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第5章 結論および教訓と提言

 前章では、わが国が行ってきたセネガルに対する環境分野(砂漠化防止)プログラムについて、そのプログラム・レベルでの評価を行った。本章では、そのプログラム・レベル評価から得られた教訓をまとめるとともに、今後我が国が担おうとするセネガルへの環境分野(砂漠化防止)における支援に役立つような事項を提案したい。

5.1 結 論

 本プログラム・レベル評価結果の結論は、以下の通りとなっている。

  1. 「目的」の評価視点から見た妥当性については、両国の関係上位計画(日本側は、ODA大綱、ODA中期政策および対セネガル国別援助方針、一方、セネガル側は、経済社会開発計画、国家環境行動計画、セネガル森林行動計画および砂漠化対処国家行動計画)などから作成された開発課題体系図での比較と両国関係者のインタビュー結果から、両国の関連政策においてプログラムの目的が整合していることが確認された。

  2. 「プロセス」の評価視点から見た計画過程の適切性については、セネガル環境分野(砂漠化防止)に対して本プログラム導入のタイミングは世界的潮流から見て適切であった。また、最初の青年海外協力隊(JOCV)スキームの「緑の推進協力プロジェクト」を出発点として、その後、より実践的な植林分野活動の実施のために、無償資金協力スキームの「苗木育成場整備計画」と「沿岸地域植林計画」が、そして、住民参加による村落植林を重視する技術協力プロジェクトスキームの「総合村落林業開発計画」が計画されたと見ることができる。ここでは計画過程の連携が見られ、早く実施されたプロジェクトの経験も生かされ、効率的であった。また、他ドナーとの直接連携はないが、計画の段階で各ドナーとの関連プロジェクトの内容も調査され、整合が図られている。

  3. 一方、本プログラムの実施過程の適切性については、現地調査のインタビュー結果から、日本とセネガル、両国の関係者の間には緊密な連携があり、効率的に実施されたことが確認された。また、他ドナーとの連携については、開発調査および設計調査の段階においては、他ドナーの植林関連事業も検討されたが、その後の継続した連携は見られなかった。

  4. 本プログラムの協力開始となった「緑の推進協力プロジェクト(PROVERS)」は、いろいろな職種の青年海外協力隊隊員がチームを成してマルチセクター的な草の根アプローチをとっていた。その後「苗木育成場整備計画(PAPF)」から「総合村落林業開発計画(PRODEFI)」と「沿岸地域植林計画(PRL)」へのつなぎ役を専門家が担い、結果としてそれぞれのプロジェクトは全体として大きな一つの目的に流れ向かってプログラム的な展開をしており、実施プロセスの効率性にも相互作用をしてきたと結論される。

  5. 「結果」の評価視点から見た有効性については、検証の結果は下記の通りである。

    1) “森林分野の基盤整備”として、全国の15か所の国立苗畑中、12苗畑の整備が終了し、植林用の苗木生産体制がほぼ完備された。また、生産苗木数の実数は、2001年には、前年比で約2倍となり、植林面積も同様に2倍となった。

    2) 沿岸地域植林計画は、沿岸砂丘を固定し、セネガルの生態地理ゾーンの一つであるニャイ地域(全国野菜の80%を生産する地域)の社会経済的な安定を図っている。

    3) 総合村落林業開発計画は、村落住民に対して農林分野の技術移転を支援し、住民参加型の普及モデルを検討している。

    4) 住民アンケートの調査結果によると、各関係プロジェクトの実施から住民の生活改善に効果があり、具体的に飛砂害の減少と農業収入の向上、新規農業技術の習得に回答が集中した。

    5) 一方、プログラムの4つのプロジェクトの連携体制又は調整組織の欠如があり、セネガル側にも脆弱な管理体制と不十分な維持管理予算が見られた。

  6. 「結果」の評価視点から見たインパクトについては、セネガル経済社会計画と別に国家環境行動計画や森林行動計画に少ないながら良い貢献を与えていると考えられる。他方、他ドナーの協力や、我が国の対サヘル地域諸国に対する援助方針への影響については、評価調査を通じて、アメリカの平和部隊(ピースコー)が個人レベルで緑の推進協力プロジェクトに関心を寄せた以外に、具体的な影響は見られなかった。

