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南南協力支援評価調査

要 約

1.調査の背景・目的・評価の方法

調査の背景・目的

 本調査では、重点課題別の政策レベル評価として南南協力支援を取り上げる。わが国は、1999年に発表したODA中期政策の中で、有効な援助手法の1つである南南協力支援を、積極的に推進していくことを、政策方針として明らかにしている。ODA中期政策の発表から3年を経た現在、わが国の南南協力支援政策を総合的に整理、分析、評価し、今後のわが国の南南協力支援の質的向上に努めることが求められている。
 本評価調査は、(1)これまでのわが国の南南協力支援政策に関する取り組み及び実施体制について総合的かつ包括的に評価し、(2)今後の南南協力支援政策を企画、策定し、実施していくうえで有益かつ実行可能な提言を纏めることを目的としている。

評価の方法

 政策レベル評価の手順に則し、わが国の南南協力支援について、(1)政策の背景にある理論、(2)政策実施のプロセス、(3)政策の効果を検証し、そこから導き出された結果を総合的に分析し提言を纏める。理論の検証では、現時点における南南協力支援政策の妥当性を、わが国のODA政策との整合性から評価した。プロセスの検証では、南南協力支援プログラム及びプロジェクトの実施プロセスのメカニズムを整理、分析し、「適切性」と「迅速性」の観点から評価を行った。効果の検証は、政策目標の達成度合と間接的・波及的効果の観点から情報を整理、分析した。これら理論、プロセス、効果の検証から得られた各評価結果を総合し、相互の関連性を整理、分析したうえで、教訓と提言をまとめた。
 また、本調査では、エジプト及びチュニジアを協力実施国の、セネガルを協力受益国の事例国として取り上げ、現地調査を実施した。

2.わが国南南協力支援の実績(1995年~2001年)と特徴

南南協力支援の経緯

 1970年代、OPECやNIESの出現等、途上国の多様化が進み、途上国相互間の協力の重要性が認識されるようになった。また、1978年には、ブエノスアイレスで開催された「途上国間協力に関する国連会議」で、「開発途上国間技術協力」の概念が整理された。その後、南南協力について、国際社会の中で活発な議論や活動が展開された。わが国は、1975年、第三国研修の開始を契機に南南協力支援に積極的に取り組んできた。政策レベルでも、1992年、ODA大綱の中で、開発途上国が有する知識や技術の十分な活用を図るための支援を行うことがODAの効果的実施の方策であるとの方針を表明した。また1999年、ODA中期政策の中で、南南協力支援を有効な援助手法の1つと位置付け、これを積極的に進めていく必要があると論じている。

わが国の南南協力支援の協力形態と定義

 わが国の南南協力支援は、JICA事業を通して実施される(1)第三国研修、(2)第三国専門家派遣が、主な協力形態となる他、(3)パートナーシップに基づく支援、(4)UNDPの「人造り基金」を通した支援、(5)国際会議の開催による支援、に分類される。 
 一般に、南南協力は、開発途上国同士の技術協力を指す「開発途上国間技術協力(TCDC)」と、政府間経済協力及び民間セクターによる投資・貿易分野の開発途上国間協力を指す「開発途上国間経済協力(ECDC)」の2つを含む概念として使われる。わが国の南南協力支援は、技術移転を通した人材育成や能力強化を目的に行われる場合が大半である。このことから、わが国の開発協力の文脈の中で、「南南協力」支援は「開発途上国間技術協力(TCDC)」への支援を意味する場合が多い。

協力形態別にみたわが国南南協力支援の実績と特徴~JICA事業を通した南南協力支援~

(1) 第三国研修
 第三国研修は、比較的開発が進んだ途上国を拠点に、周辺国等から研修員を受入れ、技術を移転、普及する協力スキームである。1975年、タイの養蚕研究研修センターでラオスからの研修員を受け入れたことを契機に始まり、現在わが国の南南協力支援の中心的な協力形態となっている。
 1994年から2001年まで、第三国研修のコース数は継続して増加傾向にある。第三国研修の実施地域は、従来からアセアン地域のシェアが大きい。また、近年は、アフリカ地域で実施される第三国研修案件のシェアが増加している。わが国の第三国集団研修はかねてより農業分野の研修が多い。また、近年は、公益・公共事業分野の研修が減少し、商業・観光分野が増加傾向にある。

