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要 約

 

1. 調査の概要

(1) 調査の目的

 本調査は、我が国が実施している援助全般にかかるタンザニアの援助実施体制及び我が国の現地援助機関の活動状況、他のドナーとの連携状況等を把握し、その現状、問題点を明らかにすること、更に、援助実施体制改善に係わる提言を行い、同国における我が国援助のより効果的・効率的な援助実施体制づくりに資することを目的としている。

(2) 調査団の構成

 本調査団は以下の4人で構成された。

 絵所秀紀 法政大学経済学部教授
 橋本吉之 (株)ブイ・エス・オー調査研究部長
 中畝義明 (社)世界経営協議会研究調査部長
 山木一之 外務省経済協力局評価室首席事務官(オブザーバー参加)

(3) 調査の方法及び調査日程

 本調査では、2002年2月より国内における資料収集・分析を行い、2月20日~3月8日の間に現地調査を実施し、聴き取り調査、資料収集等を実施した。3月中旬から下旬にかけて現地調査にて実施した聴き取り調査の内容及び収集された資料等を解析し、本報告書の取り纏めを行った。

2. タンザニアの社会経済開発への取り組み

 タンザニアの社会経済発展は次の4つの段階に分かれる。1)植民地経済から社会主義計画経済への移行期、2)社会主義計画経済の疲弊期、3)市場経済への移行期、4)市場経済・民主化の進展期。

 タンザニアは社会主義計画経済時代に起因する組織や制度の疲弊、インフラの未整備、農業生産性の低さ等により貧困問題が顕著となっており、市場経済化への構造調整政策が取られた結果、1992年の経済政策大綱、翌年のローリング・プランにより経済の構造改革と、1995年の複数政党選挙により民主化が進められた。現在は、より一層の改革の進展を目指して政治の透明化、腐敗・汚職の追放、「下からの民主化」、マスメディアの形成等が求められている。

3. 援助実施体制の評価

(1) タンザニアにおける経済協力環境の変化

 1980年代にアフリカ各国において世銀、IMF主導の下で行われた構造調整政策は一定の成果を示しながらも、貧困削減には効果がなく、途上国に重い債務負担を残す結果となった。1990年代後半に、構造調整政策が積み残した課題を解決するため、社会開発に重点を置く貧困削減レジームが導入され、限られた予算を効率的に活用しようとの意図から途上国のオーナーシップの向上と援助国のパートナーシップが重視されることとなった。

 タンザニアにおいては1995年に発表されたヘライナー・レポートにおいて上記テーマが掲げられ、タンザニア政府による長期開発計画であるVision2025、さらにはタンザニア政府と援助国・援助機関で合意された社会経済開発戦略ペーパーであるTAS、タンザニア援助の中核的枠組みとなるPRSPが導入・策定された。こうした結果、戦略的なセクター開発計画、戦略に基づくセクターごとの予算配分、予算のモニタリングがなされることになった。プログラム型援助が促進される中で、セクター・プログラム(SP)はセクター別開発計画として、予算配分は中期支出枠組(MTEF)として、予算のモニタリングは公共支出レビュー(PER)として具体化された。セクター別開発計画の実施に対する援助様態としては、ドナーにより異なる援助手続きの共通化、コモン・バスケット(SPの枠組みで資金を拠出する場合のコモン・バスケット・ファンドが設置される)、タンザニア政府の脆弱な財政基盤を支えるために一般財政に直接投入される財政支援等が強調されている。

 これらの新しい援助様態をめぐって、IMF、世銀を始めとする主要ドナーの間にはそれぞれ異なった対応を見せている。世銀、デンマーク、フィンランド等はコモン・バスケット中心、イギリス、スウェーデン、EU等は財政支援中心、ノルウェー、オランダ、スイスはコモン・バスケットと財政支援の双方を使い分けている。アメリカ、ドイツ、UNDPと我が国はコモン・バスケット、財政支援を視野に入れて、限定的な参加が見られる。今後は援助様態の柔軟性を高め、各ドナーが自国の開発政策に沿った方向で進むものと見られる。

(2) タンザニアの援助受入体制

 タンザニアにおける援助はSPを中心に展開され、各セクターにおける受け入れ体制が整えられつつある。

 農業セクターにおいてはセクター開発戦略の策定において我が国の他、デンマーク、イギリス、EU、アイルランド、世銀が参加した。プログラムは現在策定中であるが、実施体制としては農業食糧省が主管官庁となり農業政策全般に関して、天然資源・観光省、地方行政庁がそれぞれ林業・漁業・野生生物、普及活動に関するセクター予算の執行を担当している。特に農業食糧省ではPRSPの重点課題として挙げられている農業関係の研究と普及に力を入れるために農産物開発基金の創設やリボルビング・ファンド、研究活動の民営化等の施策を講じ、財源の確保を狙っている。

