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別添6 JICA・国別事業実施計画(タンザニア)

 

1.当該国における開発の方向性と援助重点分野

<開発の方向性と開発重点分野>

 タンザニアは86年以降世銀、IMFの構造調整政策を受け入れており、その構造調整政策も近年、軌道に乗り、順調な推移を示している。構造調整を受け入れた背景には独立後80年代までとられた社会主義路線の下で中央・地方政府組織の非効率化が進んだこと、ウジャマー政策、二度にわたるオイルショック、東アフリカ共同体の解体による経済的負担の増大、対ウガンダ戦争(1978-1979年)や南部アフリカ諸国解放支援に伴う財政支出の急増、1980年代前半のかんばつによる食糧生産の減少といった外的諸要因とニエレレ政権の経済運営の破綻といった内的要因により、当国の経済は1980年代に入り危機的様相を呈するようになったためである。
 タンザニアにおける主な問題点を要約すると、国内市場の小ささ、歪んだ開放経済、貿易依存度の高さ、慢性的貿易収支と国際収支の赤字、政府部門の肥大と財政赤字、強い規制・統制と脆弱な行政能力、援助依存等が挙げられる。
 以上の状況を踏まえ、タンザニア政府は、長期開発計画として「THE TANZANIA DEVELOPMENT VISION 2025」を、3カ年計画として貧困削減戦略書(PRSP)を策定し、右計画を実効性のあるものとすべく、公共支出レビュー(PER)及び中期支出枠組書(MTEF)のもと、セクター・プログラム等を通じて実行に移すべく次の事項に努力を払っている。

(1) 実施中の構造調整政策における短期の需要管理政策(財政政策、為替政策、金融政策等)と中長期の供給サイドの管理政策(制度改革(経済の自由化、民営化、公務員改革,地方政府改革)等)への取り組み
(2) 優先分野として、保健、教育、水、道路、農業分野、エイズ及び司法制度への重点的な取り組み

<援助重点分野の策定・絞り込み>

 我が国はタンザニアをDAC新開発戦略(NDS)の重点支援国と位置付けている。また、97年2月にはNDSに基づく協力の枠組みを策定するため経済協力総合調査団を派遣し、さらに、2000年6月には経済協力局長が来タし、PRSP支援及び農業分野支援を積極的に展開することを表明している。2000年に策定された国別援助計画及び2001年に策定された国別援助計画に基づき、我が国の援助重点分野として次の5分野を確認している。

(1)農業・零細企業の振興
(2)基礎教育支援
(3)人口・エイズ及び子供の健康問選への対応
(4)都市部等における基礎インフラ整備等による生活環境改善
(5)森林保全
 また、上記援助重点課題の支援を促進するためにも、制度改革が重要な点となっており、行政機関並びに援助の受け手側のキャパシティ・ビルディング及びインスティテューショナル・ビルデングの一層の推進を図ることとする。

2.JICAの協力の基本的な考え方

 我が国の5援助重点分野(農業・零細企業の振興、基礎教育支援、人口・エイズ及び 子供の健康問題への対応、都市部等における基礎インブラ整備等による生活環境改善、森林保全)を踏まえ、当該国に対し以下の基本的考え方に基づき協力を実施する。