(2) 第三国専門家派遣
 第三国専門家派遣は、(1)日本の技術協力を補完・支援し、(2)日本が実施した技術協力の成果を普及・発展することを目的に、途上国の優れた人材を他の途上国に専門家として派遣する制度である。1995年に10名の派遣から開始されたが、以後、派遣者数は年々増加し2000年度は125人、2001年度は118人の第三国専門家を派遣した。
 近年、中南米地域を派遣元とする第三国専門家が増加している。第三国専門家の受入は、年によってバラツキはあるものの、1990年代後半からアフリカ、中南米地域で増加している。

(3) その他のJICA事業による南南協力支援
 第三国研修及び第三国専門家派遣以外に、JICA事業を通して実施される南南協力支援として、三角協力プロジェクト「カンボジア農村開発計画」、メキシコの南南協力実施体制の強化に向けた専門家チーム派遣、ケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学に設置された「アフリカ人造り拠点(AICAD)」等がある。

協力形態別にみたわが国の南南協力支援の実績と特徴~パートナーシップ・プログラム、「人造り基金」、国際会議を通した南南協力支援~

(1) パートナーシップ・プログラム
 わが国は、南南協力の促進を目指し、特定の南南協力の実施国と共同で周辺の受益国へ協力を行うため、総合的な枠組みを政府間で合意し、枠組み文書の署名を交わすパートナーシップ・プログラム制度を設けている。2002年までにわが国は、タイ、シンガポール、エジプト、チュニジア、チリ、ブラジル、アルゼンチン、フィリピンの8ヶ国と同プログラムに合意している。

(2) UNDPの「人造り基金」を通した南南協力支援
 UNDPは、南南協力支援において、国連機関で中心的な役割を担っている。わが国は、UNDP内に設置した「人造り基金」を通して、1996年以降、UNDPが進める南南協力支援に協力している。主に、途上国の行政機関を中心とした組織の機能強化と個人の能力強化、途上国間で経験を共有するための情報システムの改善と強化、持続可能な人間開発のための事業等を支援している。特に1998年以降、TICADIIのフォローアップに本基金を活用し、アジア・アフリカ協力を中心に南南協力の拡充を図っている。2000年以降、「人造り基金」自体へのわが国の拠出金が減少していることから、これを通した南南協力支援への拠出金額も減少している。

(3) 国際会議等の開催を通した南南協力支援
 わが国は、国際会議の開催とそれへの積極的な参加を通して南南協力支援を行っている。1998年、外務省とJICAの共催により、新興援助国15ヶ国の参加を得て、沖縄で南南協力支援会合を開催した。本会合で参加各国は、南南協力の実施上の課題について討議し、各国の経験を共有した。
 2001年には、JICA、UNDP共催で、シンポジウム「21世紀の開発協力-南南協力支援のあり方」が東京で開催され、開発途上国政府、二国間ドナー、国際機関の参加を得た。実務者ワークショップで、参加国の南南協力の事例が紹介され、南南協力とその支援に関し意見交換が行われると共に、一般公開シンポジウムでは、有識者、NGO等、約130名の参加者を対象に、JICA、UNDPによる南南協力支援の事例が紹介された。
 2002年9月、南アフリカ共和国で開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会合」で、JICAはワークシップを開催し、わが国の南南協力支援への取り組みについて概括した。また、わが国の南南協力支援案件のカウンターパートが、タイ、チュニジア、チリ、ケニアでのわが国の南南協力支援案件の事例を紹介した。本ワークショップには、途上国政府関係者、NGO等、約140名が出席し、南南協力のアプローチや、アジア・アフリカ間の南南協力の可能性について活発な議論が交わされた。

3.評価結果

理論の検証

 南南協力支援政策が日本の政策方針及び協力実施国の要望に整合しているかどうかについて検証した。その結果、わが国の南南協力支援政策は、わが国の上位の援助政策であるODA大綱、ODA中期政策及びTICADII等の我が国が国際的に合意した南南協力の方針に則していること、また、協力実施国の国内政策や外交政策にも則していることから、わが国が今後とも右政策を支援していくことについての理論的整合性が認められる。

プロセスの検証

 南南協力支援政策プロセスとして、パートナーシップ・プログラム枠組み文書の策定~行動計画の策定~案件形成~案件実施、という4段階のプロセスについて検証した。個々の段階をわが国外務省の過去の事例およびJICAのガイドライン等の一般的なプロセスに照らして検証したところ、実施されなかった「行動計画の策定」を除き、南南協力支援政策のプロセスは、適切な役割分担の下で、適切な手順に従って行なわれていたと評価できる。また、迅速性の観点からも、パートナーシップ・プログラム文書の策定、案件の形成、案件の実施が妥当なタイミングで行なわれていたことから、適切であったと判断できる。