 道路、水の両セクターにおいてはセクター別開発計画を実施するための組織的、制度的な改編を行っている段階である。主な改編は担当省庁の役割が公共サービスの実施者から調整者へと変更されたことである。道路セクターにおいては役割の変更に加え、それまで公共事業省が行ってきた公共サービス(道路の維持・補修)の実施が新しく創設されたTANROADSに引き継がれた。

 しかしながら、各省庁とも新しい役割に対する担当者の業務調整、計画策定、予算執行、財政管理等に関する能力が質・量ともに不足しており、プログラム実施における障害となっている。具体的にはタンザニアにおける貧困関連の全ての組織・制度を調整する副大統領府の人材不足が指摘されている。そのために、PRSP作成時には大蔵省の人材を借用しなければならず、大蔵省の他業務にも影響を与えることとなった。

 また、財政管理にも関わるモニタリング・評価に関しては、2001年12月に策定された貧困モニタリング・マスタープランにおいて、中央・地方レベルにおけるタンザニアの政府機関を4つのグループに分類し、モニタリング・評価のためのデータの収集、蓄積、共有、分析等を行う体制が構築されることとなった。しかし、どのグループにおいても人材・組織・制度に係る問題が指摘されており、キャパシティ・ビルディングが必要とされている。モニタリング・評価におけるキャパシティはPER・MTEFの質に反映する。また、援助資金の投入によって増加した資金の使途にも関係し、開発計画の成否に与える影響も多大である。

(3) 我が国の援助実施体制

 我が国の対タンザニア援助政策の方針は2000年6月に外務省により策定された「タンザニア国別援助計画」において定められ、JICAの「タンザニア国別事業実施計画」において事業実施レベルへと具体化されている。国別援助計画における重点分野は1)農業・零細企業の振興のための支援、2)基礎教育支援、3)人口・エイズ及び子供の健康問題への対応、4)都市部等における基礎的インフラ整備等による生活環境改善、5)森林保全の5つに絞られている。

 JICAの国別事業実施計画においては上記5分野の他、観光開発、水産業、地方拠点開発、湖水環境の保全等の開発課題とそれを通じた組織能力拡充(キャパシティ・ビルディング)が重視されている。また、SPを促進する流れへの対応として、複数のプロジェクトを開発課題に合わせてプログラム化し、セクターごとの援助効果が明瞭になるような工夫がなされている。これらの援助計画はTAS、PRSPといったタンザニアの開発政策の策定以前に作成されたこともあり、我が国援助の重点分野とTAS、PRSPにおける重点分野に若干の相違が見られる。

 援助政策上の相違が見られながらも、我が国はPRSPの実施に伴うセクター別開発計画等に対応する援助を行ってきた。PRSPの策定・モニタリング等に関する企画調査員、専門家の派遣、農業セクター開発戦略(ASDS, Agriculture Sector Development Strategy)の策定支援、教育セクター開発計画に貢献するスクール・マッピング案件等を実施してきている。一方、保健分野におけるコモン・バスケットに関しては、現在のところ、保健省の財政管理能力の不足を理由に参加を見合わせている。他のセクターにおいてもドナー会合、タンザニア政府との政策対話を通して、セクター別開発計画の策定・実施に関する議論を深めつつある。

 今後、国際的なSPを促進する流れの中で、これまで行われてきた個別案件を中心とした従来の援助体制は、タンザニア政府との政策対話、他ドナーとの協調会議を重ね、タンザニア政府の予算等、財政の枠組にまで踏み込んだ形で案件が形成されるようになってくるため、これまで以上に現地主導による案件形成体制への変化が求められるようになるだろう。現地におけるタンザニア政府、他ドナーとの会議の増加に対応し、発言力・提案力を強化するため、現地大使館、JICA事務所における人材配置の検討を要するところである。これまで派遣されてきた企画調査員、専門家等はPRSPの実施に伴うセクター別開発計画の進行状況の調査等、情報収集が主であったが、SPを中心に援助が展開されている現在では、情報収集から、事業計画の立案、決定に関わる役割へと変化させていかねばならない。

 全面的なプログラム型援助への移行には、プロジェクト型援助の必要性という観点から我が国は異を唱えてきた。案件形成・実施、モニタリング・評価、予算管理といったキャパシティが十分ではないタンザニアにおいては、我が国としては、コモン・バスケットや財政支援等の新しい援助様態を認めつつも、援助課題に対するアプローチとして最も有効である援助モダリティを柔軟に選択できるという配慮が今後とも必要である。また、善意のドナーの支援を阻むものにならないようにするためにも、様態を制限しないことも重要である。この意味で、我が国の援助は、新しい援助様態に傾倒するのではなく、現在有する援助様態を臨機応変に活用するという主張を展開すべきである。特に、我が国の技術協力は、セクター別開発計画を実施する際に障害となっているキャパシティの問題解決に資するものと期待される。また、我が国はスキームの特徴を生かし援助を実施しているが、なかでも、草の根無償は、小規模だが即効性のある援助として現地側の評価も高く、教育、保健医療等タンザニアの重点分野への支援として効果的であり、日本の顔の見える援助となっている。草の根無償について現地で知られ、評価が高まるに従い、申請件数が増加すると予想される。

