(1) | 目的・プロセス評価からの教訓と提言
プロセスの他国援助への適用 今回の目的・プロセスの評価を通じて判明したことは、プログラムを構成する各事業において、上位目的と整合性のとれた案件が要請・採択され、適切な実施が確保できるようなプロセスがうまくでき上がっていることである。特に、わが国・カンボジア側双方がお互いの計画・方針を理解し合い、協調しながら、案件要請・統一要望調査票を作成していくための適切なプロセスが確立しているといえる。また、プログラムが全体として効果が増すように事業間の連携が図られ、実施されてきた。特に、支援の重点分野として道路・橋梁分野が掲げられるとすぐに、無償プロジェクト実施前および並行して研修員受入・専門家派遣といった技術協力事業を実施したことは、プロジェクト群のスムーズな実施と完成後の維持管理に大きく寄与したと考えられる。各国によって事情は異なろうが、他国での援助のモデルとしても適用可能できる点も多いと考えられる。 |
(2) | 結果の評価評価からの教訓と提言
ベースライン調査65・モニタリングの実施と援助効果に関するデータの蓄積 今回の評価調査を実施して痛感されたのが、評価指標に関するデータ収集の困難さであった。特に古いデータがなく、完成したばかりの部分については効果が充分現れているとはいい難い点が多かった。また、ベースライン調査も1993年のJICAの支援で行われた国道6A号線復旧計画の実施前のもののみであった。 最近の無償プロジェクトでは基本設計時に評価指標が設定され、データの収集方法まで検討されている例が多い。今回の無償プロジェクトにおいても、事業効果としてどのようなものが予測されるかについては、全ての基本設計調査報告書に記載されていたが、近年のものを含めてプロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)にまとめられ、効果の論理性をチェックし、指標データの入手方法までカウンターパートと具体的に協議した記録は見受けられなかった。近年では事前評価も行われているが、やはり基本設計調査時での評価指標の設定、ベースライン調査・モニタリングに関してのカウンターパートとの協議、カウンターパート主体の実施が基本といえよう。 プログラム・レベルでいえば、同じ分野については共通の指標・データ入手方法(交通量調査の場合、測定地点・時期・時間帯、車種分類)がとられることが必要である。 援助資源の有効な利用のためには評価はカンボジア側にとっても重要である。特に援助の実施効果の評価はカンボジア側にも有意義な教訓もたらすものと考えられる。また、各ドナー(二国間援助の場合は特に)は納税者・資金拠出者に対して説明責任がある。 ドナー側の評価者にとっては、評価時になって情報を集めようとしても集められない情報もたくさんある。費用のかかるような効果指標についてはドナー側の支援も必要であろうが、カンボジア側においてもカウンターパートとしてベースライン調査・モニタリングを行い、少ない費用でも可能なデータの収集・分析を行えば、各事業やプログラムの効果を客観的に示すことができ、より効果的・効率的な援助資源の活用と将来の適切な要請(プロジェクト計画策定・案件選定)にもつながると考えられる。 維持管理財源確保のための制度整備・運営支援 無償プロジェクトにより復旧・改修された道路・橋梁は、同じく無償プロジェクトで改善された道路建設センターを中心に維持管理に向けての努力がなされており、かなりの効果を上げている。しかし、整備後ずっと維持管理が十分になされてきたとはいい難い。そのボトルネックは予算確保といえる。 カンボジア政府・公共事業運輸省は車輌登録税(年間登録時のものを含む)、通行料金、国境通行税、燃料税等の徴収により、道路・橋梁の維持管理に充てることを計画している。しかしながら、道路維持管理のための独自財源の確保については、基金設置および追加の燃料・潤滑油税徴収と同基金への繰り入れが始められたばかりである。車輌登録に関しては、新規の登録制度はあるが、定期的な保有登録・車検制度は整備されておらず66、自動車保有にかかる税金(重量税等)の徴収制度は整備されていない。 車輌重量は道路への負荷であり、重量税の維持管理基金への繰り入れは独自財源の徴収方法として合理性が高いものである。この面を中心とした、わが国の経験を生かした制度整備・運営のための支援が提言できる。カンボジアへの適用可能性については十分な検討が必要であろうが、車検制度・道路整備特別会計を設置・運営してきたわが国の経験を生かした協力が有効であると考えられる。 日常点検・清掃・早めの修繕の実施 限られた予算で維持管理を効果的に行うためには、日常的な点検・清掃・早めの修繕が重要であることは論を俟たない。まず、カンボジア側に着実な実施を提言したい。 日常的な点検・清掃・早めの修繕のためには、公共事業運輸省の本省(新たに設置が計画されている道路維持管理室)による作業実施体制の構築およびマニュアル・フォーム類の整備(記録・報告や本格的な修繕の要請のためのものを含む)とともに、作業の第一線に立つ各州公共事業運輸局およびその傘下にある数多くの地方事務所職員の人材育成がこれからの課題である。 公共事業運輸省は省内の教育研修システムの整備・強化を志向している。そのテーマとして日常的な点検・清掃・早めの修繕はふさわしいものといえよう。当初は日本人講師(専門家)によるセミナー開催も必要となろうが、最終的には本省スタッフが講師となって州公共事業運輸局職員等を対象としたセミナーを開催できるように、カリキュラム・教材の開発および講師育成のための支援が提言される。 |
