2023年版開発協力白書 日本の国際協力

第Ⅰ部 開発協力大綱の改定とG7広島サミット

2023年5月、岸田総理大臣が議長を務めるG7広島サミットに参加するG7首脳および招待国首脳・国際機関の長

2023年5月、岸田総理大臣が議長を務めるG7広島サミットに参加するG7首脳および招待国首脳・国際機関の長

世界が歴史的な転換点にあり、複合的危機に直面する中、価値観の相違を乗り越えて国際社会が協力することの重要性が増していると同時に、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に根差した、平和で安定し、繁栄した国際社会の構築は、日本の国益にも直結します。そのためにも、日本の外交の最も重要なツールの一つである開発協力が果たすべき役割は益々重要になっています。

こうした大きな状況変化を踏まえて、日本は、2022年9月に、日本の開発協力政策の基本方針を示す開発協力大綱の改定を発表し、2023年6月、8年ぶりに新たな開発協力大綱を閣議決定しました。

また、日本が議長国として5月に開催したG7広島サミットにおいて、岸田総理大臣は、開発を含む国際社会が直面する重要な課題への対応に関する議論を主導しました。

1 開発協力大綱の改定

開発協力大綱は、日本の開発協力政策の根幹となる政策文書です。1992年に前身となるODA大綱が策定され、2015年改定時には、開発協力大綱に名称が変更され、2023年6月9日に新たな開発協力大綱が閣議決定されました。

(1)大綱改定の背景

「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会」報告書を林外務大臣(当時)に提出する中西寛(ひろし)懇談会座長(京都大学大学院法学研究科教授)

「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会」報告書を林外務大臣(当時)に提出する中西寛(ひろし)懇談会座長(京都大学大学院法学研究科教授)

2015年2月の大綱改定以降、持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、気候変動に関するパリ協定が発効するなど、国際的な協力を通じて地球規模課題に取り組む動きが進展しました。その一方で、ポスト冷戦期の平和と繁栄を支えた自由で開かれた国際秩序は厳しい挑戦を受け、国際社会は分断と対立の様相を一層深めています。感染症の世界的な拡大や国際情勢の急激な変動によるサプライチェーンの分断、急速なデジタル化の進展によるサイバーセキュリティの問題や、経済的依存を利用した威圧の試みなど、経済と安全保障が直結して各国に影響を及ぼすようになっています。

世界がこうした不確実性に晒(さら)される中、開発途上国は安定的な発展を見通すことが困難になっています。貧困削減は遠のき、感染症を含む保健課題や気候変動・環境問題は深刻化し、世界中で難民・避難民が発生し、食料危機やエネルギー危機が人道状況の悪化に拍車をかけるなど、人間の安全保障の理念に沿った対応が急務な状況です。開発協力の果たす役割はますます重要になっており、経済界、市民社会をはじめとする多様なアクターが連帯して対応することが求められています。

その一方で、一部の開発途上国で債務問題が深刻化するなど、国際社会全体において透明かつ公正で国際的なルールに基づいた開発協力が一層求められています。また、SDGsの達成に向けた資金ギャップが拡大しており、民間企業、公的金融機関、国際機関、市民社会を始めとする多様なアクターとの連携や、新たな資金動員に向けた取組の重要性が増しています。

今回の改定は、2015年の策定時からのこうした大きな情勢の変化を踏まえ、外交の最も重要なツールの一つである開発協力をこれまで以上に効果的・戦略的に実施し、開発途上国の課題解決と同時に、日本の経済社会面での成長などにも資するODAを推進していくことを目指すものです。

新しい大綱は、今後10年ほどを見据えた日本の開発協力の方向性を示しています。改定にあたっては、開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会による提言、経済界や市民社会など各界との意見交換、各地での一般市民意見交換会、そしてパブリックコメントなど、幅広く有識者や国民の皆様の声を頂き検討を重ねました。

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