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要 約

1.評価の実施方針

1.1. 評価の背景と目的

 文化無償協力は、政府開発援助の無償資金協力のうち、開発途上国の文化と教育の振興に貢献することを目的とした援助スキームのひとつであり、昭和50年度(1975年度)より開始された。以来、文化無償協力は、援助国の文化財・文化遺産の保存活用、文化に係る公演及び展示事業等の開催、教育・研究振興等に使用される資機材の購入のための資金を贈与することにより、開発途上国の文化、教育の発展を支援するとともに、我が国とこれら諸国との文化交流を促進し、友好関係及び相互理解を増進させることを目的に実施されている。
 本評価は、文化無償協力プログラムの目的、結果、プロセスを検証することにより、援助政策の見直し及びより効果的・効率的な援助実施に向けた教訓・提言を得ること、さらに評価結果を公表することで説明責任を果たすことを目的としている。

1.2. 評価方法

 本件では、文化無償協力というスキームを「目的の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」という観点から評価した。まず、評価対象を把握するために、当該分野における我が国の援助をインプット、アウトプット、中間目標、最終目標というロジックの流れを想定しながら目標体系図に整理した。機材が十分に活用されているか否かを確認する為には、供与後2~3年経過した案件を調査する必要があることから、平成12年度までの実績を中心に体系図にまとめた。次に、評価基準や測定指標を設定し、国内調査にて評価に必要な情報を収集した。その後、収集した情報に基づいて評価を行い、その結果を報告書としてとりまとめた。
 本評価の実施にあたっては、(i)文献及びインタビューから得られた限られた情報に基づく評価であること、(ii)目標値や測定指標が設定されていないため、目標達成度を定量的に測定できないこと、(iii)投入から最終目標までの因果関係の証明が困難であり、成果の分析に限界があること、という制約があった。

2.我が国の文化無償協力の概要と特徴

2.1. 文化無償協力の概要

 文化無償協力は昭和50年度予算より、開発途上国の文化及び教育の振興を目的として開始された援助スキームである。文化無償協力のスキーム導入の背景には、「開発途上国の多くでは、社会の経済的発展のみならず、その国固有の文化の維持・振興に対する関心も高く、文化面を含む広い視野からバランスのとれた国家開発を行う努力がなされている」点が指摘されている。文化無償協力は、開発途上国におけるこうした努力に対し、我が国としてもそれぞれの国々と協力しながら、伝統文化や文化遺産の保存、芸術・教育活動等への支援を行う国際文化協力の重要な柱の一つと位置づけられている 。
 文化無償協力による供与限度額は1件につき5千万円である。被供与国の文化・教育の振興のために使用される「資機材」並びにそれらの輸送及び据え付けのために必要とされる「役務」を購入するための資金を供与する。対象国は、世銀融資ガイドラインに基づき、グループIVまでの国(平成14年度の場合、2000年の一人当たりGNPが5,225米ドル以下の国)としている。
 文化無償協力は、交換公文ベースで見ると、スキーム発足以来2000年度までに124カ国・地域に対して、1,073件、総額439億8,290万円が実施されている。過去10年間の文化無償協力の供与総額は、毎年度22~25億円で、また、実施案件数も毎年度約50~60件の水準で推移している。

3.評価結果

3.1. 目的の妥当性に関する評価

 目的の妥当性については、文化無償協力の目的が我が国の上位援助政策及び国際社会における援助の目的と整合しているか否かを検証した。わが国の上位政策との整合性については、文化無償協力の目的は、旧ODA大綱の基本理念、新ODA大綱の目的及び基本方針、ODA中期政策の重点課題と合致している。また、国際社会における援助の目的との整合性についても、ミレニアム宣言、DAC新開発戦略、その他国際的合意と方向性が一致している。

3.2. 結果の有効性に関する評価

 ここでは、文化無償協力スキームをインプット→アウトプット→中間目標→最終目標というロジックに沿って体系的に整理した上で、それぞれの段階における目標達成度を検証した。文化無償協力スキームは「開発途上国の文化・教育の発展」及び「我が国と開発途上国との文化交流の促進によるこれら諸国との友好関係及び相互理解の増進」という2つの最終目標を持っていることから、それぞれの目標毎に以下のような評価を行った。

(1) 最終目標1「開発途上国の文化・教育の発展」
 最終目標1は、「文化財・遺産に対する理解の深化」、「文化に係る理解の浸透」、「教育・研究の振興」という3つの中間目標を持つことから、それぞれの中間目標について、その達成状況を検証した。