(1) | マスタープラン
これまでのドナーからの援助はプノンペンを中心として放射状に伸びる主要国道への支援であり、 1つのまとまったシステムに対する協力であったといえる。また、主要国道復旧・改修は国土・経済活動の復興にはまず不可欠なこととして議論の余地はなかったといえよう。 今後は、一般国道・州道・地方道といった様々なレベルの道路に対しての支援が求められ、優先度・整備レベルについても地方々々の社会経済開発の方向性によって異なってくると考えられる。 援助資源の最適配分のための、全国的な視野に立った道路網整備あるいは運輸分野のマスタープランが必要である。また、重要なことはマスタープランのさらに上位に位置する、日本でいう全国総合開発計画のようないわば国土のグランドデザインがあってこそ有効なマスタープランの策定が可能なるということである(メコン架橋建設の開発調査で焦点となったのは基本的にはこの点であったと見受けられる)。この点でのわが国の経験を生かした技術協力が提案できよう。 |
(2) | 一般国道・州道・地方道の修復
これまでにわが国をはじめ、アジア開発銀行・世界銀行等のドナーの協力により、主要国道の本格的復旧もしくは改修が行われ、あるいは行われる見通しが立ちつつある。また、これからの主要国道の拡幅等の規格向上・都市でのバイパス等の建設は、外国からの資金援助よりも、利用者負担による費用回収が主体となろう。 一方、主要国道の修復・改修は、第1次および第2次の社会経済開発計画(SEDP I・II)および国家貧困削減戦略(NPRS)で重視されている農村と市場あるいはその他の経済機会のある町を結ぶための入口・前提に過ぎない。今後も道路網整備への協力は必要であり、わが国の協力としては大きく分けて以下の2つレベルが考えられる。 一般国道、州道の修復に対する協力 一般国道・州道を合わせると距離でいえば主要国道の2倍以上となる。上記のマスタープランにもとづく、協力の対象となる候補区間もしくは地区の絞り込み・整備水準の検討、および、NPRSで述べられている地元業者等のより一層の活用等が課題となると考えられる。 3.2.2節 (c)で議論したように、道路網整備における整備水準と整備量は相反する関係にあるといえる。社会性・経済性等の検討結果にもとづくドナー側・カンボジア側双方の協議により整備水準と整備距離を決定し、ドナーの支援の最適な活用を期すことが求められよう。 地方道の修復に対する協力 これまでの手法とは異なった、住民参加を主体とする事業の計画・要請・実施・維持管理による事業が好ましいと考えられ、適切な支援のためにはこれまでにないスキームの構築が求められよう。 地方道を含めて一般的に道路整備事業においては、受益者が明確でないことから住民のオーナーシップが得られにくい。一方、地方道といえども整備・大規模な修繕のための工事には地方開発省/州地方開発局や州公共事業運輸局(技術的サポート)と地方事務所による支援が必要であるが、その膨大な延長(約26,000km)から、日常的な手入れは住民によって行われることが望ましい。住民により企画され、計画・建設段階から住民が参加したスバイコーム溜め池アクセスロード改修プロジェクトはモデルとなりうる成功事例と考えられる。 農村における道路整備は灌漑施設・社会インフラ施設とも密接に関わる。学校・保健所にしても施設建設場所の選定と、アクセスが悪い集落からのアクセス向上に寄与する道路整備とは関係がある。農村におけるインフラ整備はセクター毎のアプローチよりも、農民組織を単位とするアプローチの方がうまく機能する可能性が高いと考えられる。コミューン(Commune)等を単位とするコミュニティーが主体となる計画・実施、および、地方開発省(中央・州・地区(District)レベル)による計画立案支援と計画・審査のための技術協力と事業実施のための資金協力とを組み合わせた仕組みの構築が必要となろう。草の根無償プロジェクトの溜め池アクセスロード改修プロジェクトのような事業を本格的・全国的(もしくは重点地区)に展開するための新たな協力スキームの構築が提言される。 |
65 プロジェクト・プログラム等の活動による結果を事後に客観的に評価することを目的として、活動の実施により変化が期待・予測される社会経済指標について、活動実施前に情報・データを収集・整理しておくための調査。
66 プノンペン市都市交通計画調査調査報告書、2001年11月、(株)片平エンジニアリング・インターナショナル