  7. 本プログラムに対してのセネガル側のオーナーシップ(当事者意識)については、現地インタビューの結果からセネガル側の官(行政側)とプロジェクトの周辺住民の間に、プログラムに関して理解に大きなギャップが認められた。また、セネガル政府の自立発展性については、1)セネガル政府の実施体制(予算と人員)に課題があること、2)地域住民が協力終了後も援助継続の要望を持っていることから、疑問が残るといわざるを得ない。

5.2 教訓と提言

 以下に今回のプログラム・レベル評価により得られた六つの教訓と提言を並べて報告する。

  1. スキーム別プロジェクトを組み合わせた形のプログラムは、最初から調整して始められたわけではないので、関係プロジェクトの活動上の連携がある一方で、一部重複や時間的なずれなどの面も認められた。しかし、個別派遣専門家という「つなぎ役」が存在したことによって、プロジェクトの連動性、関連性は向上し、効果拡大に寄与した。専門家の「つなぐ」役割に注目し、積極活用が検討されるべきであろう。さらに、支援活動の成果から更なる発展を引き出すためや、支援効果の継続的な検討、モニタリングを行う役割も期待できると考えられる。なおこの「つなぐ」専門家には、優秀なコミュニケーション能力や関係プロジェクトの緊密な連携・調整が望まれる。なお、在外公館あるいは現地JICA事務所レベルに重点分野ごとに専任担当者を配置し、「つなぐ」役を担うというオプションも考えられる。
     また、プロジェクト同士の関係を明確にするために、例えば、我が国のセネガルにおける援助重点分野「砂漠化防止」を目的とする旨を関係する各プロジェクトごとに明記し、プロジェクト自身の「砂漠化防止」における位置付けをはっきりさせておくことも有効であろう。

  2. 環境分野ドナー会議ほか活動調整、情報共有のための仕組みがあるからといって、必ずしもドナー間での連携が取れているわけではない。我が国は、その調整、情報共有の仕組みをうまく活用していないがゆえに、援助協調にまだ消極的と言わざるを得ない。
     アプローチがドナーごとに違うだけにたやすいことではないが、長期的取り組みと、それがゆえに重複を避け最大限に効率的な協力を必要とする環境分野(砂漠化防止)の課題に対処するには、他ドナーとの連携強化が必須である。セネガル政府の意向に沿ったプログラムアプローチを適用する我が国以外のドナーや、さらに財政支援アプローチを試行するオランダ政府といったドナーごとの協力の特徴を把握し、我が国独自のプロジェクトアプローチとして総合村落開発を活かした形を考えるべきである。その実現には、他ドナーが行っている支援の範囲と協力内容の適正な把握、支援成果からの教訓を共有するための情報交換など、現地大使館およびJICA現地事務所による情報収集を強化し、ドナー間の援助協調は必要である。

  3. 砂漠化対処の問題解決においては、植林のような森林関連分野のみの協力に限定することなく、関係分野である農業や水セクターとの連携を含め、より包括的な視野で臨む必要がある。
     この意味において、本プログラムのひとつであり、農村開発と植林支援、人的資源開発や組織化とその強化など、幾つかのセクターを併せ持って現在稼動している総合村落林業開発計画(PRODEFI)の成果は大いに期待されるところである。この成果とマルチセクトラルなアプローチの有効性をしっかりと吟味した上で、フォローアップとして全国的展開を図るべきであり、さらには近隣諸国での展開を視野に入れることも必要であろう。

  4. 本プログラムを通じて、苗木の生産基盤が整った今、砂漠化の進行を食い止めるためには、大規模な住民植林を推し進める必要がある。この場面において、総合村落林業開発計画(PRODEFI)が現在開発を進める地域住民の中に農民ボランティアを養成し、普及を進めるという方法に期待が集まる。この普及モデルが砂漠化のより深刻なセネガル北部でも応用できるように検討すべきである。