 一方、「南南協力支援」政策の観点から、枠組み文書の策定から実施に至るまでの一連のプロセスを総合的に検証したところ、以下について検討される必要がある。

1)パートナーシップ・プログラムに関する継続的な対話の必要性
 パートナーシップ・プログラムの策定は、わが国と協力実施国とのこれまでの実績と信頼に基づいて、政策レベルでスムーズに行われたことは前述の通りである。しかし、その後のプロセスにおいて、枠組み文書に記載されている「行動計画の策定」が行なわれていないこと、また、エジプトの例にみられるように費用分担化について今後の方向性の不透明さが懸念されている。さらに、チュニジアの事例でも、費用分担の適用範囲や会計上の手続きに関し共通認識を図る必要性が確認された。これらを踏まえ、対話等を通じて、同プログラムの策定プロセスにおける実務レベルの関係者の関与を高めることで、関係者の間でパートナーシップ・プログラムの記述内容に関する共通認識が図られることが望ましい。

2)わが国の南南協力支援における協力受益国関係者との対話を促進する
 案件形成及び実施プロセスは、実質的には、協力実施国政府及び協力実施国の日本側関係者の主導で行なわれているのが現状である。しかし、そもそも日本は、協力実施国と協力受益国の協力を支援する立場にあることから、これらが協力実施国関係者の主導のみで行なわれることは理論的に妥当でない。協力受益国政府及び協力受益国の日本側関係者の関与を高めることを目指し、案件形成及び実施プロセスを見直す必要がある。

3)費用分担化の原則による在外プロジェクト形成調査への影響
 プロジェクトの実施のみならず在外プロジェクト形成調査においても、協力実施国との費用分担化が求められるようになっている。しかしながら、エジプトの事例に見るように、協力実施国政府側が費用負担できないケースもあり、その結果、JICAのみで在外プロジェクト形成調査を行なう事態が生じていることが確認された。プロジェクト形成調査は、案件形成のプロセスにおいて協力実施国および実施機関が協力受益国の現場を視察し、協力実施国と協力受益国が協議できる唯一の機会であることから、これを日本のみで行なうことは適切とは言えない。

4)南南協力支援のための協力実施国における体制強化の必要性
 プロジェクト形成プロセス及び実施プロセスにみるように、南南協力支援政策は、その実施に際してJICA本部、在外事務所をはじめ、協力実施国政府機関、実施機関、協力受益国政府、協力受益国における受け入れ機関等、多くの関係者が関わるため、手続きが複雑であり、且つ膨大な事務的作業を伴う。例えば、本邦研修は、JICA本部、研修実施機関、被援助国政府の主に3者によりアレンジがなされるが、第三国研修は、協力実施国における日本大使館、JICA本部、JICA在外事務所、研修実施機関、協力受益国政府、協力実施国外務省に加え、場合によっては協力受益国における日本大使館、協力受益国JICA在外事務所等もアレンジに関与する。また、本邦研修は日本が実施費用を全額負担しているが、第三国研修ではそれを協力実施国と費用を分担しているため、JICA在外事務所は研修実施機関の作成した見積もり書の費用分担化について、協力実施国の政府(エジプトでは外務省)と協議しなければならない。エジプトでは、南南協力支援を主体的に担当するJICA企画調査員及びローカルコンサルタントによりこれらの業務に対処してきた。チュニジアの事例では、南南協力の窓口機関であるATCTの「調整役」としての役割が明確でないことが指摘されたが、今後同国に対する南南協力支援案件が増えるのであれば、エジプトの例を参考にJICAチュニジア事務所及び協力実施国政府の業務の実施体制を強化し、役割分担を明確化する必要があろう。

効果の検証

 効果を政策目標の達成度合い及び間接的・波及的効果の観点から検証した。その結果、以下の通り、政策目標の達成度合いについては、新興援助国の育成による援助資源の拡大、地域間協力の推進、適正技術の移転、ODA経費の削減において、各々効果の大きさは異なるものの、プラスの効果が確認された。また、間接的効果として、南南協力支援政策による、日本のプレゼンスの強化、ネットワークの構築、技術の再移転が確認された。これら効果をさらに高めるために、以下について検討される必要がある。

1)新興援助国の育成の対象者の具体化
 新興援助国の育成の効果は、協力実施国政府機関に対する効果、実施機関に対する効果、協力実施国の講師及び第三国専門家に対する効果の3つの視点から検証した。その結果、協力実施国政府機関に対する効果については殆ど確認されなかったが、実施機関、協力実施国の講師及び第三国専門家に対する効果はある程度確認された。わが国の南南協力支援政策において、協力実施国政府機関の能力向上を図ることが重要であるならば、協力実施国政府機関が殆ど関わる必要がない既存の政策プロセスの見直し及び目的達成のための具体的な方策を検討する必要がある。

