本章では、本インド国別評価実施の背景及び目的、並びに本評価の実施要領を示す。
我が国の政府開発援助(ODA)は、近年、総額で世界のトップクラスの規模を維持しているものの、国内の厳しい財政状況等を背景に、より効果的・効率的な、質の高い援助の実施が求められている。そのためには、援助先(国)別の援助政策の策定・実施における効果・効率の向上を図る必要がある。
本評価の目的は、インドに対する我が国の援助政策全般を検討することによって、今後策定が予定されている「インド国別援助計画」を含む今後の我が国の対インド援助政策の策定・実施改善に向けた教訓・提言を得ることである。それに加えて、当該評価結果を公表して説明責任を果たすことも目的とする。
評価対象は1997~2001年度におけるわが国の対インド援助政策(対インド国別援助方針、政策協議の対処方針等)である。評価対象を把握するため、可能な限りインプット→アウトプット→アウトカムというロジックモデルを念頭におきながら対インド援助政策を体系図としてまとめた(第3章参照)。
(1)評価の枠組設定
評価対象である日本の対インド援助政策を大きくその内容と実施結果に分け、内容については妥当性、結果については有効性を評価項目とした。これら項目の評価の結果、必要と認められる場合には、更に日本の対インド援助政策の策定及び実施プロセスを、その適切性という観点から評価することにした。これらの項目を検証するため、評価項目毎に評価指標を設定した。
(2)情報収集
前述(1)で設定された評価指標について、国内及び現地調査を実施した。
(3)評価
上記の各項目について、次の評価基準により評価を行った(図表1-1)。
援助政策の内容の妥当性については、日本の対インド援助政策がその上位政策であるODA大綱及びODA中期政策、またインドの開発ニーズとどの程度合致しているのかについて、それぞれの内容の比較により検証を行った。検証のための情報源としては、ODA大綱及びODA中期政策、第9次5カ年計画等のインド政府資料、また他ドナーの対インド援助政策等の文献の他、これらの関係機関へのヒアリングによる。
援助政策の結果の有効性については、日本の対インド援助政策が評価期間中にどの程度の投入及びアウトプット実績があったのかを検証した。具体的には、1997~2001年度の5年間に完了した案件群、開始された案件群、及び継続中の案件群を日本の対インド援助政策の重点分野毎にまとめて、その量的実績を測定した。また、これらのアウトプットが重点分野毎にどのようなアウトカムをもたらしたのかについても可能な範囲で検証を試みた。更に、参考情報として、インドの主要な経済・社会指標(GNI、就学率等)を収集し、分野別、州別にまとめた。検証のための情報源としては、「ODA白書」等の政府出版物や独立行政法人国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)の年次報告書、インド政府の刊行物及び各種統計資料、国際機関の統計資料などの文献の他、関係機関へのヒアリングを行うものとする。
援助政策の策定及び実施プロセスの適切性については、日本の対インド援助政策の策定及び実施プロセスにおいて、日本のODAの上位政策であるODA大綱及びODA中期政策に掲げられている留意事項が反映されているかを検証した。同時に、相手国のニーズを把握し、日本の対インド援助政策を適切に策定・実施しそれを検証するような取り組みが行われているかの検証を行った。具体的には、日本の対インド援助政策の策定プロセスにおいて、日本政府内や援助実施機関、インド政府、民間部門、他ドナーとの間で情報交換や協議がどれだけ行われているのか、また実施プロセスにおいて同様に関係機関等との間で連携・協議がどれだけ行われているのかを検証した。また、日本の対インド援助政策の実施状況を検証するための評価体制が整備されていたのかについても検証した。そのための情報源は、ドナー会合等の文献や、関係機関へのヒアリング等を用いた。
本評価は以下のメンバーによる評価チームにより実施された。
監修
正木 朋也 東京大学大学院医学系研究科 国際保健計画学 客員研究員
