2018年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 3

モロッコの高速道路に日本式の維持・管理技術を!
~日本ならではの「ニンジャテック」の導入~

モロッコにおける主要都市間の高速道路は開通から25年を迎えていますが、質の高い高速道路を建設したため、今でも重要な交通網として国民に信頼されています。モロッコ政府としても、こうした高品質の高速道路を有しているからこそ、新規の高速道路の建設のみならず、既存の高速道路の維持・管理の重要性についても十分に認識していました。こうしたことから、モロッコでは、経費があまりかからず、信頼性の高い技術による高速道路の点検などの維持・管理の技術を導入することが大きな課題となっていました。

モロッコの高速道路の橋梁(きょうりょう)でニンジャテックを使って点検をする現地の技術者(写真:株式会社特殊高所技術)

モロッコの高速道路の橋梁(きょうりょう)でニンジャテックを使って点検をする現地の技術者(写真:株式会社特殊高所技術)

モロッコ高速道路会社(ADM:Autoroutes du Maroc)は、2014年に阪神高速道路株式会社と協力関係を築き、その協力の過程で、阪神高速をはじめ全国の道路で次々と導入されていた株式会社特殊高所技術のインフラの維持・管理技術である「ニンジャテック」に関心を示し、2015年7月、阪神高速と技術交流の覚書を締結し、ニンジャテックの技術をモロッコに移転するプロジェクトが始まりました。

ニンジャテックとは、特殊高所技術が高い橋梁(きょうりょう)やダム、発電施設といった足場が組めないなど従来の方法では近づくことが難しいインフラの維持・管理・点検・補修のために考えた技術です。作業員がロープを駆使してぶら下がりながら点検や保守を行うことができ、しかも大掛かりな足場などが不要で短時間ですむため、コストが低いのが特長です。

本プロジェクトの中心的役割を果たした阪神高速の西林素彦(にしばやしもとひこ)技術部国際室長は、プロジェクトが始まった当時の様子をこう振り返ります。

「ニンジャテックの技術をモロッコの方に伝えるこのプロジェクトは、順調に進みました。何より、モロッコのADMの関係者の方々が、今後は自国の高速道路の維持・管理が重要になることを非常に理解されていたのが大きかったからだと思います。ニンジャテックの技術をモロッコに紹介するお披露目式では、モロッコの設備省の副大臣をはじめ多くの政府関係者が出席したのみならず、その様子が現地のマスメディアを通じて広く紹介されました。」

阪神高速と特殊高所技術が技術移転のために最初に行ったのは、ADMのモロッコ人技術者を日本に招いて訓練を行い、技術を伝えることでした。2016年、その最初の試みとしてADMが選抜した技術者3名が来日しました。特殊高所技術において今回のプロジェクトを担当し、3人の技術者の研修を良く知る山口宇玄(やまぐちたかはる)技術部長は、当時の様子を思い出します。

日本での研修に参加した日本とモロッコの技術者たち(写真:株式会社特殊高所技術)

日本での研修に参加した日本とモロッコの技術者たち(写真:株式会社特殊高所技術)

「3人は日本に来てからの60日間、日本人技術者と同じ過酷な訓練を受けました。ニンジャテックの技術とは、ロープを使って上下の移動はもちろん、ロープの上を歩き移動していくものです。この技術をゼロから学ぶことは、彼らにとって、それまで泳いだことのない人が初めて泳ぐことを覚えるような大変なことであったと思います。しかし、3人はよく耐え、技術を確実に身に付けて帰国されました。素晴らしい素養を持った方たちでした。」現在、3人は帰国してニンジャテックの技術者として活躍しています。

今回のプロジェクトでは、モロッコ人の技術者の育成とともに、今後も持続的にこの技術をモロッコにおいて定着させていくことが重視されました。成功裏に終了した日本での研修結果を受けて、今後もADM側が予算を出して技術者を日本に派遣する研修事業を続けていくことになりました。

実際、これから高速道路などのインフラを充実させていこうとする多くの途上国では、とにかく「建設する」ということにだけに眼がいきがちで、その後に必ず来る「維持・管理」の大切さにはあまり関心が向けられない場合が少なくありません。西林室長はこう語ります。「モロッコには、今後、同じフランス語圏の西アフリカ、北アフリカ諸国へこの技術を普及していってほしい。この事業を展開することで、アフリカ地域でのインフラの維持管理に貢献するとともに、その大切さも広めてもらうことを期待しています。」

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