2-3 アフリカにおける開発課題と貿易・投資分野協力
2-3-1 貿易・投資と開発援助の繋がり
貿易・投資分野協力は、途上国の貿易・投資分野の促進並びに同分野への協力ニーズの高まりを受け、開発援助の中でも注目を集めている分野の一つである。2001年にドーハで開催されたWTO上級閣僚会議が採択した「閣僚宣言」では、援助関係機関との協調により、貿易政策を国家開発計画の主柱として位置付け、貧困削減に向けた経済開発支援が謳われている。そして途上国の国内制度をWTO協定のルールと原則に適合させ、途上国がWTO加盟国としての義務を果たす一方、同協定に基づいた、開放的且つルールに基づく多国間貿易システムを通じて、経済的機会並びに便益を得られるようにするため、途上国並びに市場経済移行国に対する支援を推進する点が明記されている*2。
WTO協定の履行と、それに伴う国内法制度の改正について、途上国に対しては国内の経済開発状況等を鑑み、猶予措置を取ることが認められている部分も見られる。しかし、現在進行中の「ドーハ開発ラウンド交渉」も、すべての貿易交渉分野を一括合意することを目標としている。そのため、途上国も国際貿易における新たな制度化の進展と権利・義務に対して、透明性と予測可能性を踏まえた国内制度構築を進めることが期待されている。
他方、WTOを中心とする国際貿易体制の発展と変化の中で、途上国からは、貿易・投資分野における人材不足や知識不足により、新たな国際貿易並びに投資環境整備への適合と国内制度の調整の困難さも指摘されている。そして、途上国を国際貿易体制に組み込ませ、貿易・投資上の利益を享受できるようにする課題に応えるため、貿易・投資分野における国際協力へ関心と活発な動きが見られる。
前節で記したように、1998年から最近までのアフリカにおける貿易・投資動向は、世界全体の中で極めて小さな割合を占めるに過ぎず、アフリカがWTO協定に基づく貿易自由化の恩恵を十分に享受しているとは言い難い。また、アフリカにおける低調な貿易・投資動向を喚起し、高い経済成長を持続させることは、アフリカが抱える他の開発課題(貧困削減、重債務問題、基礎的インフラ整備等)の緩和を推進する上でも重要と考えられる。
2-3-2 アフリカの貿易・投資分野における課題
アフリカの世界経済における貿易・投資促進に対しては、様々な障害が指摘されている。アフリカの多くの国はWTOに加盟しているものの、貿易・投資を促進させるための国内制度の改革が遅延している。例えば「貿易政策の失敗は、…象牙海岸共和国とガーナの場合…外国競争にさらされ始める時の輸入に競合的な産業からの(国内での)圧力」*3に基づく場合の他、市場が適切に機能するための条件が整備されてないこと等も指摘されている。
世界銀行の「グローバル貿易関連技術的障壁(TBT)調査」に拠ると、ケニアの場合、商品の品質、輸出市場における関税、需要の低さが輸出における障害として示されている。また、貿易金融へのアクセスや外国市場調査にかかる費用も重大な障害として指摘されている。モザンビークでは、ケニア同様、商品の品質、需要の低さの他、港湾での荷揚げ費用や荷作業の遅延も指摘されている。さらに、モザンビークの民間業者が、輸出市場における関税や数量割当について考慮に入れていないことや、外国市場調査の費用が大きな障害となっていることも指摘されている。
また、貿易・投資分野は民間部門の商業ニーズに基づく活動でもあるため、政策的な障害の他、民間部門が商業上、有益であるか否かという点も、アフリカの貿易・投資分野の推進には注意を払う必要が出てくる。特に、AIDSの蔓延や、自然災害、政治的不安定さ等、メディアを通じたアフリカに対するネガティブなイメージは、貿易・投資上のリスクとして受け止められる懸念もあり、貿易・投資分野促進の課題の一つとして見ることもできる。
2-3-3 アフリカに対する開発支援と貿易・投資分野協力
アフリカの貿易・投資分野における課題やアフリカ開発の重要性に基づき、1990年代初頭より、我が国の他、欧米主要ドナーのイニシアティブとしてアフリカ開発協力が進められ、アフリカ自身による開発努力に加え、主要ドナーの通商政策を通じた、貿易・投資分野の発展を促進させる取り組みが試みられている。
