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1.2 援助実施体制評価


 援助実施体制評価は、日本の政府開発援助全般に関わる資金の適正使用、援助実施手続きの適正さなど、評価対象国における援助実施体制、援助実施環境全般について調査し、これを改善するための提言を行うものです。


1.カンボディア援助実施体制評価(1999年度)

評価調査団:
 中根 千枝 東京大学名誉教授(団長)
 高千穂安長 玉川大学文学部教授
 米倉 雪子 オクスファム・インターナショナル
 高梨 寿・下村 暢子 海外コンサルティング企業協会

現地調査実施期間:1999年11月29日~12月11日

評価結果

(1)カンボディア側の援助実施体制の現状及び問題点

(イ) 人材の質的・量的不足:(a)管理能力のあるカンボディア人が十分に育っていなかったこと、(b)クメール・ルージュにより多くの知識人が殺害されたこと、(c)プノンペン政権による統治下でも十分な教育が行われなかったこと、などが主な原因で、質的にも量的にも人材が不足している。この人材不足は、他の多くの問題にも深く関わっており、国の発展に向け取り組むべき最大かつ緊急の課題となっている。
(ロ) 低い国民所得(平均的な公務員の一ヶ月あたりの給与は、約20米ドル)、国の歳入不足による事業予算の不足、遅れている民間資本の形成、低迷している外国投資等により、開発資金が不足している。
(ハ) 援助実施機関相互及び行政組織内部の連携・調整が不十分である。

(2)日本側の援助実施体制の現状及び問題点

(イ) 人員強化の必要性:今後援助実施に伴なう業務量の一層の増加が見込まれることから、大使館及びJICA事務所の人員の一層の強化が必要である(現在、大使館:経済協力担当4名、JICA事務所:6名)。また、案件実施に係る情報収集や治安への配慮等のため、ローカルスタッフ(現在、経済協力担当2名)の更なる確保が不可欠である。
(ハ) カンボディア側の案件発掘・形成力の強化に向けた日本側の配慮が十分ではない。 (ニ)評価結果や教訓などをカンボディア側にフィードバックする体制が必ずしも十分ではない。
(ホ) 事後評価などに役立てるための基礎データ・指標の収集・整理を一層強化する必要がある。
(ヘ) 政府高官の日本の援助を感謝する旨の発言を現地メディアが大きく報道しており、日本の援助についての広報活動は非常に効果をあげ、カンボディア国民の日本の援助に対する認識は高い。
(ト) 治安の関係で援助のほとんどが首都及びその周辺で実施されており、地方への援助は極めて限られている。

提言

  • (1) 質的・量的な人材不足を改善するため、研修の拡充、専門家の派遣及び教育分野への支援の拡充など、あらゆる方法により人材育成を支援する必要がある。また、カンボディアの行財政基盤の強化を支援するため、法制度や税制度の整備などの知的支援を拡充する必要がある。
  • (2) カンボディアの公務員の給与は、極めて少ない上に遅配も多く、ほとんどの公務員が生活費を稼ぐため副業せざるを得ないのが現状。他の援助国によっては、人件費の補助をカンボディアではやむを得ず例外的に認めているケース(豪州)もある。場合によっては、人件費を一部負担することも検討すべき。
  • (3) 今後の援助業務量の増加に適切に対応するため、大使館及びJICAの更なる足腰の強化が必要である。
  • (4) 援助分野での評価などに必要な基礎データ・指標の収集・整理を強化するとともに、モニタリングやフィードバック体制を改善することが大切である。
  • (5) メコン流域など広域的な開発を念頭に置きつつ、援助対象の分野及び地域を拡大していく必要がある。

