II-2 社会投資事業(134億円、1998年7月31日借款契約)
II-2-1 事業の内容・効果
社会投資事業は、タイ政府がアジア通貨危機による影響を最小限に食い止めるために、雇用創出効果の大きい事業や、短期職業訓練などの社会サービス支援を行ったものである。事業はチャンネル1とチャンネル2からなり、チャンネル1は7省庁の小規模プロジェクトを実施するものであった。また、チャンネル2は地方分権を推進するために小規模プロジェクトを実施する2つの基金を整備し、有償・無償の資金援助を行うものであった。
JBICが負担したのは、チャンネル1のうち、農業共同組合省が実施する灌漑施設のリハビリ・改良など600件、タイ観光公社(TAT)の管理の下、内務省、農業組合省、教育文化省が行う150件の事業である(全体の約27パーセント)。日本の円借款は全てタイ国内の資材の調達や労働者の賃金支払い部分に貸し付けられた4。
チャンネル1の残り部分とチャンネル2は世界銀行とタイ政府が資金を準備した。また、社会投資事業全体の調整のためにUNDPが参加した。
この借款は小規模プロジェクトからなるセクターローンなので、ディスバースメントは事業の進捗によって支払われる。まだ、事業は続いており、支払いは完全には終了していない。借款契約期限は2003年9月4日である。
この事業の評価レポートは地域ごと(北タイ、東北タイ、南タイ、中央および東タイ、バンコク首都圏)にタイ国内のコンサルタント会社や大学によって作成されている。しかし各レポートの評価手法はまちまちである。これらレポートによると、例えば北タイ(8県)では、円借款が供与された小規模灌漑リハビリとTATの事業で1万1,000人の雇用が発生した(全ての事業の受益者は33万人)。また、東北部19県では、2万人の受益者が発生したとしている
II-2-2 現地踏査
社会投資事業のうち、TATが管理する「チェンセン遺跡修復事業」と「ハイランドエコツーリズム振興事業」の現地踏査を行った。「チェンセン遺跡修復事業」は教育文化省美術局、「ハイランドエコツーリズム振興事業」は労働福祉省公共福祉局が実施している。
「チェンセン遺跡修復事業」の修復事業(チェンライ県チェンセン郡)は城壁と堀を修復するものである。1年間の土木工事で約900人の雇用が発生した。事業自体は以前から計画されていたが、予算が高いためにこれまでは実施されてこなかった。この遺跡の修復によって観光からの収入が増加する効果は極めて限られていると思われるが、それでも修復後、この遺跡に立ち寄る観光客が増加した(教育文化省美術局の事業責任者)。
「ハイランドエコツーリズム振興事業」は、13県で展開されている。チェンライ県ではメーチェンにエコツーリズムの核となるセンターを円借款の見返り資金で整備し(約200人が勤務)、観光サービスを行うための少数民族のトレーニングをタイ政府の自己資金で行っている。事業は1998年に始まり、センターのオープン以来33ヶ月で7000人の観光客(主に外国人観光客)を受け入れている(このうち10パーセントが村に宿泊)。このエコツーリズム事業を開始したことによって、若い世代の雇用を作り出すことができた。また、村から都会に出て行った若い世代のUターンも起こっている(エコツーリズムセンター長)。
4 通常プロジェクト借款では、日本側が事業の外貨分(海外からの資機材の輸入分)と内貨分の一部を負担し、途上国政府が内貨分(人件費、国内から調達する資機材)を負担することとなっている。原則として日本側の負担は総事業費の85%となっている