2023年版開発協力白書 日本の国際協力

6 中央アジア・コーカサス地域

中央アジア・コーカサス地域は、東アジア、南アジア、中東、欧州、ロシアを結ぶ地政学的な要衝に位置し、その発展と安定は、ユーラシア地域全体の発展と安定にも大きな意義を有しています。この地域は、石油、天然ガス、ウラン、レアアースなどの豊富な天然資源を有し、また、カザフスタンを始めとするカスピ海周辺地域から欧州・ロシア・中国に向けてパイプラインが設置されており、重要なエネルギー輸送路に位置していることから、エネルギー安全保障の観点からも戦略的に重要な地域です。特に、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略以降、中央アジア・コーカサス地域は、ロシアを経由しない欧州と東アジア地域の連結性の要として注目されています。

1991年の独立以降、中央アジア・コーカサス各国は市場経済体制への移行と経済発展に向け取り組んできていますが、旧ソ連時代の経済インフラの老朽化や、市場経済化のための人材育成、保健・医療などの社会システム構築などの課題を抱えています。一方、同地域は、地政学的に周辺の大国の影響や近隣諸国の治安の影響を受けやすい地域でもあり、アフガニスタン等の紛争地域から帰還した人々の再統合に伴う社会不安が懸念されています。また、連結性強化のために、税関システムの改善を通じて物流の円滑化をはかることや、国境管理の強化等により実効的な麻薬対策を講じること等が求められています。

日本は、経済・社会インフラ整備、民主主義・市場経済発展支援、国境管理、麻薬対策などを重点課題として、中央アジア・コーカサス地域の自由で開かれた持続可能な発展に向けた協力を行っています。

●日本の取組

5月、日本の支援によって校舎が改修されたアルメニアのエチミアジン市立第13幼稚園を訪問する吉川外務大臣政務官(当時)

5月、日本の支援によって校舎が改修されたアルメニアのエチミアジン市立第13幼稚園を訪問する吉川外務大臣政務官(当時)

ジョージアのムツヘタ地区で、住民の衛生環境の改善および環境保全に寄与するため、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて供与されたゴミ収集車

ジョージアのムツヘタ地区で、住民の衛生環境の改善および環境保全に寄与するため、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて供与されたゴミ収集車

日本は2004年から「中央アジア+日本」対話を立ち上げ、自由で開かれた国際秩序を維持・強化するパートナーである中央アジアの平和と安定に寄与することを目的とした域内協力を促進しています。2023年3月に東京で開催された「中央アジア+日本」対話・第12回東京対話では、「中央アジア・コーカサスとの連結性」をテーマとして、中央アジア諸国に加えて、中央アジアと海を結ぶ地域として重要なアゼルバイジャン、ジョージアからの実務者の出席を得て、税関分野での国際協力に取り組む世界税関機構(WCO)や日本側の関係省庁、日本企業も参加して、公開シンポジウムを開催しました。参加者からは、それぞれ各国における地域協力の現状や今後の課題について報告がなされたほか、日本企業から見た課題や日本の事例紹介等、日本側パネリストも交えて活発な議論が行われました。

コーカサス諸国との関係では、2023年5月、吉川外務大臣政務官(当時)が、アルメニア、ジョージアおよびアゼルバイジャンの3か国を訪問し、それぞれと地域の連結性強化や人づくり支援を強化していくことなどで一致しました。

人材育成支援としては、保健、農業、教育の分野などを中心に、日本は1993年から2022年までに中央アジア・コーカサス諸国から約1万2,100人の研修員を受け入れるとともに、同諸国に約3,300人の専門家を派遣しています。また、若手行政官等の日本留学プロジェクトである人材育成奨学計画(JDS)や、開発大学院連携プログラム、日本人材開発センターによるビジネス人材育成などを通じて、国造りに必要な人材の育成を支援しています。

基礎的社会サービスについては、日本は新型コロナウイルス感染症拡大で大きく影響を受けた各国の保健・医療体制の強化に向けた支援を行っています。

近年、中央アジア・コーカサス地域では、民族間の対立の火種が顕在化しています。2023年9月には、アゼルバイジャンによりナゴルノ・カラバフでの軍事行動が行われ、この影響により、10万人以上の避難民がアルメニアに退避しています。これを踏まえ、日本は国際機関を通じて、アルメニアおよびアゼルバイジャンにおけるナゴルノ・カラバフの避難民等に対し、200万ドルの緊急無償資金協力を実施しました。

そのほか、隣接するアフガニスタンの情勢などを踏まえ、日本は、タジキスタンのアフガニスタン国境周辺地域において、国境警備所の設置、国境管理のオンライン化用機材の供与や研修等を通じた治安維持体制の強化につながる支援を行っています。また、アフガニスタンと国境を接する中央アジア5か国では、紛争地域や国外の出稼ぎから帰国した青年が社会に統合できるよう、技能訓練や就労支援を行うほか、コミュニティ活動等を通じ社会参加を促進する等、社会の安定化や治安の強化を図る支援も行っています。

案件紹介10

キルギス

SDGs9

雪崩から市民を守る道路防災
ビシュケク-オシュ道路雪崩対策計画
無償資金協力(2016年3月~2023年11月)

内陸国キルギスでは、国内道路網は国民の生活を支えるインフラであるとともに、周辺国との交易を担う経済インフラの役割を担っています。中でも首都ビシュケクと国内第2の都市オシュを結ぶ道路は、国内の南北をつなぐ唯一の主要幹線道路であり、またロシア、カザフスタンからキルギスを抜けてアフガニスタンまでをつなぐ国際回廊アジアハイウェイの一部でもあります。年間を通して何十万台もの車両が通行しますが、急峻(しゅん)な山岳地帯を通るルートで、毎年冬期には吹雪による通行障害や雪崩等の自然災害が多発する危険な状態でした。日本は、無償資金協力を通じて、最も雪崩が頻発する区間において、キルギスでは初となるスノーシェッド注1の建設を支援しました。支援にあたっては、日本の豪雪地域の山間道路における積雪対策で蓄積された技術を活用し、雪崩対策の強化に取り組みました。

これにより、同区間の冬期の車両通行の安全性が確保されることが期待されます。また、円滑な通行が維持されることで、国内および周辺国へのアクセスが強化され、物流の円滑化に結び付くことが期待されます。

建設にあたっては、日・キルギスの工事関係者が協力し、厳しい気象条件等を乗り越えて工事を遂行しました。キルギス政府は、このトンネルを「キルギス・日本友好トンネル」と名付け、日本の支援に謝意を表明しています。

日本は、今後もキルギスの産業の成長・多角化および輸出能力の向上を図る経済・社会インフラの整備を支援していきます。

本協力で建設されたスノーシェッド(防災トンネル)(写真:JICA)

本協力で建設されたスノーシェッド(防災トンネル)(写真:JICA)

注1 雪崩から通行の安全を確保するための道路を覆うトンネル状の施設。

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