1.1 調査の目的、対象、背景
1.1.1 調査の目的
本調査は、2000年度をもって日本政府による「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(Global Issues Initiative on Population and AIDS: GII)」(以下GIIという)が終了したことを受けて、GIIによる政府開発援助(ODA)の成果を総合的に評価し、今後の日本による人口1・エイズ分野と「沖縄感染症対策イニシアティブ(The Okinawa Infectious Disease Initiative)」(以下IDIという)における協力の改善に具体的に貢献する教訓と提言を導出することを目的としている。
GIIは、日本政府が1994年4月に日米首脳会談において発表した人口・エイズ分野に対するODAのイニシアティブであり、1994年度から2000年度までの7年間に、12の重点国とその他4カ国(表1.1)を重点対象国として積極的に推進したものである。
調査対象は、日本がGIIの16の重点対象国とその他9か国で実施した人口・エイズ分野への包括的なODA事業である。対象国および対象分野を表1.1に示した。
表1.1 GII重点対象国および対象分野
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出所:外務省資料より作成。 |
表1.1の(2)の「保健・教育分野を通じ間接的に人口抑制につながる協力」(以下「人口間接分野(協力)」という)は、以下の論理に基づいて、人口分野の成果に貢献する協力として実施されたものである。その論理とは、子どもを安全に出産し、無事健康に育てることができるという安心感や自信が夫婦の持つ子どもの数の減少につながり、ひいては個人の豊かな暮らしの実現につながるというものである。「女性を対象とした職業教育・女子教育」は、女性のエンパワーメントが、女性のリプロダクティブ・ヘルスの向上につながるという認識にも基づいている2。
なお、対象期間の中間年度である1997年度には、外務省の委託調査により、その時点までのGIIの実績のレビューとニーズ把握が行われ、「GII(地球規模問題イニチアティブ)に関する中間報告」(1994.4-1997.3)(以下「GII中間報告」という)がまとめられた3。
(1)人口・エイズ問題の重要性
現在、世界人口は年間7,800万人増加しており、その95パーセント以上を途上国が占めている。人口増加率が最も高い地域は、最貧国が集中するアフリカと南アジアである。人口増加の速度がより緩やかになれば、途上国の貧困、人口の流入出、食料や水不足、環境問題等の問題の圧力が緩和され、人々に対する教育、質の高いヘルス・ケアの提供等を通して途上国の持続可能な開発が実現すると理解されている。1994年に国連により開催された「国際人口開発会議」では、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の実現等の人口・開発問題に対する包括的な対応が明示され、途上国政府およびドナー機関、NGO による取組みのさらなる対策強化の必要性が確認された。その後、全体としては対策が強化されたが、依然として多くの途上国でリプロダクティブ・ヘルスの実現は重要な開発課題となっている。
世界のHIV感染者数は、2000年末までに3,600万人に達し、2,180万人がエイズを発症して死亡した。HIV感染者の95パーセントが途上国の住民と推計されており、平均余命が10年以上も低下した途上国もある。エイズ発症者の多くが最も生産性の高い年齢の成人であり、HIV/AIDSが途上国の社会経済に及ぼす影響は深刻である。UNAIDSをはじめドナー機関は、HIV/AIDS対策において、1)エイズ問題の開発上の問題として認識、2)予防およびケアを中心に、性感染症やリプロダクティブ・ヘルス分野において協力を実施し、3)人権、女性という社会的側面を重視した協力を展開して来ているが、途上国のエイズ問題は深刻さを増し、国際社会の取組みのさらなる強化が必要となっている。
(2)IDIへの活用
GII開始以降、日本は「国際寄生虫対策に関する橋本イニシタティブ」等、新興・再興感染症の問題分野において協力強化を推進していたところ、2000年7月「九州・沖縄サミット」において「沖縄感染症対策イニシアティブ」(IDI)を発表した。IDIでは、今後5年間に30億ドルを目途として、感染症(HIV/AIDS、結核、マラリア・寄生虫、ポリオ)、公衆衛生の推進、研究ネットワークの構築、基礎教育、水供給の分野の協力を各種援助形態による実施を通じて、強化していくことを表明している。IDIは、1)緊急を要する感染症対策への協力である、2)具体的な対象分野がGIIと複数重複している4、3)各種援助形態による実施を推進する、というGIIとの類似性を備えている。したがって、GIIの評価から得られる教訓と提言は、IDI実施の各側面の改善に資するものである。
1 1994年に開催された「国際人口開発会議」(カイロ会議)以降、リプロダクティブ・ヘルスという概念が普及し、人口抑制を主たる目的としたこともあった人口援助や人口分野という言葉は使用されることが少なくなった。代わって、リプロダクティブ・ヘルスという言葉が使用されている。
2 1994年の「国際人口開発会議」以降、国際的に広く認められた考え方。
3 「GII中間報告」は、「GIIに関するNGO懇談会」の主要メンバーである財団法人家族計画国際協力財団(ジョイセフ)を中心とするNGO関係者によってとりまとめられた。現在、「GIIに関するNGO懇談会」は、「GII/IDIに関するNGO懇談会」という名称となっている。
4 HIV/AIDSと基礎教育。「公衆衛生の推進」と「水供給」はGIIの「人口間接協力」の「基礎的な保健医療分野」への協力と重複する領域が多い。