我が国は1991年に国連総会においてアフリカ開発支援の重要性を提起し、1993年、「第1回アフリカ開発会議」(TICADI)を開催した。冷戦の終焉を受け、アフリカ諸国でようやく民主化と市場経済化に向けた改革が開始された中で、国際社会のアフリカ開発に対する関心が低下していた時期でもあり、アフリカ開発への関心を喚起する点においてTICADIの開催は大きな意味があったと評価される*4。続く、1998年に開催された「第2回アフリカ開発会議」(TICADII)では、同会議の議論を通じて採択された「東京行動計画」において、「社会開発と貧困削減:人間開発の促進」、「経済開発:民間セクターの育成」、「開発の基盤」を主要テーマと位置付け、「経済開発:民間セクターの育成」では、製造業を中心とする産業開発を重視し、民間企業活動のための環境整備、直接投資・貿易・輸出の促進、中小企業振興を目標として位置付けている。東京行動計画では輸出と投資促進のための枠組み強化(健全なマクロ経済政策、為替・貿易システムの自由化、開放経済の確立・維持)及びインフラストラクチャー整備が強調されている。そして、国際的に求める行動項目に関しても、直接投資の奨励や南南協力の拡大促進などを個別的に取り上げている*5。
他方、米国は、クリントン政権下、アフリカの経済開発を加速させるため、アフリカにおける経済成長機会パートナーシップを提案すると共に、貿易・投資の自由化、人的資源への投資、政策管理並びにガバナンスの改善において努力を重ねるサブサハラ・アフリカ諸国に対して積極的に支援を行う方針を定めた。そして、そのイニシアティブは、2000年5月、「アフリカ成長機会法」として正式に法制化された。
また、2000年4月にアフリカとEUの間で採択された「カイロ行動計画」は、両地域間の戦略的パートナーシップの構築を目指すものであり*6、欧州諸国と旧植民地国との経済協力推進を目的として2000年6月に結ばれた「コトヌ協定」は、貿易や投資機会の拡大を通じ、アフリカの経済開発を進めようとするイニシアティブの一つである。アジア諸国では、中国が、2000年10月に北京で開催された「中国・アフリカ協力フォーラム」において、経済・貿易面におけるアフリカとの関係強化を謳う「北京宣言」を採択した*7。
こうした、主要ドナーを中心としたアフリカ開発支援の取り組みの他、アフリカ自身による開発努力の動きも活発化している。「アフリカ開発のための新パートナーシップ」(NEPAD)は、南アフリカのムベキ大統領の「アフリカ自らによる自身の再発見により、アフリカの自信を取り戻すこと」を説いた「アフリカン・ルネサンス」を基本的な思想として、2000年に入り「ミレニアム・アフリカ再生プログラム」(MAP)の策定を開始したことと、セネガルのワッド大統領が「オメガ・プラン」を策定し、その後、両者が統合されて「新アフリカ・イニシアティヴ」(NAI)となり、更に、アフリカ統一機構(OAU(当時))で承認を得た際に、NEPADと命名されたことに始まる*8。
このNEPADを通じた開発イニシアティブに対して、2001年のジェノヴァで開催された主要国主脳会議(G8)では「アフリカのためのジェノヴァプラン」が発表され、アフリカの開発課題に対して次のテーマが提起された。
この中でも、経済上の統治及びコーポレート・ガバナンスの改善や、民間投資の促進、アフリカ諸国間の貿易及びアフリカと世界の貿易の増大といった、貿易・投資促進に係るテーマが掲げられており、貿易・投資分野推進への期待が見られる。
「アフリカのためのジェノヴァプラン」における主要課題
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*2 | The World Trade Organization(WTO), Ministerial Declaration, Adopted on 14 November 2001, The Doha Development Agenda. |
*3 | 清田博幸「サブサハラ・アフリカにおける貿易政策改革:貧困削減への取り組みにおける開発援助の有効性」平成13年度 国際協力事業団 準客員研究員報告書 平成14年3月。 |
*4 | 財団法人国際開発センター、外務省委託「TICADIIIの開催へ向けての支援調査」(2001年12月) |
*5 | 同上。 |
*6 | 同上。 |
*7 | 同上。 |
*8 | 財団法人国際開発センター、外務省委託「TICADIIIの開催へ向けての支援調査」(2001年12月) |