広報・資料 報告書・資料

第4章 現地調査結果の概要



4.1 他の協力事業との関連

(1) 海外漁業協力財団

 INIDEP には日本の水産庁所轄の財団法人である海外漁業協力財団(現在はヒラメ、マダイ類の技術開発協力)によるODA関連の技術協力が行われている。
 この協力は、我が国漁船のアルゼンチン200海里水域内における操業確保を目的とした民間ベースによる協力事業であることから、アルゼンチン政府側は農牧水産食料庁が担当している。

(2) ヨーロッパ連合(EU)

 アルゼンティンとEUとの間で1994年に締結された「アルゼンティン・EU漁業協定」により,ヨーロッパ漁船のアルゼンティン海域での操業が可能になった。これによって,EUから3千万ドルの支援があった。

(3) スペイン

 スペインから280万ユーロの経済支援がEUを通じて行われ(1994年5月?1999年5月),沿岸州の漁業プロジェクト(職員研修等)に使用された。

(4) イギリス

 アルゼンティン海域南部で1994年からマツイカ資源共同調査を行っている。この共同調査は技術協力とは異なるフォークランド諸島をめぐる外交戦略と評されている(既存参考資料リスト9)による)。

(5) 世銀

 アルゼンティン政府は,世銀と米州開発銀行の協調融資を利用して調査船と研究所の研究資機材の購入を行っている(既存参考資料リスト9)による)。

(6) その他

 カナダの大学の研究者らが,マイクロサテライトDNAを用いた海産資源への集団遺伝学研究の計画をもってINIDEPにアプローチしている。これもカナダ漁船のアルゼンティン海域ホタテ貝漁業への参入に関わるものとされている(既存参考資料リスト9)による)。


4.2 INIDEPによるプロジェクト評価

 INIDEP所長の回答は,感謝に満ちるもので,機材供与,専門家派遣,C/P研修のいずれも効果的であったとの評価であった。また,スペイン語に堪能な長期専門家はプロジェクトの円滑な運営にも貢献したとの評価であった。
 しかし、C/Pの評価の中には,研究課題によっては「機材の供与があれば日本人長期専門家による技術指導がなくとも自立研究ができた」というものや「短期専門家によるポイント指導」が効果的であったとする意見があった。
 供与機材は有効利用され,研究活動も活発であった。

4.3 水産資源管理の現状

 アルゼンティン海域漁場で商業的に最も重要な魚種であるアルゼンティンヘイク(メルルーサ・ハブシ,タラ似た魚で通称ハブシ,本評価案件の研究対象魚種に含まれていない)の資源が極めて悪い状況にあることから(図2,図3),1999年11月に漁業次官によって,年内におけるハブシの全面禁漁という資源管理策が発表された。この発表はハブシに依存する漁業者と関連企業に大混乱をもたらした。底曳き漁船主は漁船購入代金を漁獲したハブシで支払う方式をとっていて,操業停止によって直ちに支払い不能に陥ることになる。
 2000年3月には,全底曳き漁船に漁獲物水揚げ寄港と次の出港までに15日間,次回からは30日間の繋船を課すという漁獲圧力減少措置を発表した。この措置は,アルゼンティン漁業者だけでなくハブシがほとんど棲息しない漁場でホキだけを漁獲対象にしている日本底曳き漁船をも対象にするもので,無謀な管理策として大きな批判を浴びた。さらに,行政官の中で唯一水産事情に明るくこの措置に批判的とされるカビロン漁業監査官(日本で言えば局長クラス)が辞任表明をしたが,辞任はまだ受理されていない。

4.4 参考視察

 国立漁業学校は築後17年経つが,建物と機器の管理・補修が行き届いていて,建物は新築同様であった。同校の機器補修には,現地に帰化して現地で会社を営む日本人技術者北島氏(東京計器(株)元派遣社員)の貢献がある。
 プロジェクト技術協力開始当時は,自由国家試験を廃止して国立漁業学校卒業者だけが海技資格国家試験を受験できるように制度改革をする予定であったが,現在も自由国家試験制度を維持している。しかし,自由国家試験の受験者数は全受験者数の5%程度と少ない。
 国立漁業学校は海軍教育総局に所属するが,国立漁業学校の卒業生が海軍に入隊した例はない。

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