2)地域間協力の推進の目的と戦略の具体化
 地域間協力の推進度合いは、協力実施国と協力受益国との人的交流の発展の観点から検証した。エジプトとチュニジアの事例から、南南協力支援により人的資源の交流や外交関係においてプラスの効果が確認されたことから、わが国南南協力支援政策は、北アフリカ地域と他のアフリカ地域との人的交流の推進及び外交関係の強化に多少なりとも寄与していると言える。ただし、わが国南南協力支援は実施案件数が限られていることから、効果の度合いは極めて限られたものであると推測する。
 他方、北アフリカ地域と他のアフリカ地域の地域間協力の促進をプラスと捉えるか、マイナスと捉えるかは、その国の捉え方により大きく異なる。セネガルは、北アフリカ地域との協力促進よりも、むしろ西アフリカ地域との協力が重要であると考えている。わが国が南南協力支援を通じて、域内、域外協力の推進を図る際は、協力実施国と協力受益国の両者の政策を十分に理解する必要がある。

3)協力実施国と協力受益国の適切なマッチングの必要性
 アンケート調査の結果からは、言語の共通性によるプラスの効果は確認されなかったが、グループディスカッションを通じて、言語は、研修滞在中の日常生活や他の研修参加者との意見交換を円滑に行う上での基礎であること、また、言語の相違は、マイナスの効果をもたらす可能性があることが確認された。さらに、文化の共通性は、分野によりその効果の度合いが異なることも確認された。以上のことから、言語、文化等の共通性、さらに分野の特徴を意識して協力実施国と協力受益国のマッチングが行なわれたわが国の南南協力支援政策については、プラスの効果をもたらしていると結論づけられる。

4)パートナーシップ・プログラムの締結によるわが国のさらなる経費削減
 南南協力支援政策の下で行なわれている第三国研修及び第三国専門家派遣の経費を本邦研修及び日本人専門家派遣と比較した結果、南南協力支援政策は、「国際航空運賃」が安くすむことから、わが国のODA経費の削減に直接的なプラスの効果をもたらしていることがわかった。パートナーシップ・プログラムの枠組み文書に署名している国との南南協力支援では、費用分担化の原則により、わが国にとってさらなる費用削減につながっている。

5)日本のプレゼンスの向上のための努力
 第三国研修における日本人講師の存在やわが国南南協力支援に関する報道が、協力実施国においてわが国援助のプレゼンスを高めていることが確認された。さらに、協力実施国の関係者と日本人専門家、講師、研修生の間でネットワークが形成されていることも確認された。南南協力支援政策においてこれらの位置付けを明確化すれば、政策の効果をさらに高めることができる。

4.教訓と提言

プロセスに関わる教訓と提言

提言1:行動計画(Action Plan)を策定する
 パートナーシップ・プログラムに署名後は、同プログラムの内容について当該協力実施国との対話を通し、プログラムの適用範囲、目標、戦略等、を明確にする新しいプロセスが必要と考えられる。このプロセスにより、パートナーシップ・プログラムの内容に、両国間で共通認識を図ることが可能となる。このような新しいプロセスの一案として「行動計画」の策定が挙げられる。パートナーシップ・プログラムに署名後、わが国と協力実施国とが共同で今後の「行動計画」を策定する過程を通して、同プログラムの内容について、より詳細に共通認識を図り、具体的な方向性について合意形成できるものと考えられる。

提言2:わが国の南南協力支援における協力受益国関係者の役割を明確化する 
 現行の協力スキームの中では、日本大使館、JICA在外事務所を含む協力受益国関係者が、南南協力支援案件の形成や実施にどのように関わるべきかについて明らかにされておらず、協力受益国関係者の関与が少ないままに留まっている。この点について、先ずはわが国の政策レベルで、南南協力支援において受益国関係者が果たすべき役割について明確にし、案件の形成、実施プロセスに受益国側の各関係者が積極的に関わることが可能となるメカニズムをつくることを提案する。

提言3:南南協力支援における「費用分担化」の原則に関する理解の共有
 新興援助国の経済は未だ不安定であり、決められた割合の費用分担化の実施が困難な状況に陥るケースや、国の経済、財政状況と案件の窓口機関の予算状況は必ずしも同じでないことも調査において明らかになっており、被援助国を無償対象国、非無償対象国に区分して一定の費用分担率を設定することに対して懸念が生じている。費用分担化については、無償対象国15%、非無償対象国30%と費用分担化の比率を設定しているが、相手国実施機関の状況等を踏まえ実態に応じた運用を行うことになっている。外務省は、相手国実施機関の状況等を踏まえ、実態に応じた費用分担の運用を行なうことを改めて実施機関ならびに相手国政府に伝えること、また、費用分担化に関する具体的な適用範囲や内容について関係者に対し説明する必要がある。

