2023年版開発協力白書 日本の国際協力

(3)法制度整備支援、民主化支援

開発途上国の「質の高い成長」の実現のためには、一人ひとりの権利が保障され、人々が安心して経済社会活動に従事でき、公正かつ安定的に運営される社会基盤が必要です。こうした基盤強化のため、開発途上国における自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値の共有や、グッド・ガバナンス(良い統治)の実現、平和と安定、安全の確保が重要となります。

その際、公務員が関与する贈収賄や横領などの汚職事件は、開発途上国の健全な経済成長や公平な競争環境を妨げる原因にもなります。そこでドナー国は、公正かつ安定した社会の実現のため、開発途上国における不正腐敗対策を含むガバナンス支援にも取り組む必要があります。

統治と開発への国民参加および人権の擁護・促進といった民主主義の基盤強化も、開発途上国の中長期的な安定と開発の促進にとって極めて重要な要素です。特に、民主化に向けて積極的に取り組んでいる開発途上国に対して、公正かつ透明性が確保された選挙を実施するための支援や、国民の知る権利を保障し、表現の自由を守るためのメディアに対する支援などを通じて、民主化への動きを後押しすることが重要です。

●日本の取組

■法制度整備支援

日本は、各国における法の支配の確立、グッド・ガバナンスの実現、民主化の促進・定着、基本的人権尊重のため、法制度整備支援を積極的に実施しています。具体的には、法・司法制度の改革、法令の起草支援、法制度運用・執行のための国家・地方公務員の能力向上、内部監査能力強化、制度整備(民法、競争法、知的財産権法、税、内部監査、公共投資など)に関する支援をインドネシア、ウズベキスタン、カンボジア、シエラレオネ、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、東ティモール、ベトナム、モンゴル、ラオスなどの国々で行っています。例えば、ラオスでは、日本が20年以上にわたり法制度整備支援に一貫して取り組んだ結果、2020年5月には同国初の民法典が施行され、2023年4月にはその逐条解説書が完成するなど、引き続き運用支援が行われています。また、インドネシアでは、裁判官向けに商標法や著作権法の内容をまとめたガイドブックの作成を進めたほか、2022年に刊行した、知的財産事件を扱う裁判官向けの判決集(商標編)を活用した裁判官向けの研修・セミナーを全国の地方都市で実施し、同国の法律実務家の能力向上に取り組みました。そのほか、2023年5月には知的財産分野の裁判官を、同年9月には法案の起草や審査を担う行政官をそれぞれ日本に招いて研修を行い、同国に参考となる日本の制度や経験を共有しました。

日本は、2021年3月に京都で開催された第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)注48において採択された「京都宣言」注49の実施にリーダーシップを発揮しています。具体的には、日本の官民連携による再犯防止の知見をいかした再犯防止国連準則策定の主導や、次世代を担う若者のエンパワーメントを目的とする「法遵守の文化のためのグローバルユースフォーラム」(Col-YF)および犯罪と闘うための国際協力を一層推進するためのアジア太平洋地域における刑事司法実務家による情報共有プラットフォーラムである「アジア太平洋刑事司法フォーラム」(Crim-AP)の定期開催など、「京都宣言」を具現化するための取組を推進しています。2022年12月には、「第2回法遵守の文化のためのグローバルユースフォーラム」を開催し、約50か国・地域から100人以上の若者が参加し「多様性と包摂性のある社会に向けた若者の役割」をテーマに議論を行ったほか、2023年2月には「第2回アジア太平洋刑事司法フォーラム」を開催し、18か国・5機関からの参加者が活発な意見交換を行いました。さらに、7月には、日ASEAN特別法務大臣会合の開催に合わせ、UNODC協力の下、タイ法務研究所と共に、「法の支配推進のための日ASEAN特別ユースフォーラム」を開催しました。日本、ASEAN加盟国および東ティモールから60人を超える若者が一堂に会し、「司法へのアクセスを強化するためのリテラシーの構築-デジタル時代における法の支配への鍵-」をテーマに議論が行われました。

