世界の現場で活躍する国際機関日本人職員注1
~難民・避難民支援の現場から~
新垣尚子(あらかきしょうこ)
国連人口基金(UNFPA) 人道支援局長

モザンビークの国内避難民のキャンプで暮らす人々から話を聞く筆者(写真左)(写真:UNFPA)
私は、2019年7月に創設されたUNFPA人道支援局の初代局長として、ジュネーブを拠点に活動しています。UNFPAは、150か国以上の女性や若者を対象にセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス注2に関する支援を行っています。人道支援局はこのうち、人道危機にある約60か国を中心に活動しています。災害や紛争などの緊急時には、ジェンダーに基づく暴力の対策チームや物資輸送のチームを派遣するなど、人と物の手配を統括しています。2023年11月、パレスチナのガザ地区での戦闘休止の際は、支援物資輸送のための航空機手配や物資貯蓄の管理も行いました。
また、局長として各地の難民・避難民キャンプを視察し、実態を把握してより適切な人道支援を届けるよう心掛けています。今年はケニアやエチオピアの難民キャンプを訪れ、日本政府の支援による障害を持った難民のスポーツ活動や移動診療所の設置などを視察し、「人間の安全保障」を推進する取組が現地の方に受け入れられ、感謝されていることを実感しました。
UNFPAは2030年までに妊産婦死亡やジェンダーに基づく暴力をゼロにする目標を掲げていますが、その多くは人道危機の現場で起こっています。他の国際機関、協力団体、日本をはじめとするドナー国と連携しながら、人道支援活動に取り組むとともに、人道支援の意義を発信し続けます。
山本祐一郎
国連児童基金(UNICEF)アフガニスタン事務所 こどもの保護専門官

パキスタンとの国境付近に設置した「こどもにやさしい空間」で帰還民のこどもとふれあう筆者(写真右から2人目)(写真:UNICEF)
アフガニスタンでは、2021年8月のタリバーンによる「暫定政権」樹立の発表後、経済の急速な悪化、福祉サービスシステムの崩壊、度重なる自然災害、女性・女児の公の場からの締め出しなどにより、国内の人道ニーズはこれまでになく高まっています。共和国政府とタリバーンの戦闘の終結を受けて、イランやパキスタン等の近隣諸国に避難していた人々が帰還するケースも見られますが、その多くは、避難前と同様かそれ以上の困難に直面しています。
私は、2022年にUNICEFアフガニスタン事務所に着任し、アフガニスタンに暮らす全てのこどもたちを暴力、虐待、搾取から守るため、タリバーン「暫定政権」とも協力を行いながら、こどもを保護するシステムの強化に取り組んでいます。その一つとして、こどもの人権侵害の事例を特定して対応するソーシャルワーカーを採用し、研修の後に国内各地に派遣しています。また、2022年からは日本の支援により、脆(ぜい)弱な立場にあるこどもたちに心理的、社会的支援を含むサポートを行い、教育や保健などのサービスも受けられるよう支援しているほか、社会に適応できるように、職業訓練や収入創出活動への支援も行っています。また、近隣諸国から帰還したこどものうち、保護者がいないこどもや家族と離ればなれになったこどもについては、家族と再会させ、出身地に戻れるよう支援しています。
伊藤常子
国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)アンマン・マルチカントリー事務所 リポーティングリエゾンオフィサー

レバノン・バアブダ公立病院での事業完工式典の様子(写真左から2人目が筆者)(写真:レバノン公衆衛生省)
レバノンは人口あたりの難民受入れ数が世界最多の国とされており注3、人口の約4人に1人に及ぶ難民を抱えています。2011年からのシリア内戦に伴う劇的な難民人口の増加は、とりわけ保健医療分野における基礎的な公共サービスを圧迫しています。医療機材の不足や老朽化に加え、経済危機、燃料等の価格高騰や供給不足に起因する日常的な停電は、救急救命機材の稼働にさえ影響を及ぼしています。
UNOPSは日本政府の支援の下、2021年から、難民や厳しい状況に置かれるレバノン人の受け皿となっている拠点公立病院に対し医療器材の供与や太陽光パネルの設置などを行い、逼(ひっ)迫する医療体制の強化を支援しています。
私は、2020年からレバノンを含む中東諸国を管轄するマルチカントリー事務所で、調達やインフラ整備、プロジェクトマネージメントといったUNOPSの強みをいかして、パートナーシップ構築に係る調整やプロジェクトの実施支援に携わっています。ホストコミュニティと難民双方に裨(ひ)益する人道支援の中に、再生可能エネルギーの導入といった気候変動等の中長期的な開発課題への対応も織り込むなど、支援を必要とする人々とドナー機関との架け橋として、人道と開発そして平和の連携にも資する支援に取り組んでいます。
小早川(こばやかわ)明子
国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)ミャンマー事務所 プログラム渉外部門長