(イ)文化財・遺産に対する理解の深化
 「文化財・遺産に対する理解の深化」については、平成10~12年度にかけて実施された文化無償協力案件総額の21%にあたる36案件、総額14億2,620万円の援助が実施され、文書等の修復・保存機材、ビデオ撮影・編集機材、マイクロフィルム機材などが供与された。これらの機材を活用して修復された文化財・文化遺産は、13万3,028部の文書及び40年分の様々な文献をマイクロフィルム化した他、文化遺産の測定・登録が1,770点以上、ビデオ閲覧可能となった展示品が70万点、発掘された遺跡が9箇所、冷凍滅菌処理済文化財が120点、超音波洗浄機で洗浄された紡績品が230点などであった。
 これらの文化財・文化遺産関連の展示会は、多いものでほぼ毎日(週に5~7日)、少ないもので年に4~5回、平均で週に約4.8日間開催されており、判明しただけで年間合計115万人がこれらの展示会を訪れていた。国別の鑑賞者数をみると、例えば、シリアでは文化無償協力による文化財・遺産の展示会に年間12,000人が来訪したが、これは同国における博物館・遺跡1件あたりの平均年間来訪者数を大きく上回っており、文化無償協力が文化財・文化遺産に対する理解を深化させるために相応の成果をもたらしていると言える。

(ロ)文化に係る理解の浸透
 「文化に係る理解の浸透」については、平成10~12年度にかけて実施された文化無償協力総額の28%にあたる42件、総額18億6,580万円の援助が実施され、照明機材、音響機材、視聴覚機材、交響楽団用楽器などが供与された。これらの機材を活用して行われた公演や展示会について、公演は平均週3.7回開催され、年間延べ25万人が鑑賞した。例えば、東欧・NIS地域では、文化無償協力が関連する展示会の鑑賞者数は年間約17万人であり、これは同地域における美術館1件あたりの平均年間来訪者数5万4,000人を大きく上回っている。このことから、東欧・NIS地域では文化無償協力によって成果が得られたと言える。

(ハ)教育・研究の振興
 「教育・研究の振興」については、平成10~12年度における文化無償協力案件総額の33%にあたる54件、総額21億7,690万円の援助が実施され、球技機材、物理実験機材、化学実験機材などが供与された。これらの機材の活用状況について、回数で測定しているものについては週平均14.1回、また時間で測定しているものは週平均43.2時間であり、概ね適度な使用頻度であると判断される。また、教育・研究機材の使用者数が多ければ、教育・研究が振興されたという想定の下、使用者数について調査を行った。その結果、情報が入手できた15件について、使用者数の合計は年間26万人であり、これは当該国における人口1,256人当たり1人の割合であったが、地域のばらつきがあり、またこれらの数値を比較する材料がないため、一般的な判断は困難であった

(2) 最終目標2「我が国と開発途上国との文化交流の促進によるこれら諸国との友好関係及び相互理解の増進」
 最終目標2は、「日本文化に係る理解の浸透」、「日本文化に係る教育の振興」という2つの中間目標を持つことから、それぞれの中間目標について、その達成状況を検証した。

(イ)日本文化に係る理解の浸透
 「日本文化に係る理解の浸透」に関しては、平成10~12年度における文化無償協力総額の4%にあたる8件、総額2億6,940万円の援助が実施され、ドキュメンタリー番組や教育番組などが作成された。これらの放映状況について情報を入手できたのはアジア地域のみであったが、同地域では計407回放映された。また、日本に関する番組の視聴者数が日本文化の理解の浸透につながるという想定の下、視聴者数を調査した。情報を入手できたバングラデシュでは、総人口の80%にあたる約1億人が日本関連番組ソフトを1回は視聴しており、文化無償協力の効果が確認された。また、日本文化に対する被援助国の関心は、当該国に対する日本の出版物の輸出額に影響するという想定の下、当該輸出額についても調査した。しかしながら、文化無償協力を実施している国の輸出額の増加は、そうでない国の輸出額の増加を下回っており、特に著しい増加傾向があるとは判断できなかった。

(ロ)日本文化に係る教育の振興
 「日本文化に係る教育の振興」に関しては、平成10~12年度における文化無償協力総額の14%にあたる25件、総額9億5,060万円の援助が実施され、LL機材、視聴覚機材などが供与された。これらの機材の活用状況について、データが入手可能だった14件の稼働率の平均は回数で測定しているものについては週21.7回、時間で測定しているものについては週35.9時間であり、適度な頻度で使用されていると考えられる。機材の使用者数は地域によってばらつきがあるが、週平均で1万6,060人であり、これを年間使用者数に換算すると延べ83万人に相当する。これは当該国において432人に1人が毎年使用している計算となるが、比較対象がないことから、それが適度か否かの判断はできなかった。また、日本文化に係る教育が実施されれば、日本語学習者が増加するという想定の下、日本語能力試験受験者数を調査した。文化無償協力実施国のうち、モンゴル、ミャンマー、ベトナム、メキシコ、パラグァイ、トルコ、カザフスタンにおいて日本語能力試験への応募者・受験者があった。このうち、ベトナム、カザフスタン、モンゴル、ミャンマー、パラグァイでは平成10~14年度における全世界平均の増加率86%を上回っており、間接的ではあるが文化無償協力による効果が現れていると考えられる。