■■外務省からの一言■■

  • (1) カンボディアに対しては、カンボディアの実情を踏まえ、グッド・ガバナンス、経済振興のための環境整備、社会・経済インフラの整備、保健・医療の充実、教育の充実、農村開発の分野において積極的な人造り協力を行っています。特に法制度については、1999年3月から3年間の期間で法整備支援プロジェクトを実施中です。ちなみに、2000年度においては、159名のカンボディア人の研修を我が国で行い、また日本人専門家63名をカンボディアに派遣する予定です。
  • (2) カンボディアにおける人材不足は、最大の中・長期的な課題です。人材育成は、時間がかかりますが、現在ではソフトとハードを組み合わせて援助を行っています。また、治安の問題が解決して行くにつれ地方にも援助を拡大中です。また、民主的統治の支援も今後拡大していく予定です。


2.ウズベキスタン・援助実施体制評価(2000年度)

評価調査団:
 渡辺  博 ユニコインターナショナル株式会社

現地調査実施期間:2001年3月24日~28日


評価結果

(1)日本側の援助実施体制の現状及び問題点

(イ) 対ウズベキスタン援助計画
 我が国の対ウズベスタン国別援助計画は策定中であり、1993年度以降1999年度までの間に有償資金協力約499億円、無償資金協力約76億円、技術協力30億円、合計約605億円、(平均して年間約86億円程度)が実施されている。尚、2000年度より、JICAは国別事業実施計画、JBICは国別業務実施方針を策定している。
(ロ) 援助に関する重点分野
 ウズベキスタン政府は産業分野別に発展長期計画を策定しており、これに基づき、日本側と2年に1回程度の割合で政策協議を実施している。最近では2000年11月に経済協力総合調査団を派遣し、(イ)市場経済化の促進(ロ)インフラの整備(ハ)社会セクターの再構築、の3分野を重点分野として今後協力を進めていくこととなっている。尚、ウズベキスタン政府は今後中期総合開発計画の策定を予定している。
(ハ) 日本大使館の体制
 これらのODA業務は日本大使館の経済協力班担当者3名により行われている。内1名は、2000年4月よりJBICより派遣されている。また、タシケントにJICA事務所が1999年から設置され、駐在員2名、企画調整員2名及び協力隊調整員1名が常駐している。長期専門家は4名が滞在している他、ローカルスタッフ6名が勤務している。更にウズベキスタン国内には青年海外協力隊員9名が活動中であり、4月には12名に増員される計画である。但し、国内の治安状況確認問題があり、活動はタシケント市内に限定されている。(2000年10月には日本貿易振興会も事務所を開設。日本人1名、ローカルスタッフ3名の体制で業務を開始した。)
 この点、カザフスタンとほぼ同じ規模の援助額であるにもかかわらず、ウズベキスタンの日本側体制は極めて充実しており、カザフスタンの体制(日本大使館の経済協力班は2名_JBICからの派遣官無し_で、JICA事務所も存在しない状況)とのアンバランスを強く感じた。
(ニ) ドナー・コーディネーション(援助供与国間調整)
 UNDPが事務局となり、各ドナー国、国際機関が意見交換を定期的に(3ヶ月に1回程度)実施されており、この他にセクター別での意見交換会が実施されている。また、各ドナー国、国際機関間の援助協調も円滑に実施されている。

(2)ウズベキスタン側援助受入体制の現状と問題点

(イ) IMFは、ウズベキスタンとの間で二重為替問題等に関し協議を継続しているが、その進展が見られなかったことを背景として、本年4月に任期満了により帰任した駐在代表の後任を代表事務所に派遣することなく、今後はローカルスタッフ1名による連絡事務所として維持されるのみとなった。IMFからの金融支援は1997年以降停止している。
(ロ) 対外経済関係省が一貫して援助受入の窓口となっており、関係各省庁、援助機関との調整業務は円滑に実施されている。
(ハ) 対外経済関係省に技術協力と有償・無償資金協力の有機的な連携促進を図ることを目的にJICAより資金協力連携専門家が派遣されているが、ウズベキスタン側はODAに関するハイレベルの政策的な協議の機会、あるいは日常的な政策アドバイスを目的とする政策アドバイザーの派遣を要望している。