  5. 自立発展性を高めるための方法としては、援助の前提となっている相手国の能力(自助努力、管理運営能力)が十分でない場合がある事実を認め、援助の効果を高めるために、支援先を中央政府に限らず、地方政府、あるいは、地域住民に直接向かうような支援の方法も探るべきであろう。自立発展性の醸成はどの分野の開発協力においても課題であり、簡単に実現することではないかもしれない。しかし、セネガルでは、地方分権化に伴う動きと考えられるが、地方(州・県)レベルの森林局の予算が2000年から増加しており、財政支援による地方行政の強化を行っているプログラムなども他ドナーにより始められている。これらの動きと合わせてみていくほうがよいであろう。他ドナーが予算管理能力向上に向けて運営面の支援をしている地域に対して我が国の援助を行うなど、他ドナーとの援助協調の道を探るのも意味のあることだと思われる。一方、住民に対する直接のアプローチを取っている村落林業開発計画(PRODEFI)を地域住民への直接の支援のケースとして評価した上で、砂漠化のより深刻なセネガル北部や、隣国を含んだ小地域レベルへの応用(適用)も視野に入れたいところである。裨益住民へのアンケート調査によると、PRODEFIで研修した技術を実際に使っていることが分かる。そこに自立発展性への期待を見ることができる。

  6. 本プログラムの評価作業を通じて、主要活動であった植林の効果・インパクト(苗木生産が国全体の植林面積の増加(あるいは維持)にどの程度の貢献をしたか、あるいは、植林がどのくらいの割合で造林に結びついたか)を、定量的に知りうる適切なデータがあまりなく、プログラムの成果、インパクトを正確に知ることができなかった。苗木生産が森林増加に結びついたかどうか、我が国の無償資金協力の追跡調査が必要であるが、同時に、関連するマクロ指標の相手国における整備具合を考慮すべきで、相手国の統計の精度、追跡調査(フォローアップ)の能力についての考察が必要となろう。これらが整備されていないと、中・長期的なプログラムとしてのインパクトが評価できないことになってしまう。
     マクロ指標の整備のためには、砂漠化対処条約にも「砂漠化の状況に関する情報とモニタリング・評価のシステムを実現する」とあるように、ベースライン調査から得られた基礎データの継続的な計測と蓄積を急ぐ必要がある。また、この場合、砂漠化防止活動に関しては、森林分野のデータのみでなく、生活改善の指標も含めて獲得することが望まれる。
     なお、日本の援助は一般にアピール度が低く、日本国民の支援目的の宣伝効果がまだ十分でない。より一層の努力が大切であろう。
     最後に、今回対象としたセネガル環境分野(砂漠化防止)協力においては、国際条約の下、参加型プロセスを踏みながら策定された砂漠化対処活動国家行動計画(PAN/LCD)という枠組みが存在しているので、関係プロジェクトの形成や、今後更に同プログラム・レベル評価を実施する際、この資料(PAN/LCD)がガイドとして利用できる。
     また、砂漠化は一国でとどまる現象ではなく、国境は意味をなさない。したがって、砂漠化対処のような世界的規模の問題においては、より高い効果のODA支援は、関係国際機関であるUNCCD(砂漠化対処条約・事務局)やFAO(国連食糧農業機関)、あるいは本分野における小地域レベルでの活動を調整するCILSSなどとの協調実施が必要であろう。提言4.で触れた総合村落林業開発計画(PRODEFI)モデルのセネガル近隣諸国での展開を検討するのも有用であろう。70年代から始まった砂漠化に対する取り組みが、砂漠化対処条約(UNCCD)という形で結実した今、このUNCCDに懸けられた努力(人と、金、時間、政治的コミット)を無駄にしない、持続的な効果ある環境分野(砂漠化防止)における協力が行われていくべきである。

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