近藤 則夫 アジア経済研究所 地域研究第1部 副主任研究員
調査団員
黒田 康之 財団法人 国際開発センター 主任研究員
長谷川祐輔 財団法人 国際開発センター 研究員
片瀬 葉香 財団法人 国際開発センター 研究員
オブザーバー
川上 貴之 外務省アジア大洋州局南西アジア課 事務官
また、本件の実施に際しては、以下の関係各課より協力を得た。
外務省 | アジア大洋州局南西アジア課 経済協力局国別開発協力課、技術協力課、有償資金協力課、無償資金協力課 |
独立行政法人国際協力機構 | 企画・評価部評価監理室、アジア第二部南西アジア・大洋州課、インド事務所 |
国際協力銀行 | 開発第3部第2班、プロジェクト開発部開発事業評価室、ニューデリー駐在員事務所 |
本評価は2003年8月から2004年3月までを調査期間とし、以下の段階により進められた。
(1) | 国内調査(評価の分析枠組策定、資料収集・分析、国内関係機関からの聴取等) |
(2) | 現地調査(インド政府機関、日本の援助関係機関、他ドナーからの聴き取り及び資料及び指標データ収集・分析等:2003年9月14日~10月1日実施) |
(3) | 分析(国内調査及び現地調査の結果とりまとめ・分析、報告書作成等) |
本評価の実施にあたっては、特に結果の有効性の検証に関連して、以下の重要な制約と仮定を前提としている。
(イ)目標値の設定
本評価の対象となる「対インド国別援助方針」等の援助政策の「結果の有効性」を判断するために、同政策が反映されたと仮定する個別案件の投入、アウトプット、アウトカム実績を重点分野別・細目別に可能な限り計測・集計した。しかしながら、援助政策の策定段階において、重点分野別・細目別アウトプット指標の選択及びそれぞれの目標値(ターゲット)設定を行っていないため、ターゲットへの達成度測定が不可能であった1。従って、評価の分析枠組に示されているように、各分野・細目における投入実績及びアウトプット実績の程度ではなく、単に実績の有無によって判断せざるを得なかった。
一方、これらの実績の計測・集計及び分野ごとの実績の有無の確認により、分野間での実績比較は可能であった。例えば、重点分野・項目とされながらも、評価対象期間中にその実績がないもの、または他の重点分野・項目と比較して著しく少ないものが存在するかどうかに関しては、本評価においても留意されるべきものとした。この前提として、援助政策で定められた重点分野・細目について、実施段階での網羅性も重視すべきであるとの仮定をおいている。
(ロ)長期的効果に対するわが国の貢献度把握に関する限界
日本の具体的援助活動による長期的効果については、投入から効果の発現に至るまでに、様々な外部要因があり、因果関係の証明が困難であるため、十分な検証ができなかった。
さらに、統計データの信頼性の問題がある。特に州別データの収集において、評価対象期間(1997~2001年度)に合致した最近のデータを入手することが困難であるだけでなく、入手できた場合でも、評価チームがその信頼性に疑問を抱かざるをえないデータも存在した。この背景としては、インドでは一定の分野について、州政府が統計データの集計を担当しており、各州のデータを中央政府が取りまとめるまでの段階において州毎の対応のばらつきが生じているという要因があるものと思われる。評価チームは可能な限り信頼性及び比較可能性が高いと思われるデータを採用したが、最終的なデータ信頼性という点では制限があることを指摘したい。
(ハ)インドの地下核実験実施に対応した日本の経済措置の実施
本評価の対象期間とした1997~2001年度のうち、1998年5月から2001年10月までの3年半の間については、インドの地下核実験実施に対応した新規円借款の停止等の経済措置が実施されていた期間にあたる。同措置の実施は、評価対象期間中の投入及びアウトプット実績のレベル(案件数及び金額)に大きな影響を及ぼしたものと考えられる。重点分野間での実績比較に際しても、この特殊要因からの影響は排除できない。
1 仮にアウトプット指標の目標値が予め設定されたとしても、それらの妥当性が必ずしも保証されているわけではないが、事前の取り決めに従った評価は可能になる。