2-1援助重点分野毎の基本的な考え方

(1)農業・零細企業の振興
 タンザニアにおいては、全世帯の50.5%とされる貧困人ロの80%が農村生活者であり、貧困の原因としては農業生産に依存した経済構造がある。また、当該分野における大きな開発課題は食糧保障であり、新しい輸出農産物の開発等による農家所得の底上げを図らねばならない一方、灌漑農業の推進と農業生産性の向上、それに伴う技術向上が依然として重点課題であるといえる。これら課題に体系的に対応すべく、現在、我が国の主導により、他ドナーと先方政府との協調のもと農業分野開発戦略書(ASDS)、地方開発戦略書(RDS)を策定している。右戦略の下に今後、セクタープログラムを立ち上げ、実施に移していくことが検討されており、我が国がリーディングドナーとして積極的に支援していくことが、先方政府及び他のドナーから期待されている。
 またこれらの分野に基づいて、タンザニア政府の主導する経済成長路線を達成するためには、製造業部門の成長が不可欠なことから、相互補完的な役割を果たしうる中小・零細企業の育成に資する援助を進めていく必要があり、農村等におけるインフラと社会サービスを向上させることによって、生産インセンティブを与えることが肝要である。
 さらに、これら全ての課題に共通する問題として、生産者(または活動者、農村では農民、地方開発では住民)の組織化があげられる。この問題は参加型開発が強調されるなか、特に注目されており、今後の我が国の協力を展開する上で、取り組むことが不可欠となっている。また、貧困削減の観点とも関連し、今後貧困の80%が居住する地方の開発促進が不可欠であり、農業・零細企業の振興と共に、そのほかの地域開発、観光事業等支援についても取り組むこととする。

(2)基礎教育支援
 社会主義路線時代の社会サービスの拡充により、タンザニアの基礎教育関連指標はサブ・サハラ・アフリカにおいて、最も高い水準にあった。しかし、80年代以降の経済停滞さらに構造調整下での社会セクター合理化により、むしろこれらの指標は低下しつつあり、教育開発の必要性は高い。我が国はタンザニアをDAC新開発戦略の重点支援国として位置付けており、JICAとしても、教育行政能力の強化、教育のアクセスの向上、教育環境の整備、教育の質の向上等の基礎教育支援を中心とした積極的な支援が必要な分野である。
 タンザニア政府は、90年代後半より教育分野でいわゆるセクターディベロップメントプログラム(SDP)を採用しており、EU、英国、北欧をはじめとする主要ドナーも教育セクター開発計画の共通枠組みの中での協力を実施あるいは模索している。我が国はタンザニアを教育分野におけるセクタープログラムの重点国として位置付けており、JICAとしても、SDPの動きに十分留意しつつ同開発計画の計画策定、モニタリング、評価段階、及びプログラム/プロジェクト実施段階において、必要なインプットを行って行く必要がある。

(3)人口・エイズ及び子供の健康問題への対応
 独立後の社会主義時代の社会サービスの充実といった方針のもと、タンザニアは保健医療サービスの整備に積極的に取り組み、その結果として平均余命、乳幼児死亡率等の基礎的なPHC指標は改善が見られ、ほぼサブ・サハラ・アフリカ平均値を示していた。
 しかしながら、1980年代の経済状態の悪化に伴う構造調整政策等による、社会サービス予算の引き締めや、行政改革等の推進によって、地域医療サービス従事者の量的・質的サービスは低下している。さらに、出生率抑制や乳幼児・妊産婦死亡率の低減、マラリア等の寄生虫やエイズを含む感染症対策の改善など、タンザニアの抱える保健医療分野の課題は依然として大きい。
 タンザニア政府は保健医療分野の改善のため、1997年からSP(保健分野では特に「SWAp」と呼ばれる)を導入し、地方分権化促進の流れにそって地方行政主導型の保健医療改革に着手している。JICAとしても、可能な限りタンザニア政府による保健医療改革の方向性と枠組みに対応する形で協力を行う必要があるが、当面は従来の各スキーム毎の協力を目的に応じて有機的に組み合わせ、包括的な支援の実施を検討するなど、水平プログラムを意識しつつ本分野で関連する各ドナーとの活動現場レベルにおける協調・連携を一層強化していくことが肝要である。なお、保健行政改革と地方行政改革は、その実施スケジュールに関して、調整が十分でなく、現場レベルの担当者の十分な理解を得られるまでには至っておらず、今後もタンザニア政府側の努力のみならず、各ドナー等が協調してかかる行政改革の実現を強く支援していくことが求められる。
 具体的には、行政による地域の保健ニーズの適切な把握と、保健サービス実施に係る地域住民の参加、および関連NGO等との連携を含めた、「保健行政とコミュニティとの関係強化」の観点から、保健サービス向上に資する協力計画の策定が極めて重要であり、実効性の高い支援スキームの検討・実施を積極的に推進することが必要である。また中期的には、保健や教育、貧困といったセクター毎の事業にとどまらず、事業実施地域における個別案件相互の連関を図り(例えばモロゴロ州におけるプロ技2案件、スクールマッピング等)、各々の単独事業間の相乗効果が期待される、地域包括的な開発支援の構想と展望を模索していく。
 また、エイズ問題は国家が取り組むべき最優先事項として挙げられていることから、人口問題と併せてエイズ対策に積極的に対応していくことが緊要である。

