に教育省に活動の場を確保していたため、専門家はUSAIDの人脈、情報を有効活用し、調査・企画調整活動を開始できた10ことは、協調のプラス要因であった。

 しかし、専門家の派遣時期が、「女の子に教育を」プロジェクトを含むUSAIDの初等教育強化プロジェクト(Basic Education Strengthening Project : BEST)の終了年度であったため、USAIDとの実質的な協調が困難であったという背景もある。初等教育強化プロジェクトは一年延長され、終了後の1997年10月、グローバルプロジェクト11が開始されたが、USAIDはBESTプロジェクトからグローバルプロジェクトへの移行によって日本との協調は終了したと判断していたため、グローバルプロジェクトは協調案件として機能しなかった。結果的に日米合同プロジェクト形成調査で形成された案件以上の協調案件は形成されなかった。12

(2)日本-カナダ-米国

 「バリージャス市帰還難民女性のための教育センター建設計画」(草の根無償資金協力案件)は米国及びカナダとの協調案件である。他ドナーとの幅広い意見交換、情報交換をしているうちにジェンダーが話題となり、この協調に至った。申請者であるバリージャス市が日本大使館に申請した時点でカナダ側にも既に申請していたため、日本側がカナダ協力事務所に出向き、カナダ側と供与資金について(両国それぞれの資金援助可能な部分)調整を行って協調が実現した。バリージャス市はこの計画を実施するためにUSAIDからも資金援助を得た13。カナダは、女性問題に積極的に取り組んでおり、案件実施に至るまで頻繁に現地調査等を行い、農村僻地の事情にも詳しく、優良案件を発掘している。

2. ホンジュラス

 ホンジュラスにおける援助協調は、1995年5月に実施されたストックホルムCG会合のフォローアップグループ(現在はバイ9カ国、国際機関6機関によるもので、通称G15と呼ばれる)によって行われている。ホンジュラスにおける援助協調システムは、図に見られるように、ホンジュラス政府、ドナー機関、市民社会の3者によって構成されている。援助協調システムには、現在7つのセクター部会が設置されており、それぞれの部会を担当する政府省庁が定められている。ドナー機関(図右側)は、セクター部会に対応する形で分野別グループを設置して、ドナー側の取り組みに一貫性を持たせる努力を行っている。現時点(2002年12月)では、14番目の分野別グループとして「ジェンダー」グループが形成されつつあるものの、社会擁護ネット部会自体が十分機能しているとはいえない状態にある。




1 水野敬子1998「帰国報告会資料」

2 渡辺学et. al. 2002 平成13年度JICA-USAID援助協調評価報告書 国際協力事業団

3 途上国の女性支援/WID: Women in Development 平成10年2月 外務省内部資料

4 外務省経済協力局1998「ジェンダーとWID」

5 「平成13年度JICA-USAID援助協調評価報告書」には、グアテマラにはJICA事務所が存在しないにもかかわらず同国での実施を取り決めた公式の理由は定かではないが、関係者は「米国はグアテマラでの女子教育に実績があり、日本を巻き込みたかったのではないか」や「日本の外務省は協調に熱心であり、トップダウンでの『協調ありき』案件であった」などのコメントが記載されている。また、1995年9月の国連第4回世界女性会議(北京会議)に向けて、日本のWID分野に対する積極的な取り組み姿勢を示すための何らかの協力案件を早急に形成する必要があったため、現地での態勢より日米政策レベルの決定を優先させて実施された協調であると分析されている。

6 渡辺学et. al. 2002

7 水野敬子1998「帰国報告会資料」

8 JICA米国事務所長 平成9年11月21日 グアテマラ女子教育(コモンアジェンダ)にかかわるUSAID担当者との協議について(内部資料)

9 相互補完的な協調に変更したのは、日米の間の援助スキームや実施方法の相違による。日本側が専門家+草の根資金協力で対応したのに対し、USAID側はNGOやコンサルタントに業務発注する形でプロジェクトを進めていた。完全なジョイント形の協調の実施には、日本側からNGOやコンサルタントに委託された業務の進捗管理も必要となることから、現実問題として実施が困難となった(水野専門家からの聞き取り)。

10 渡辺学et. al. 2002

11 グローバルプロジェクト(Global Project for Girls' Education)とは、USAIDにより、女子教育の推進を目的に同時に6カ国の重点国(エジプト、エチオピア、ギニア、マリ、モロッコ、グアテマラ)で実施された技術支援である。専門家には「日米コモンアジェンダによる活動を継続するために発足した」と米側から説明があったが、グアテマラでは、先行のBESTプロジェクトとの調整・連携が上手くいかなかった上、資金に限りがあり、具体的活動の実態は不明であった。1998年前半の主な活動は、5月にワシントンにて実施された女子教育のための国際会議のコーディネート業務であった(水野敬子1998「帰国報告会資料」より)。

12 BESTプロジェクト終了後は、USAIDは女子教育に特化した取り組みから、先住民、2言語教育、および識字教育を協力の中心とし、横断的に女子教育の推進に配慮していく方向にシフトした。JICAは女子教育に焦点をあてていたため、双方のプロジェクトの焦点が異なったことから、カウンターパート機関も一致しなくなり、協調の観点からのプロジェクト企画、調整はなされなかった(渡辺学et. al. 2002より)。

13 USAIDはQ76,500(約US$9,807)を資金供与している。




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