匠の技術、世界へ 1
実証AIを活用したパトロール業務の最適化による治安の改善
~ブラジルの警察に最新のデジタル技術を導入して業務効率化を推進~
フォルタレーザ市安全局との署名式に参加した倉智氏(写真左)(写真:株式会社Singular Perturbations)
アマパ州軍警察に対し、犯罪予測システムCRIME NABIの説明をする柏原氏(写真右)(写真:株式会社Singular Perturbations)
ブラジルは、殺人や強盗などの凶悪犯罪が多数発生するなど、世界的にも犯罪率が高い国の一つです。治安の改善とその維持が重要な課題となっていますが、警察の人材不足などの理由で、犯罪防止のためのパトロールや監視活動が十分ではないという課題に直面しています。
そのような課題に、人工知能(AI)を活用した独自の犯罪予測システムを使って取り組んでいるのが、株式会社Singular Perturbations(シンギュラーパータベーションズ、以下SP社)です。SP社は、理論物理学の枠組みを用いた独自の手法により、地域の犯罪統計や人口、天気、建物構造や道路種別などの情報から、いつ・どこで犯罪が起きるかを高精度・高速に予測するシステムCRIME NABIを開発・提供する日本企業です。イタリアでスリ被害に遭った創業者がその経験をきっかけに起業し、CRIME NABIを開発しましたが、治安の良い日本国内でニーズを開拓する困難に直面し、海外展開も視野にビジネスモデルを模索する中で巡り会ったのがブラジルでした。
ブラジル支社代表取締役の倉智隆昌(くらちたかまさ)氏は「発生した犯罪の対応に重きを置く日本と異なり、ブラジルでは犯罪予防のニーズが高い。人口増加が進む都市部において警察組織は24時間体制で防犯対策をとっているが、一人で20画面の監視カメラの映像を見るなど、人材が不足している。より高精度でリアルタイムな犯罪予測情報を導き出すことができるCRIME NABIの需要は高い。」と説明します。
SP社は、2023年6月から中小企業・SDGsビジネス支援事業注1を活用し、州警察や市警察へ犯罪予測を活用したパトロール業務支援サービスの提供を始めました。「一民間企業では面談取り付けさえ難しかったと思う。日本が長年にわたり、日本式の地域警察モデルの導入を通じて同国の治安改善を支援してきていることも、同国の警察組織からの信頼と理解を得る上で功を奏した。」と、倉智氏はJICA事業活用のメリットを語ります。
「警察組織は、セキュリティの観点から外部への犯罪統計情報の提供に慎重だった。そこで、自らの組織内でデータを分析し犯罪多発地域と時間等を特定できるツールと、防犯監視業務計画を策定するシステムを提供することにした。CRIME NABI使って『この場所、この天気なら、この時間に犯罪が起きやすい』といった犯罪予測ができるようになれば、効率的なパトロールも可能になり、また、重点監視対象となる防犯カメラリストの作成を支援することで、焦点を絞った監視活動が可能になる。」と、倉智氏は現地の事情に応じてビジネスモデルを構築していった過程を説明します。
SP社は、人口規模で国内第2位、経済規模で国内第3位のミナス・ジェライス州ベロ・オリゾンテ市において、銅製のケーブル盗難が急増し、信号機、工場や病院の電力供給に影響が出ていることに注目し、2023年8月から2か月にわたり、ケーブル盗難を対象に実証実験を行いました。その結果、盗難事件数が実証実験前の2か月間で発生した543件から69%減となる171件まで減少し、その有効性が確認されました。同市の市警団注2は、同年12月から、CRIME NABIの業務での運用を開始しています。SP社は、JICA事業が終了した2024年9月時点で、日系企業も多く進出するサンパウロ州の軍警察を含む5州5機関と、実証実験を始めるためのトライアル契約を締結し、また6州6機関ともトライアル契約締結に向けた協議を行っています。また、政府機関のみならず、民間企業とのビジネス展開も視野に、重要な資源を広大な範囲で扱うため犯罪被害が発生しやすい鉱業、石油業界に対象を絞り継続的な議論を行っています。
ブラジル支社の総括マネージャー、柏原エンリケ氏は「将来的にはブラジル全州の警察組織とパートナーシップを結びたい。また、ホンジュラスやウルグアイ、メキシコなど治安の改善を課題としている他の中南米諸国にもビジネスを展開していきたい。」と今後の展望を話します。
注1 用語解説を参照。
注2 ブラジルには、連邦警察、州政府管轄の軍警察、文民警察、市警団など複数の警察組織があり、屋外パトロールは軍警察、防犯のための市内カメラモニターの監視は市警団が担っている。