(4)都市部等における基礎インフラ整備等による生活環境改善
 80年代後半に構造調整政策を受入れて以降、タンザニアの社会サービスは低下傾向にあり、社会的弱者(貧困層)の生活は一層悪化している。農村部の貧困が深刻な地域は、洪水、旱魃などの自然災害による影響が大きく、食糧自給率が低く、安全な飲料水の供給が困難、適切な保健医療サービスが得られにくい等の状態に置かれている。また、都市部においては、都市機能の拡充が十分でないため、著しい人口増加を吸収できず、就業機会を得られない貧困層がスラム化する等の問題が生じている。従って、貧困対策のための基礎インフラ開発として、農村部では、水資源開発、農道整備、都市部では、住宅、保健教育施設、上下水道等の整備が必要である。また、社会経済の活性化のための基礎インフラ開発として、農村部と都市部の物流輸送システム、安定的な電力供給や情報通信システムの確立が必要である。

(5)森林保全
 タンザニアが現在直面している問題は、経済開発を進める上で天然資源の持続的利用と環境保全とをいかに調和させていくかということである。天然資源への人口圧は、環境と調和した人間活動を困難にし、更に生産性の低下が貧困をもたらしている。その貧困が、更なる人口増と環境破壊につながり悪循環を繰り返しているのがタンザニアの現状である。
 具体的には、人口圧によって引き起こされる無秩序な農地拡大や、不法な薪炭材の過伐等による森林資源の減少に歯止めをかける必要がある。
 このため、森林保全に資する技術の開発とともに、社会林業活動の支援及び周辺地域への普及活動の推進が必要である。
 また貴重な天然資源であり、観光開発ポテンシャルも有する野生生物保護の必要性が高いほか、水質汚染や都市公害といったタンザニアにとっては比較的新しい環境問題も出てきている。

2-2 横断的な留意点や基本的な考え方

 JICA事業を展開するにあたっては、横断的な留意点や基本的な考え方については次の通り。

1)その第一としては、PRSP促進支援である。2000年12月に世銀・IMFの承認を受けたPRSPは政府及びドナー等が活用する包括的な開発計画であり、貧困削減を主題として全ドナーがPRSPに沿った支援を実施していくことが期待されている。我が方も右戦略に沿った支援を展開することが肝要であり、そのために、PRSPの骨格をなす、PER(公共歳出レビュー)、MTEF(中期支出枠組み)、さらに、重点分野の取り組みとしてのセクター・プログラム(SP)・アプローチの導入が求められており、これら一連の援助協調枠組みへの積極的な貢献を行うことが、急務の課題となっている。
 上記課題に対するアプローチとして、PRSPサイクル[1)策定準備段階、2)策定段階、3)実施段階、4)モニタリング・評価段階、5)PRSP見直し段階]に応じた対応が必要である。タンザニアではすでに、策定段階を終了しており、今後は、実施、モニタリング、評価、見直しに順次移行していくことになっており、それぞれの段階に応じた対応が求められる。アプローチとしては、現在のところ、単独型支援と協調型支援とに分けた協力形態が考えられる。前者については、上記3)実施段階をカバーする支援として従来のプロジェクトによる支援(無償、開発調査、プロ技協、研修等)、後者については、上記の1)策定準備段階、2)策定段階、4)モニタリング・評価段階、及び5)PRSP見直し段階における協調への参画が想定される。換言すれば、単独型支援については、我が方の各重点分野との整合性のとれた支援を、協調型支援については、PRSPモニタリング・評価、PER/MTEF、SP策定等への支援を推進していく。

