巻頭言
2021年11月に外務大臣を拝命してから、1年3か月が過ぎました。2022年の2月には、ロシアがウクライナへ侵略を開始しました。多くの死傷者や避難民の発生に加えて、エネルギー・食料危機を含め、その影響は欧州にとどまらず、世界各地に拡大するなど、日本国民の生活や日本企業のビジネスにも深刻な影響を及ぼしています。
このように、現在、国際社会は、ポスト冷戦時代の終焉とも言うべき秩序の動揺の中にあり、我々は歴史の岐路に立っています。これまで国際社会の平和と繁栄を支えてきた民主主義、法の支配といった普遍的価値や国際秩序が厳しい挑戦にさらされています。開発をめぐる国際ルールの普及・実践も引き続き課題であり、不透明で不公正な開発金融は一部の開発途上国の健全な持続可能な発展を妨げています。そして、日本を取り巻く安全保障環境も厳しさと不確実性を増しています。同時に、持続可能な開発目標(SDGs)達成、気候変動や感染症対策を含む国際保健といった地球規模課題への対応も立ち止まることは許されません。
これらの複合的なリスクが各国や一人ひとりの人間の安全保障を脅かす中で、日本は、自らの平和と安定、普遍的価値を守り抜き、人類に貢献し国際社会を主導する覚悟を持って、外交課題に取り組んでいます。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現するための協力を進め、世界と日本が共に発展し、国際社会の強靱性を高めていくためには、最も重要な外交ツールの一つであるODAをより戦略的に活用し、外交力を抜本的に強化する必要があります。
このような観点から、2022年6月に発表された「骨太の方針」において、ODAの拡充を通じた外交の強化が柱の一つに掲げられました。9月には、日本の開発協力政策の基本方針を示す「開発協力大綱」を8年ぶりに改定することを対外公表し、検討を進めています。12月には、有識者懇談会から、人間の安全保障の概念の下、普遍的な価値に基づく国際秩序の維持、世界と共に発展・繁栄する環境作り、地球規模課題に対する国際的取組の主導の3点を基本方針として掲げるべきとの提言が出されました。時代に即した開発協力を進めていくため、報告書の内容や幅広い関係者のご意見を踏まえつつ、本年前半を目処に新たな大綱を策定します。
開発協力のインパクトを最大化し、戦略性を強化するためには、国内外のパートナーとの一層の連携強化も欠かせません。G7や日米豪印等の同志国や国際機関との協力は、多国間主義や国際協調の推進、開発をめぐる国際ルールの普及・実践を図り、また、地球規模課題に関する日本の指導力を強化する上で重要な外交的意義を持ちます。民間セクターや市民社会と連携したオールジャパンによる取組は、日本の強みをいかした開発協力の魅力を向上させる上でも重要です。
これまで日本は65年以上にわたって、途上国が自ら主導する開発、人に着目した取組など、日本企業や市民社会と手を携えながら、日本らしいアプローチで開発協力を進めてきました。このような日本の取組は、外交を進める上で、途上国、国際社会からの信頼につながっており、多くの国から感謝の声が寄せられています。日本外交の新しいフロンティアを切り開く力の源泉は、まさにこうした世界からの信頼なのだと考えています。
2023年、日本は、G7議長国となり、また、国連安全保障理事会非常任理事国として2年の任期が始まりました。国際社会の多数を占める途上国の信頼に応え、日本自身の安全や成長も確保する。そして、気候変動や環境問題、国際保健を始め、世界が共通して直面する複合的危機に対し、日本らしいアプローチで国際社会をリードする。開発協力の推進は、平和で安定した社会を実現するという意味において、中長期的視点から国際社会と日本の未来への投資といえます。日本の開発協力には、これまで以上に大きな役割が求められています。国民の皆様のご理解、ご支援をいただきながら、日本としてさらなるリーダーシップを発揮してまいります。
2023年3月