匠の技術、世界へ 2
日本の砂防技術でインドネシアの人々の生活を火山災害から守る
~平時も活用できる砂防インフラの整備~
砂防施設建設に携わるインドネシアの企業スタッフと溝口氏(左から2人目)(写真:八千代エンジニヤリング株式会社)
平常時には橋として活用される砂防堰堤(写真:八千代エンジニヤリング株式会社)
砂防施設建設に携わるインドネシアの企業スタッフと福島氏(写真:八千代エンジニヤリング株式会社)
インドネシアは130の活火山を持つ世界有数の火山国です。中でもジャワ島中部に位置するメラピ火山は、5から10年の頻度で噴火を繰り返す世界で最も活動的な火山の一つです。火山の山麓で生活する住民は、肥沃な火山灰土壌と豊富な湧水の恩恵を受ける一方、火砕流や土石流の脅威にさらされてきました。
1969年のメラピ火山噴火を契機として、インドネシア政府は砂防技術を用いて土石流災害を軽減する対策に着手し、日本に協力を求めました。砂防とは、堰(えん)堤注1などの構造物で土石流の移動をコントロールし、住民の生命や生活を土砂災害から守る技術です。長年の災害経験から培われた日本の砂防技術は世界に誇れるもので、外国語でも「SABO」という言葉が使われているほどです。
日本は、1970年の砂防専門家の派遣を皮切りに、1977年からは火山砂防基本計画の策定を支援しました。この計画に基づき、日本の円借款による事業も含め、これまでに約250基の砂防施設が建設され、これらの施設は土石流をたびたび食い止め、住民の生命や生活を守ってきました。しかし、2010年、メラピ火山は過去100年間で最大規模の噴火を起こし、基本計画で想定していた量の28倍に相当する火山砕屑(せつ)物を放出し、多くの被害を出しました。そのため、山麓の河川で発生する土石流や、地形の変化による想定外の土石流の流下などの問題に対処すべく、2015年から円借款を通じて、土石流を導流・貯留するための砂防施設の整備や、火山砂防基本計画改定のための支援が行われました。
これらの事業に参画した八千代エンジニヤリング株式会社で海外事業部のゼネラルマネージャーを務める溝口(みぞぐち)昌晴氏は、これまでを振り返り、「大雨や洪水により測量済みの地形に変化が生じる度に、砂防施設の設計を修正した。インドネシアの火山地域の河床の変動の特性を踏まえ、砂防堰堤の基礎を日本のものよりもさらに深い位置まで入れ、耐久性を高めるなど工夫を重ねた。また、施工中に土石流や鉄砲水が発生するリスクがあったため、通常の安全管理に加えて土石流や鉄砲水発生時の避難体制を強化するなどの対応を取り、労働者の安全確保に努めた。」と、多くの困難を乗り越えてきた苦労と工夫を語ります。
また、時代によって変わる現地政府の要請にも応えながら、日本の技術を現地に適用してきたことについて、「インドネシアが経済発展途上にあった80年代は雇用が重視され、安価な労働力を活用する石積みの工法が多用された。アジア通貨危機に見舞われた90年代後半は、限られた予算で効率的にインフラを整備することが求められ、平時には橋や取水堰(ぜき)等としても利用できる砂防施設の多機能化が積極的に進められた。経済発展が進んだ直近の事業では、構造物の品質をより高く保つため、かつて用いられていた石積みや現場練りコンクリートに代わり、工場で練り混ぜをしてから現場に運送するコンクリートが建設材料として用いられるようになった。」と振り返り、「そういった時代ごとの要請に対応してきたことが、日本への信頼につながっていると思う。」と語ります。
同社ジャカルタ事務所長として現場を熟知する福島淳一氏は、「地方政府や住民との関係構築にも腐心し、災害時以外でも活用できる多機能な砂防施設となるように工夫をこらすなど、彼らの声を反映することに努めた。地元住民は、砂防施設を平時から利用し、自分たちの施設だという意識を持っており、彼らから、今は砂防のおかげで安定した生活を送ることができるようになったとの話を聞くことが多い。」として、現地の生活向上に貢献している実感を語ります。
インドネシアに対する砂防の技術協力を通して得られた知見は、雲仙普賢岳の火砕砂防事業等に反映されるなど、日本の防災にもいかされています。溝口氏は「日本の海外への技術協力は決して一方的ではない。双方向の利益をもたらしている。今後も相互の協力という視点で関わっていきたい。」と、今後の展望を語ります。
注1 河川、渓谷の水流、あるいは土砂をせきとめるために、石、コンクリートなどで築いた堤防。
