4.1 「対パキスタン国別援助計画」の構成・重点分野に関する提言
(1) 新ODA大綱の理念に沿った国別援助計画の策定
新ODA大綱の記述(一貫性のある援助政策の立案)に従い、パキスタン国別援助計画の策定に際しては、その内容が新ODA大綱の理念に則していることが必要である。南アジア地域の安定にとって重要なパキスタンの開発を支援する上で、新大綱の基本方針である「開発途上国の自助努力支援」、「公平性の確保」及び「『人間の安全保障』の視点」、並びに、重点課題の各項目(「貧困削減」、「持続的成長」、「地球的規模の問題への取組」、「平和の構築」)は重要な要素であるところ、こうした項目が近く策定される国別援助計画に十分に反映されることが望ましい。(第3章 3.1.1(3)参照)
(2) 体系化された国別援助計画の策定
我が国の予算上の制約を理解しつつも、パキスタン政府は、対外援助の規模や範囲を中期的に見通した上で自国の開発計画を策定することを欲している。パキスタンだけでなく国際社会に対しても、ODAを通じた南アジア地域の安定に向けた我が国の中期的なコミットメントを示すことが求められているが、対パキスタン国別援助方針は、かかる要請に応えていない。国別援助計画が総花的になるのを避けるためにも、近く策定される国別援助計画では、我が国援助によって達成を目指す中期的な目標を「主柱」(pillar)として明確にし、この目標達成のために「主柱」を周囲から支える関連性の高い分野を「重点分野」または「重点課題」と位置づけ、さらには分野間にまたがる「横断的テーマ」を設定し、これらを目標体系図として整理し、目標の達成状況を測る指標(定性的な指標を含む)を導入することが望ましい。(第3章 3-2-2(4)の1)参照)
(3) 重点分野(課題)と横断的テーマの設定
対パキスタン国別援助方針の重点4分野(社会セクター:教育・保健・上下水道、経済基盤整備:電力・運輸、農業:灌漑・農業研究、環境保全)は現在もパキスタン側の開発ニーズに適合していることから、これらの重点分野を継承・維持することが望ましい。ただし、環境については、横断的なテーマとして扱うことが適当であろう。なお、水分野への支援については、対パキスタン国別援助方針では社会セクター及び農業の一環として扱われてきたが、昨今のパキスタン開発フォーラム等を通じてパキスタン側の我が国に対する高い期待が繰り返し表明されていることを踏まえれば、「水分野」を独立した重点分野の一つとすることも検討に値する。また、中小企業振興はパキスタンの重点政策の一つであることから、経済成長促進の観点から、中小企業振興を重点分野とすることも一案であるが、技術及びノウハウの提供という我が国のアプローチとマイクロ・ファイナンシングを求めるパキスタン側の期待と要望に乖離が認められることから、二国間で更なる調整が必要であろう。横断的なテーマについては、環境に加えて、「ジェンダー」及び「地方分権化に対応したガバナンス向上と能力開発」(対パキスタン国別援助方針の留意点を継承・発展させたテーマ)を掲げることが適当であると考える。(第3章 3-1-2(2)、第3章 3-2-2(5)参照)
(4) 国別援助計画のモニタリング・評価システムの構築
近く策定される国別援助計画の実施期間(5年程度)中、同援助計画に基づき効果的かつ効率的な援助を実施するためには、同援助計画のモニタリング・評価システムを構築することが重要である。例えば、毎年、現地ODAタスクフォース(TF)が重点分野毎の案件形成・実施状況や援助実施上の留意点を巡る状況を中心として、国別援助計画の実施状況を検証し、この検証結果を受け東京において、パキスタン国別援助計画策定TF、外務省、JICA、JBICの関係者が参集する対パキスタン援助検討会(仮称)が国別援助計画の実施状況を検討し、その検討結果を外務省、JICA、JBICに報告する。さらに、国別援助計画が策定から4年目を迎えた時点で、国別援助計画を対象として総合的な視点からの国別評価(第三者評価)を行い、その結果と提言を国別援助計画の改定に役立てることとする。こうしたモニタリング・評価システムが近く策定される国別援助計画に明記されることが望ましい。(第3章 3-2-1(6)参照)
4.2 対パキスタン援助実施上の提言
(5) 地方行政のキャパシティ・ビルディング支援
現在、パキスタン側の中心的な開発計画としてPRSPが位置づけられているが、その実施に当たって、SAPの失敗を繰返さないためにも、パキスタン側の案件形成及び実施体制能力の開発支援が必要である。地方分権化が進行する中、特に県以下のレベルでは行政能力が不十分であり、財務運営は言うに及ばず、開発プロジェクトの策定・実施に関する能力不足が問題となっている。地方分権化は県以下のレベルへの権限委譲をもたらすものであるが、我が国の有償・無償資金協力は規模的に実態上2県以上に跨ることが多く、この場合は州が案件形成・実施を担うことから、必然的に州レベルでの能力開発に着目する必要がある。したがって、我が国としても、州レベルを中心として、必要であれば県以下のレベルにおいても、パキスタン側の案件形成手続きにおいて必要な書類であるPC-1やPC-2の作成支援を含め、地方当局の案件形成・実施能力の向上を支援することが肝要である。
地方展開への効果的なアプローチとしては、対象地域の開発ニーズを十分に踏まえた上で、PRSPが意図する貧困削減に資する地域開発の促進を目指した包括的でセクター横断的なプログラムをパキスタン側のオーナーシップを尊重して試行的に形成し、同プログラムに位置づけられる各案件の形成・実施を通じて、州政府や県関係者に対する能力向上支援を行うことが検討され得よう。かかる取り組みを進めるツールとして、企画調査員の新規派遣、国別特設研修「地方行政サービス」を受講した研修員、見返り資金、援助効率促進費を複合的に活用することが検討し得る。なお、能力向上支援を行う上で、案件実施能力の向上を目指してパキスタン側が予算措置を講じたプロジェクト運営ユニット(PMU)の活用も検討に値する。(第3章 3-2-2(5)参照)
(6) 世銀及びADBとの連携強化
世銀及びADBに設けられた日本特別基金(世銀の開発政策・人材育成基金(PHRD)、日本社会開発基金(JSDF)、ADBの日本特別基金(JSF)、貧困削減日本基金(JFPR)等)によるパキスタンでの案件の取り扱いについては改善の余地があると考える。今後は、我が国からの拠出であることを世銀及びADBを通じてパキスタン側関係者に周知させるとともに、我が国の援助政策との整合性を確保する上で、両国際金融機関に対し、日本側(現地ODAタスクフォース)との連携を案件形成の段階から執り行うよう求めることが望ましい。(第3章 3-2-2 (4)の3)参照)
(7) 援助手続きの調和化の促進
我が国のODAの仕組みや手続きに関しては、外国援助の折衝窓口であるEADでは周知されているようであるが、関係省庁、実施機関、州政府に至っては必ずしも十分な知識が行き渡っていないことから、効果的かつ効率的に援助を実施する上で、現地ODAタスクフォースとEAD等との共催によるワークショップ開催などを通じてパキスタン側での情報の共有を促進することが望ましい。こうしたワークショップを開催する際には、他ドナーの関与も得て、ドナー間における援助手続きの調和化に向けた取り組みを進める機会とすることも一案である。また、地方展開という新たな課題を含め、現地でのODA業務量の増加に対応するためには、日本側における援助手続きの一層の調和化、JBIC及びJICAの人員の拡充等、現地ODAタスクフォースの体制強化に向けた取り組みが必要であろう。(第3章 3-2-2(5)、3-2-2(6)参照)