4. 提言

4.1 タンザニア側の援助実施体制に対する提言

(1) タンザニア政府のキャパシティ・ビルディングに対する支援

 タンザニア政府はコストの観点から外国人専門家による長期間の技術協力に対して批判的であるが、タンザニア政府のプログラム立案・実施、モニタリング・評価、予算管理等の能力向上の必要性を考えた場合、キャパシティ・ビルディングに対する二国間ドナーによる技術協力の重要性を主張すべきである。この点、我が国は技術協力を活用したキャパシティ・ビルディングの経験を豊富に有しており、その経験を活かした協力は今後とも重要である。

 タンザニア援助において必要とされるシステムは、コモン・バスケット、財政支援といった新規援助様態、キャパシティ・ビルディングのための技術協力を必要に応じて組み合わせた柔軟性のある援助受入体制である。この過程では、各国が効果を発揮できる援助様態を検討すべきであり、すべてを援助協調の下に画一化すべきではない。

 我が国は農業セクター開発計画の策定における積極的な協力を行っており、中心的な役割を担いつつある。同セクターにおける我が国援助のこれまでの協力実績と、セクター開発計画の枠外での援助が難しくなってきている現状を踏まえれば、妥当性の高い方向であり、新しい援助様態への対応、我が国の体制上の問題点等を明らかにし、今後の体制の整備に資するものと期待される。

 セクター別開発計画の策定支援、さらには実施、モニタリングにおける支援を進めるためには、政策分野へのアドバイザーの派遣も必要となろう。それにより、タンザニア政府の開発政策とより深いレベルでの整合性を確認することができるようになる。しかしながら、役務代替型の外部コンサルタントによる政策分野への深い介入はタンザニア政府のオーナーシップを阻害する恐れがあるため、援助プログラムに対するオーナーシップを尊重する姿勢を保つことが重要である。

4.2 我が国の援助実施体制に対する提言

(1) 援助様態に関する主張の展開

 我が国はタンザニアにおいて、コモン・バスケット、財政支援といった新しい援助様態をメインストリームにすべきとする主要ドナーに対して、そうした新援助様態も認めつつ、我が国がこれまで二国間援助で行ってきたプロジェクト型援助の有効性と、画一的でない目的に応じた援助様態の組み合わせの必要性を主張している。

 各ドナーはそれぞれの開発援助政策や援助供与手続きを有することから、新しい援助様態に限った画一的な援助アプローチは適切ではない。したがって、タンザニア等への経済協力を実施する上では、多様な援助様態の利点も活かせる方法がより望ましい。開発計画の策定段階では、タンザニア政府と各ドナーが基本的方向を明確にし、実施の重複・混乱がないようにすることは重要である。しかし、実施段階においては、各ドナーがそれぞれの知恵や経験を動員し、開発の様態は多様であるべきである。経済協力においては、各ドナーの特色が発揮されてこそ開発に大きな効果が生まれる。こうした点からも、プログラムの実施の段階においては、各国が効果を発揮できる援助様態によって経済協力を実施すべきという主張は意義を持つものである。

(2) 新しい援助様態に対応するための体制整備

 PRSPへの対応が本格化していく中で、我が国の援助計画書である外務省の「国別援助計画」とJICAの「国別事業実施計画」はTAS、PRSPへ対応したものへと改訂する必要がある。さらに我が国の無償資金協力や技術協力の役割をタンザニア政府、他ドナーに対して明確にすることによって、ドナー会合等での議論において我が国の発言が理解されやすくなり、「声が聞こえる援助」となる。

 国際的な援助会合の場やドナー会合で我が国が積極的に影響力ある発言をするためには、第一に、我が国はDAC、世銀、SPA等の会合で援助様態に関する議論に積極的に参加し、会議で得た情報を現地、国内関係者において速やかに情報共有し、大使館、JICAの連携の下で、「国別援助計画」、「国別事業実施計画」の改訂に反映させるようにする。第二に、ドナー会議等での議論に適切な対応ができ、開発経済学の知見を有する「ハイレベルの専門調査員」を大使館に配置することが必要と思料される。

(3) 草の根無償資金協力について

 我が国の援助様態の一つである草の根無償資金協力は小規模であるが、即効性のある援助であり、現場レベルで非常に喜ばれる援助となっている。同協力に対しては、現在年間約200件の申請があるが、現地で知られるに従い、今後さらに案件要請が増加することが予想され、そのための人員補強等の対応が必要になろう。そうした場合、大使館の増員が難しい現状では、現地の社会事情に精通する人物を現地で採用することは有効な方法である。また、開発経済や地域研究を専攻した大学院修了者を草の根案件に関わる補助スタッフとして採用することも考えられる。

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