1-4. 評価方法
評価とは、評価される当事者に、彼らが遂行する事業に対する建設的な視点を与え、その事業をよりよいものにするための示唆を得させるものでなければならない。すなわち、評価とは、本来は評価を行う側が評価される側に評価されるのだという、気骨の折れる行為なのである。村人のコメントを極力聞くことが肝要である。さらに、今回の評価行為は、それぞれが数年以上を経過している2つの事業を、たかだか数日で全般的に評価しようという、とりようによっては、誠に傲慢ともいえる行為である。従って、プロジェクトが設定した目標の達成や個々の活動の妥当性など、通常の評価で把握すべき項目は今回は問わなかった。短期間の外部者による評価として何が出来るか、という観点に立ち、以下の視点からの評価を行うこととした。
□ 評価の概念的枠組み
今回の評価においては、以上の点を考慮に入れつつ、評価のための以下のような概念的枠組み1を設定してみた。まず、今回の評価のテーマを「持続可能な開発」とし、それを、1)経済面での開発(Economic Development)、2)環境面での開発(Ecological Development)、3)地域社会、生活共同体の開発(Community Development)の3つの構成要素が調和のとれた状態であると定義した。
図1-1:評価における持続可能な開発のコンセプト
この概念的枠組みを、実際の評価においては、以下のように展開した。すなわち、事業(案件)全体並びに事業の個々の活動を、この3つの構成要素面から把握した。時間軸においては、以下の図1-2に示す事業遂行の各段階において、この3つの構成要素がいかに考慮されているを検討した。
図1-2:プロジェクトにおける事業遂行の各ステップ
□ 方法論(アプローチ)に関する評価の枠組み
また、持続可能な開発を実現するための方法論の概念としては、
- ■ 分権(Decentralization)
- ■ 参加(Participation)
を設定した。この2つは、実は同じ硬貨の両面と言っても過言ではない。分権、すなわち決定権の分散がなければ参加はなく、参加のないところに分権もない。特に、今回の評価対象事業が2案件とも住民参加型の総合的農村開発を謳っている以上、この方法論的部分の評価に占める比重は大きい。さらに、この点に関して、分権と参加の基底として女性の参加に注目することにした。なぜなら、開発途上国において、例えば、ある村に水道の設備がない場合、往々にして朝早く起きて水を汲むのは女性であり、また、ガスなどのエネルギー供給源がない場合、何時間もかけて薪を採りに行くのも女性だからである。朝早くから夜遅くまでこのような生活の基本的資材を手に入れるために何時間も費やさなければならない女性は、それゆえに、共同体の決定に参加することもできず、彼女たちの参加がないゆえに、逆に共同体の生活の改善もない。よって、いかに名目だけではない、真の女性の参加を勝ち取り、そのための環境を整えていくかは、このような事業を成功に導き、住民参加型の事業として成立させるための鍵となる。
□ 持続可能な開発達成確認のための視点
また、事業が3つの構成要素間の調和のとれたものであり、なおかつ、上記のような方法論的要請を満たしているかどうかを確かめるための視点として、以下の点に留意した。
- ■(当該事業は)住民が維持できるか
- ■(当該事業は)環境的に維持できるか
この前者に関しては、特に住民参加型の農村開発においては、さらに以下の点を意識的に留意した。
- ■ 住民による再生産が可能である
- ■ 他の村の住民により、模倣が可能である
すなわち、事業の終了後、外部からの注入が終わっても、その事業の結果として期待される効果を住民自身で維持できうるか、また、その結果を察知した他の地域の住民が自分たち自身の資源によってそれを再生することが可能か、そのことが問われる。この点に充分留意しない事業は、多かれ少なかれ援助依存の体質を作り出すものとして注意しなければならない。
また、後者に関しては、事業が事業の遂行中のみ成らず、終了後の将来にわたっても環境への負担に留意しているかどうか、環境への負担を予測する当該社会の変動に対する適切な分析がなされているかどうかが問われる。
□ 当事者の概念
今回の評価の対象となる2事業には、厳密に言えば、事業の執行者と受け手の区別はない。すなわち、ODA、NGOの事業とに係わらず、事業の基本的目標、性格からいって、
- ■ 外部機関
- ■ 外部機関の現地のカウンターパート
- ■ 住民
の3者が事業の執行者となる。ここで、真の対等な関係(Equal Partnership)が築かれているかどうかが、事業の成否を問う大きな鍵となる。そして、それをいかに検証するかは、以上の3者が、それぞれ適正と思われる資本、技術、労力などの資源を投入しているか、また、その結果について明確な見通しを持ち、その評価についても対等に参加しているかどうかを検証することである。
同時に、我々が見逃してはならないのは、いわば隠れた当事者である。それは、事業を直接間接に左右する影響力を持つ以下の要素である。
- ■ 当該国の国家政策、戦略(特に今回の場合は、ラオスの農業戦略など)
- ■ 外部機関の政策、戦略(今回の場合、日本のODA戦略など)
- ■ グローバライゼーション
以上の要素が、いかなる開発事業にも大きな影響を及ぼすのはいうまでもないが、果たして、各事業が上記の、特に前2者の要素を見据えて立案され、それに対する将来的展望を示すような戦略的方向性を持っているかも、事業の成否に大きく係わってくる。また、グローバライゼーションをどのようにとらえ、それに対する事業そのものの位置付けをどうしていくかも、事業実施地の将来に重大な影響を及ぼすものと考えられる。
1 この枠組みは "The Agenda 21 Planning Guide - An Introduction of Sustainable Development Planning -", ICLEI, 1996にヒントを得て展開したものである。