法制度運用・執行のための国家・地方公務員の能力向上支援について、具体的には、法律実務家などの人材育成の強化などを目的として、国際研修や調査研究、現地セミナーを実施しています。2022年には、2021年に引き続き、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い外国人の新規入国が制限されていた間は、オンライン方式を用いて研修を実施していましたが、2022年秋以降は、日本国内における対面での研修を徐々に再開させました。オンライン方式および対面方式いずれの方法による研修においても、上記の国々から、司法省職員、裁判官、検察官などの立法担当者や法律実務家の参加を得て、各国のニーズ、最新の国政情勢、国連等の国際機関の活動を踏まえて、法令の起草、法制度の運用改善や関係職員の能力向上などをテーマとした研修を実施しています。このほか、各国の渡航制限の緩和や解除に伴って、現地で開催されたセミナーやワークショップなどへの対面での参加も徐々に再開し、同様のテーマでの研修等を行いました。

日本は、開発途上国のニーズに沿った支援を積極的に推進していくため、その国の法制度や解釈・運用などに関する広範かつ基礎的な調査研究を実施して、効果的な支援の実施に努めています。その一つとして、2022年4月からは、インドネシア、カンボジア、フィリピン、ラオスの不動産法制に関する比較研究を行う場として、「アジア・太平洋不動産法制研究会」を定期的に開催しており、2023年10月には「第11回国際民商事法シンポジウム」を開催しました。

■不正腐敗対策などのガバナンス支援
第25回汚職防止刑事司法支援研修の様子(写真:UNAFEI)

第25回汚職防止刑事司法支援研修の様子(写真:UNAFEI)

第17回GGセミナーの様子(写真:UNAFEI)

第17回GGセミナーの様子(写真:UNAFEI)

日本は国連腐敗防止条約の締約国として、同条約の事務局であるUNODCへの協力を通じ、腐敗の防止および取締りに関する法制度の整備や、司法や法執行機関などの能力構築支援に積極的に関与してきました。

日本は、法務省が国連と共同で運営する国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)注50を通じて、法制度整備支援および不正腐敗対策を含むガバナンス支援の一環として、アジアやアフリカなどの開発途上国の刑事司法実務家を対象に、毎年、研修やセミナーを実施しています。

具体的な取組の一例として、1998年から汚職防止刑事司法支援研修を、新型コロナ感染症拡大により中止になった年を除き毎年1回実施しています。同研修は国連腐敗防止条約上の重要論点からテーマを選出して実施しているもので、各国における汚職防止のための刑事司法の健全な発展と協力関係の強化に貢献しています。2023年11月には、「国際協力を活用した効果的な汚職事件捜査」を主要課題として、25回目となる同研修を実施しました。同研修には、25か国から合計30人の刑事司法実務家が参加しましたが、この中にはウクライナからの参加者5人も含まれています。

ほかにも、東南アジア諸国におけるガバナンスの取組を支援するとともに、刑事司法・腐敗対策分野の人材育成に貢献することを目的として、2007年から「東南アジア諸国のためのグッド・ガバナンスに関する地域セミナー(GGセミナー)」を新型コロナ感染症拡大により中止になった年を除き毎年度1回開催しています。2023年12月には、「賄賂を含む不当な介入からの裁判官、検察官及び法執行機関職員の保護」をテーマとする第17回GGセミナーを参加者の訪日による対面方式で開催し、ASEAN加盟国のうち9か国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、ラオス)と東ティモールの合計10か国から19人の刑事司法実務家が参加しました。