提言

鉄道車輌修理工場

(写真)鉄道車輌修理工場
  • (1)昨年11月の経済協力総合調査団の結果を踏まえ、日本側の国別援助計画を早急に整備すべきである。
  • (2)ハイレベルでのより頻繁な政策対話を継続して行っていくことが望ましい。
  • (3)対外経済関係省への政策支援型のODAアドバイザー派遣等につき検討する。
  • (4)ウズベキスタン側からの的確な情報提供を受け、また日本側の安全確保に係わる検討を充分に行った上でという前提であるが、青年海外協力隊の地方派遣を更に促進すべきである。
  • (5)ウズベキスタンに対して、二重為替問題の解決を図ることが、援助受け入れ環境の改善につながることを引き続き主張し、改善を要請すべきである。

■■外務省からの一言■■

  • (1)現在ウズベキスタンに対する国別援助計画を作成中であり、ウズベキスタン側の開発分野の優先順位を踏まえ、できるだけ早く完成させたいと考えています。
  • (2)政策対話(ハイレベルと実務レベル)は頻繁に実施しており、これも継続する方針です。
  • (3)ODA政策アドバイザー型の派遣については、前向きに検討したいと考えています。
  • (4)二重為替問題については、これまでも機会のある度に政府レベルで為替問題の改善を指摘していますが、今後とも引き続き二重為替問題の解決に取り組むよう働きかけたいと考えています。


3.カザフスタン・援助実施体制評価(2000年度)

評価調査団:
 小浜 裕久 静岡県立大学教授(団長)
 柴田  勉 世銀インスティチュートアドバイザー
 渡辺  博 ユニコインターナショナル株式会社

現地調査実施期間:2001年3月12日~26日

評価結果

(1)カザフスタン側援助受入体制の現状と問題点

(イ) 交換公文(E/N)、借款契約(L/A)、討議の記録(R/D)
 交換公文(E/N)等がサインされると、援助に係わる国際的なスタンダード(援助プロジェクトに関する機材、専門家などの非課税処置など)に沿って、すぐに援助が実行に移される。
 しかしながら、今回、カザフスタン側の説明によれば、交換公文(E/N)に定められている内容や借款契約(L/A)、討議の記録(R/D)が議会承認を必要とするとのことであり、E/N等がサインされても相当の間議会承認が得られないために援助プロジェクトがタイミング良く実施されないケースがある。この遅延問題の背景には、援助受入機関である経済貿易省・外務省などと、国家歳入省との間で、関税、所得税等の免税問題についての対立がある。カザフスタン側は、何らかの「包括的な協定」により個々の交換公文等の議会承認を不要にし、援助がより円滑に行われるようにしたい意向である。(なお、カザフスタンは技術協力に関する協定を米国、ドイツと締結している。)
(ロ) 援助窓口関係機関の調整
 援助窓口が一本化(一つの役所が窓口となって援助の実施に係わる手続きがすべてその役所と交渉すれば実施できる体制)されていない。形式上は、外務省がまとめ役になり、経済貿易省がこの中心的役割を担っているが、財務省、国家歳入省も援助に関係しており、他省庁との関係で調整が必ずしも充分でない。国連開発計画(UNDP)、世界銀行(WB)からも同様の指摘があった。
(ハ) 運営保守予算
 アスタナ小児病院を視察しただけであるが、カザフスタン側の供与機材に対する運営保守予算が充分ではないように感じられた。