支援先の診療所で働く助産師と筆者(写真右)(写真:UNOPS)
私は、2000年から国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)に勤務し、旧紛争国で地雷対策やインフラ復興事業の資金調達およびプロジェクト実施を担当してきました。地雷や不発弾などは難民・避難民の帰還も含めた、復興開発や平和の定着を阻んでいます。不発弾は、こどもがおもちゃと間違えたり、換金のために金属をはがしている最中に爆発したりするなどして被害者を増やしており、除去から回避教育、被害者支援まで、包括的な対策が必要です。前任地の国連地雷対策サービス部(UNMAS)・UNOPSシリア事務所では、政府との3年間の交渉の末、首都郊外の農地で地雷除去を開始でき、農民の帰農につながっています。
2022年5月に着任したミャンマーでは今も紛争が続いています。人口5,500万人の約4%にあたる200万人が国内避難民として不自由な生活を送っており、地雷対策も喫緊の課題です。UNOPSは、日本政府の拠出を受け、少数民族が多い熱帯地域の避難民キャンプで、衛生用品、保水バケツ、蚊帳など生活必需物資を供与しています。また、UNOPSが支給しているソーラー・ランタンは、携帯電話の充電や自宅学習を可能にし、女性やこどもが夜間でも安全にトイレを使うことができるようになりました。診療所への太陽光パネルの設置も行い、電気が無い間も妊産婦を含む患者の診療ができるようになりました。地雷対策については、現在は回避教育にとどまっており、将来の地雷除去の開始に向けて慎重に取組を続けています。
赤尾邦和
国際移住機関(IOM)エチオピア事務所シレ支所長(ティグライ州) 持続可能な解決策支援事業プロジェクトマネージャー

ティグライ州で日本からの支援物資を引き渡す筆者(写真右)(写真:IOM)
私は、2021年にIOMエチオピア事務所に着任し、南スーダン難民支援や国境管理事業に従事した後、2022年2月からエチオピア北部ティグライ州のIOMシレ事務所の支所長を務めています。ティグライ州では2020年から2年にわたり、エチオピア連邦政府とティグライ民族解放戦線(TPLF)との間で軍事衝突が発生したため、IOMの地域責任者として、日本政府を始めとするドナーからの支援を受けて、国内避難民に、シェルターの確保、生活必需品の供与、水・保健などの必要なサービス提供を行いました。特に2022年8月、勤務地であるシレの町が軍事衝突の現場となった際は、事務所スタッフの安全を守りながら人道支援を継続できるよう、シレに留まり、エチオピア政府駐留軍や連邦警察などと調整を行いました。
2022年11月の和平合意締結によって、地域に一定の安定が戻り、IOMの活動も緊急支援から復興・平和構築支援に軸足を移しています。私も支所長の仕事の傍ら、IOMの平和・開発ユニットにも所属し、「持続可能な解決策支援」と呼ばれる支援事業の責任者を兼務しています。事業では、より持続可能な解決策として、国内避難民の出身地への帰還、今いる地域への統合、第3の場所への再定住などのプランを用意し、状況に応じた中長期的な生活の立て直しを支援しています。
- 注1 国際機関職員の方からの寄稿。人物の肩書きは執筆時点のもの。
- 注2 性と生殖に関する健康。単に病気や障害等がないというだけでなく、性と生殖の全ての局面で、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること。
- 注3 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)「グローバル・トレンズ・レポート2022」 https://www.unhcr.org/global-trends-report-2022