提言4:南南協力支援のための協力実施国における体制を強化する 
 南南協力支援政策は、JICAをはじめ、協力実施国政府機関、実施機関、協力受益国政府、協力受益国における受け入れ機関等、多くの関係者が関わるため、プロジェクトの形成、実施にかかる手続きが複雑であることに加え、見積もり、精算等の事務作業も膨大である。今後、わが国が南南協力支援政策を他国においても拡大していくためには、必要に応じて協力実施国におけるJICA在外事務所の実施体制の強化を図っていくことが望まれる。
 また、協力実施国側の政府機関が複数にわたる場合は、予め各々の機関の役割分担を確認し、わが国と協力実施国政府との間に合理的な実施体制を構築することが重要である。この点は、パートナーシップ・プログラムの署名文書や、署名後に作成されるべき行動計画の中で、わが国南南協力支援における各政府機関の役割を明確にすることも一案と考えられる。

効果に関わる教訓と提言

提言5:南南協力支援政策の概念、目標、戦略を明確にする
 南南協力支援政策は、、概念自体が明確には整理されておらず、南南協力支援政策の具体的な目標と戦略が明らかではない。また、本調査では南南協力支援政策の目標の達成度合いを、(1)新興援助国の育成による援助資源の拡大、(2)域内又は地域間協力の促進、(3)適正技術の移転、(4)ODA経費の削減の4つの観点を指標として検証したが、これらの指標にはODAの効率性に関するものと効果に関するものとが混在しており、十分整理されていないのが現状である。南南協力支援に関する政策方針、政策方針の概念の整理、目標の明確化、目標達成のための戦略等を改めて明確化することは、政策のより効果的、効率的な実施を図る上で有意義である。具体的には、「施策(プログラム)」を作成し、それに基づいた案件の形成、実施を行うことも一案である。

提言6:協力受益国に対して協力実施国のリソースに関する情報を提供する
 南南協力支援の効果を最大限に引き出すためには、協力実施国のリソースと協力受益国のニーズが適切に組み合わされる必要がある。この点について、協力実施国の当該分野における比較優位性とそのリソースに関する情報を、協力受益国に対して明確に伝えることが重要である。先ず取り組まれるべき例として、協力実施国政府および協力実施国におけるJICA在外事務所が、第三国研修の参加者を募集する際に協力受益国に送付されるコース・インフォメーション(GI)の内容を精査し、研修内容の詳細、当該研修分野における研修実施国の比較優位性等を、明確に協力受益国に伝えることを提案する。さらに、協力受益国におけるJICA在外事務所についても協力受益国政府関係者との対話を通じて、これらのプロセスが適切に行なわれているかどうか定期的に確認し、必要に応じて協力実施国におけるJICA在外事務所に対して現地の状況を報告することが望ましい。
 また、協力実施国のリソースと協力受益国のニーズを適切にマッチングさせるためには、協力実施国からの一方向のアプローチでは不十分で、受益国の研修参加へのモチベーションを高め、適切な研修生の選定に受益国が主体的に関わる双方向のアプローチが重要であり、それを促す工夫が必要となる。一案として、当該受益国を対象に今後実施予定の南南協力支援案件(第三国研修等)リストを作成し、受益国関係者に定期的に送付することが挙げられる。

提言7:パートナーシップ・プログラムの拡大
 南南協力支援政策の下で行なわれている第三国研修及び第三国専門家派遣の経費を本邦研修及び日本人専門家派遣と比較した結果、南南協力支援政策は、わが国のODA経費の削減に直接的なプラスの効果をもたらしていること、また、パートナーシップ・プログラムの枠組み文書に署名している国との南南協力支援では、費用分担化の原則により、わが国のODA経費のさらなる削減につながっていることから、わが国が、協力実施国の南南協力実施能力と費用負担能力を勘案しつつパートナーシップの締結国数を増やしていくことは有意義であると考える。

提言8:南南協力支援会合の定期的な開催によりわが国のプレゼンスを強化する
 1998年に沖縄で開催した南南協力支援会合を協力実施国で開催することは、わが国援助のプレゼンスをより高める良い機会であるとともに、他ドナーへの情報提供や、協力実施国間の情報交換の場を提供する上で有益であると考える。

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