提言

アスタナ小児病院 (写真)アスタナ小児病院
  • (1)カザフスタン側の開発計画の優先順位を踏まえつつ、日本側の開発援助計画を早急に策定すべきである。援助の効率化を図ると同時に、ODA大綱にも謳われている「民主化支援」の一環として「初等・中等教育の充実」に力を入れるべきである。援助の効率化を図るには、プロジェクト実施可能性調査(Feasibility Study)における需要予測の精度を一層高めることが必要である。さらにインフラ整備においては資金需要が多くあることに鑑み、個々のプロジェクトの計画に当たっては、適正な事業規模と適切な設計・施工を心がけ、事業効果の高い厳選したプロジェクトに援助すべきである。
  • (2)政策対話については、本省出張者や大使館による実務者レベルでの対話をより頻繁に開催し、中身の濃い政策対話を実行する体制を確立すべきである。さらによりハイレベルで、カザフスタン側の資金援助担当副首相、外務大臣、経済貿易大臣等との政策対話の強化も望ましい。
  • (3)カザフスタンの国内問題を解決し、援助のより円滑かつ迅速な実施を確保する為に、両国間で何らかの法的枠組みを早期に確立することが望ましい。
  • (4)日本側援助体制の強化として、JICA、JBICからの派遣を含め、より経済協力の経験の深い書記官の配置(ロシア語ができることが望ましい)等、日本大使館経済協力班の更なる強化が望まれる。アスタナにおける出張駐在官事務所の拡充と共に、JICA、JBIC事務所設置を含めた人的体制の強化が望まれる。その際、ローカルスタッフを有効に活用すべきである。特に、ウズベキスタンにJICA事務所(駐在員2名、企画調整員2名、協力隊調整員1名の計5名が常駐)が設置されていることを鑑みると、援助実績に比較して、体制の強化が必要不可欠ではないかと思われる。他のドナー、国際機関の中央アジアにおける拠点はアルマティに置かれており、アスタナにはカザフスタンの国別オフィスが置かれつつあるのが大勢である。
  • (5)カザフスタンは二重課税防止条約を破棄した経緯(1995年)があり、現在両国間に二重課税防止条約は締結されていない。このことが日本企業進出の妨げの一つとなっているとのカザフ側の指摘もある。援助はODAと民間投資とが補完してなされるべきであり、この点、二重課税防止条約の早期締結が望まれる。
  • (6)供与された機材の運営、保守の為、以下の方策を実施してはどうか。
    (イ) 技術移転にあたってはロシア語のできる専門家や専門用語に堪能な通訳の起用を図る。また、ロシア語の堪能な欧米人専門家の起用も一案と考える。
    (ロ) 供与した機材の運営保守の問い合わせに対するロシア語での対応体制の充実をはかる。
    (ハ) 運営保守費用に関し、カザフスタン側の更なる自助努力を喚起した上、ノンプロ無償資金協力の見返り資金の活用など柔軟な対応が望まれる。

■■外務省からの一言■■

  • (1)カザフスタンの国別援助計画を現在策定中であり、カザフスタン側の開発分野の優先順位等も踏まえ、できる限り早く完成させたいと考えています。
  • (2)実務レベルでの政策対話をより頻繁に実施するとともに、ハイレベルでの政策対話も強化する方針です。
  • (3)対カザフスタン援助の規模に鑑みれば、在アルマティ大使館及び在アスタナ出張駐在官事務所における我が方援助実施体制の強化が重要です。JICA、JBIC事務所の設置も含め、予算等種々の制約もありますが、実施体制強化のために何ができるのか方策を検討したいと考えています。
  • (4)調査団指摘のカザフスタン国内の課税問題のため個々の案件が議会承認を要する問題については、案件毎に早期に議会承認するようカザフスタン側に働きかけています。また、より円滑かつ迅速なODA実施のための具体的な解決策についてカザフスタン側と協議を行っています。
  • (5)調査団指摘の供与機材の運営・保守費用に関するノンプロ無償資金協力の見返り資金の活用などに関しては、先方の自助努力を妨げることとならないよう配慮しつつ、ケース・バイ・ケースで検討することとしています。
  • (6)日本企業進出にはカザフスタン側の法整備が十分でないという阻害要因もあります。二重課税防止条約の締結については、今後の課題として検討していきたいと考えてます。(但し、他にも多くの国から二重課税防止条約の申し込みがあり、カザフスタンと直ちに交渉を開始するのは難しいのが現状です。)

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