UNAFEIの活動は腐敗防止にとどまらず、国際社会での犯罪防止・刑事司法に関する重要課題を取り上げ、それらをテーマとした研修やセミナーを広く世界中の開発途上国の刑事司法実務家に対して実施することにより、変化するグローバル社会への対応を図ってきました。例えば、2023年においては、1月から2月にかけて「被疑者及び被告人並びに被害者の法律扶助(Legal aid)の促進」をテーマとする第180回国際高官セミナーを、5月から6月にかけて「国境を越えた組織犯罪への対策」をテーマとする第181回国際研修を、9月から10月にかけて「刑務所出所者の効果的な社会復帰支援-就労、住居、医療等の切れ目のない支援の実現に向けて」をテーマとする第182回国際研修を、それぞれ対面方式で実施しました。

案件紹介2

東ティモール

SDGs3 SDGs5 SDGs9 SDGs16

新型コロナウイルス感染症流行下の選挙:政治参加の促進と感染症対策の両立
東ティモールにおけるコロナ禍の選挙実施体制強化計画
国際機関拠出金(2021年3月~2023年7月)

東南アジアで最も民主主義が深く根付いている国の一つである東ティモールでは、独立回復後から国民の政治参加が積極的に促進されてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症が収束しない中で行われた2022年の大統領選挙および2023年の議会選挙では、医療体制が脆(ぜい)弱なため、感染症対策が十分に行えるか懸念がありました。

そこで日本は、国連開発計画(UNDP)と連携し、感染症流行下における平等で直接的かつ積極的な政治参加を支援すべく、感染症対策強化を行いました。協力にあたっては、包摂的な社会の実現のため、女性・若者・障害者の政治参加促進にも配慮しました。

本協力では、選挙管理事務局および国家選挙委員会の各地方事務所13棟に手洗い場を設置し、非常事態時のマニュアル作成や感染症防護用具の供与のほか、職員に感染症対策訓練を実施しました。また、包摂的な選挙実現のため、スロープや障害者用トイレの設置等、障害者に配慮した施設整備を支援し、女性・若者・障害者を対象とした選挙情報の拡散と呼びかけを支援し、幅広い政治参加を促進しました。

選挙当日の投票所ではマスク配布、検温や手指の消毒徹底が行われ、選挙での新型コロナ感染の報告はありませんでした。また、選挙管理機関の施設整備により、利用者の安心・満足度が向上し、政治参加につながりました。感染症流行下にもかかわらず、大統領選挙の投票率は77.26%、翌年の議会選挙は79.28%と高く、特に女性の投票率は過去最高の80%を越える結果となりました。

日本は今後も東ティモールが持続可能な発展を遂げ、健全な民主主義社会を築いていくことを支援していきます。

2022年大統領選挙の投票所にて、投票に訪れた市民に感染症対策を実施する投票所スタッフ(写真:UNDP)

2022年大統領選挙の投票所にて、投票に訪れた市民に感染症対策を実施する投票所スタッフ(写真:UNDP)

手話通訳者と共に障害者に対する選挙情報の発信を支援するUNDP日本人職員(写真:UNDP)

手話通訳者と共に障害者に対する選挙情報の発信を支援するUNDP日本人職員(写真:UNDP)

■民主化支援

コソボでは、全ての国民に正確・中立・公正な放送を届けるため、2015年1月から、「公共放送能力向上プロジェクト」を実施しています。多民族が混在している地域での取材に際して、情報精度を向上させるため、少数民族地域や他民族混住地域の支局開設の準備や、JICA専門家によるOJTやワークショップを通じて番組製作スタッフの能力向上を支援しています。これらの活動は、少数民族を含む全ての国民に、公正で隔たりのない番組を放送することに貢献しています。


  1. 注48 : 5年に一度開催される犯罪防止・刑事司法分野における国連最大の国際会議。事務局はUNODC。
  2. 注49 : 犯罪防止、刑事司法の分野における国連と国連加盟国の中長期的な指針を示す京都コングレスの成果文書。
  3. 注50 : 国連と日本政府との協定に基づいて1962年に設立され、法務省法務総合研究所国際連合研修協力部により運営されており、設立以来、142の国・地域から6,300名を超える卒業生を輩出している。
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