2)第二に、前項と関連して、PRSPの対応スキームの課題と問題点についても検討・検証する必要がある。PRSPプロセス支援は、その中核をなすPER、MTEF、SPへの支援が重要であり、また、右ツールのなかで議論されている財政支援、コモンバスケット、オン・バジェットヘの対応、手続きの共通化、援助の予測性への対応を進めていくことが必要である。また、これらのプロセスは、地方分権化の改革、流れとも大いに関係している。我が国がリーディング・ドナーとして支援を展開していくためにも、上記課題への対応を整理・検証し、上記実施の問題・課題点等を建設的に議論し、我が国援助手法に取り込むべき点は取り込むといった姿勢が必要であろう。

3)第三に、以上をまとめた視点として、今後益々本格化する援助協調への対応である。
JICAは、農業分野開発戦略書(ASDS)や、地方開発戦略書(RDS)の策定、更に、農業セクタープログラムの立ち上げと実施の主導権を確保しつつ、政府、ドナーとの協調を促進するための事務局を担っている。今後リーディング・ドナーとしての役割を適切に果たし、こうした援助協調に対応するためには、オールジャパンとしての対応や現場レベルの対応の強化を一層進めていくことが極めて重要である。

4)第四に、当国の緊縮財政を考慮した援助を行うことである。運営費用や維持管理費が多額に及ぶものは極力避け、タンザニア側の自助努力は促しつつも真に必要なローカルコスト負担を(自助努力については、個々の事業やプロジェクトで評価するのみならず、マクロ経済運営、グッドガバナンス、などマクロの自助努力もローカルコスト負担の目安として考慮すべきである)検討していく必要があろう。

5)第五に、当国政府関係者のキャパシティ・ビルディングの強化に一層重きを置くべきことである。この国の援助受容能力が不十分であることは、従前から言われていることであるが、PRSP、PER、MTEF、SPの実施や地方政府改革などが本格化する中でこれら関係者のキャパシティビルディングへの支援を以前にも増して進めていくことが必要である。

6)第六としては、難民受入地域における貧困削減対策の実施である。我が国はアフリカにおける紛争予防への積極的な支援を表明している。近年のアフリカでは、貧しい周辺国への難民流入が顕著であり、難民問題の長期化が、地域の社会経済的負担を増加し貧困問題を一層深刻なものにしている。「タ」国は、1950年代より周辺国からの難民を受け入れている。近年は周辺諸国からの約100万人に及ぶ難民が西部の国境地域で難民キャンプ等に存在している。「タ」国の受け入れ負担を軽減させ、受け入れ地域の貧困削減に貢献することが必要である。こうした観点からUNHCRとの連携を模索し、2000年12月合同プロジェクト形成調査団を「タ」国に派遣した。難民滞在が長期化し、受入れ地域であるキゴマやカゲラ州では従来から脆弱であった社会基盤に大きく負担がかかり、支援の対象外にある地域住民との、保健や教育などの分野での格差が顕著になってきている。従って、主に医療、水、教育などの社会開発分野への支援を中心に地域の支援が必要である。

7)第七として、環境、ジェンダー等クロスカッティング・イシューの「タ」国制度への主流化(メインストリーミング)である。承認されたPRSPにおいては環境およびジェンダーに対する十分な配慮が欠けており、PRSPの各重点分野においてこれらのイシューヘの配慮を明確に計画に取り込むことが、HIPCsのコンデイショナリティのひとつとなっている。

出典:国際協力事業団


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