3.3. プロセスの適切性に関する評価

 実施プロセスの適切性について、「実施手続きの整備状況」、「関係機関との連携」、「検証メカニズムの有無」を検証した。

(1) 実施手続きの整備状況
 実施手続きの整備状況については、文化無償協力実施の手引が作成されており、状況の変化に対応するため、定期的に改定されていた。また、マニュアルの内容については、他のスキームとの役割分担に配慮し、また、援助の効率的な実施を示したものとなっていた。

(2) 関係機関との連携
 被援助国との協議については、案件形成、要請、事前調査の各段階で実施されていた。他ドナーとは必要に応じて協議を行っているほか、案件の申請書に他ドナーによる援助実績の有無を記載する項目を設け、重複を避ける配慮がなされている。

(3) 検証メカニズムの有無
 検証メカニズムの有無については、事前調査、機材活用状況調査、フォローアップ調査などが実施されてきた他、今回から文化無償協力のスキーム評価が導入された。事前調査は具体的な成果目標を設定するためのものではないが、この事前調査を通じて機材供与の活用頻度、供与による成果を把握するよう努めている。機材活用状況調査は、被援助国が機材の活用状況を定期的に報告するものであり、定量的な情報を提出するものとなっている。これらの調査内容はその後のフォローアップに活用されており、平成12年度からは、機材活用状況調査やフォローアップ調査の結果、優良と認められる案件に対しては、案件の効果をさらに高めるため、追加的な支援を行うフォローアップ事業を開始した。

4.提言

 以上のような評価結果を踏まえ、以下の提言を行う。

4.1. スキームの目標体系の再構築

 「文化・教育の振興」を測定することの難しさは当然あるも、文化無償協力の目標を体系化し、それぞれの目標達成状況を測定するための指標を設定することを検討する。
 現行の文化無償協力は、「開発途上国の文化、教育の発展を支援するとともに、我が国とこれら諸国との文化交流を促進し、友好関係及び相互理解を増進させる」という意義(最終目標)を示しているものの、この目標を達成するための道程が示されていないため、個々の案件を実施することがこれらの目標の達成にどうつながるのかが把握しにくい。また、目標の指標が設定されていないため、その達成度を測定することが困難な側面がある。したがって、文化無償協力の実施状況を把握し、スキームを効率的に運営するためには目標の体系化と指標の設定が有益であると考えられる。
 文化無償協力の目標体系の再構築にあたっては、ODAに期待される役割の変化にも配慮する必要がある。文化無償協力のスキームは、導入以来間もなく30年が経過しようとしており、その間、ODA大綱の改定を始め、ODAを取り巻く国内外の環境は変化してきた。このような変化に対応するためにも、文化無償協力の果たす役割を広く捉え、例えば、新しいODA大綱の重点課題に示されている「平和の構築」を文化無償協力の目的の一つとすることも一案である。

4.2. 文化無償協力対象の拡大

 文化無償協力の目的を達成するためには、他スキームとの連携が重要であるとともに、文化無償協力の対象を拡大することを検討する余地がある。文化無償協力は機材供与を原則としているが、施設の状況など機材を取り巻く環境によっては、その効果が最大限発揮されない恐れもあることから、文化無償協力の対象を柔軟に捉え、機材供与に関連する施設の建設・修復なども対象に入れることを検討すべきである。例えば、文化遺産無償協力では施設案件も可能であるが、今回調査した通常の文化無償協力でも、文化財・文化遺産の保存という目的を達成するためには、修復用の機材を供与するのみならず、展示施設の修復まで一貫して行う方がより効果的であると考えられる。

4.3. 自己評価メカニズムの強化

 現在、事前調査や機材活用状況調査などを実施し、案件内容の確認、活用状況の把握に努めているが、今後、達成目標の指標化が可能となる場合には、指標を定期的にモニタリング、事後に検証するというメカニズムを導入できることとなり、案件の管理能力も更に向上すると考えられる。また今後、事前評価の実施を被援助国・機関自身の自己評価に任せることも、被援助国・機関のオーナーシップを高め、援助の有効活用に関する意識啓発にも寄与すると考えられるので検討すべきと思われる。

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