匠の技術、世界へ 2
日本の技術でスリランカの水問題を改善
~省スペース、低コストの「PCタンク」および安全な「エアードーム工法」の導入~

安部日鋼工業がスリランカ南西部のベールワラ市に建設したPCタンク(写真:安部日鋼工業)
スリランカでは、多くの国民に質の良い水を安定的に提供することが大きな課題となっており、水道の普及率は5割以下にとどまっています。しかし、水道の普及地域においても、水道タンクの不足により、十分な量の水を安定的に供給することができず、一定時間のみ水が供給される「時間給水」が頻繁に行われていたため、生活に不便が生じており、安定的な水の供給のため、水道タンクの増設が求められていました。そこで、スリランカ上下水道庁(NWSDB:National Water Supply and Drainage Board)の関係者が、こうした問題の解決策を探していたところ、岐阜県に本社がある安部日鋼(あべにっこう)工業の「PCタンク」と呼ばれる水道タンクの技術に興味を持ちました。
PCとは、「Pre-stressed Concrete(あらかじめ圧縮力を加えられたコンクリート)」を略した用語で、薄さと、強度・耐久性を兼ね備えたコンクリートです。PCタンクであれば、タンクのひび割れを防止できるだけでなく、限られた狭い土地にも大容量のタンクを造ることができます。日本と同様、国土が狭いスリランカでは、限られた土地に大容量のタンクを建設する必要があるため、狭い土地でも高水位のタンクを建設できるPCタンクが非常に適しています。そこで、安部日鋼工業は、2013年9月より、外務省の委託費による案件化調査として、スリランカでPCタンクの有用性を探る調査を行うことになりました。
また、安部日鋼工業は、PCタンク自体の改良も常に重ねており、塩化ビニール製の膜で円筒形のタンク上方全体を覆い、内側から空気圧を加えてドーム状の仮設屋根を構築することによって、短い工期で安全にタンクを建設できる「エアードーム工法」などの独自の技術を持っています。

PCタンク上方のエアードームの据え付けを確認する日本及びスリランカの技術者たち(写真:安部日鋼工業)
安部日鋼工業が、こうした技術の優位性をNWSDB幹部に説明したところ、同国で是非PCタンクを建設してほしいということになり、2014年12月から、JICAの普及実証事業によるパイロットプロジェクトとして、スリランカ南西部のベールワラ市に、一般的な水道タンクの水位の2倍となる水位10m、貯水容量2,000m3のPCタンクをエアードーム工法によって建設することになりました。
しかし、多くの利点があるにもかかわらず、当時のスリランカの設計計画担当者の間では、それまで同国が使用してきた英国の技術で不都合はなく、わざわざ日本から新しい技術を調達する必要はないという考え方が主流であったため、安部日鋼工業の技術をなかなかスリランカ側に理解してもらえませんでした。
「そのため、スリランカからNWSDBの技術者を日本に招いてPCタンクを実際に見てもらい、設計方法も伝えることにより、その素晴らしさを理解していただきました。また、日本に招いたNWSDBの技術者が本国に帰国後、新しい技術による水道タンクの建設など必要ないと考える人々に対して、安部日鋼工業のPCタンクの素晴らしさをきちんとアピールしてくれたことも大きかったと思います。」このプロジェクトを推進した堅田茂昌(かただしげまさ)容器技術部長は、当時の状況をこのように語ります。
安部日鋼工業は、2015年からPCタンクの建設に入りました。同社の技術者は、NWSDBの技術者に対して、従来の技術からの改善点を一つ一つ示しながら、日本の工法の利点を明確に説明し、互いに理解を深めながら建設を進めました。
「それでも、ほとんどのNWSDBの技術者の方々には、PCタンクの素晴らしさについて、実際に完成品を見ないと理解してもらえないという状況でした。しかし、2016年に完成したPCタンクを見て、彼らも我が社の技術とその利点について十分に理解してくれました」と出川寛和(でがわひろかず)海外事業部長は語ります。
その後、NWSDB側で行う配管工事が完成したのが2018年3月。ようやく給水所全体が完成し、同年5月に運用を開始することで、新たに14,650世帯に安定的に水を届けられるようになりました。スリランカの現況に鑑み、平均世帯数を5人とすると、7万人以上の人々が建設されたPCタンクの恩恵にあずかることになります。この実績がスリランカ側に高く評価され、現在、さらに6基のPCタンク建設の計画が進められています。
西尾浩志(にしおひろし)副社長はこう語ります。「海外でプロジェクトを進める上でとても大切なことは経験です。弊社は、ここスリランカで本当にたくさんの貴重な経験を積み、大きな自信を得ることができました。この経験を活かし、2018年6月にはバングラデシュのダッカにおいて、日本企業と現地企業と弊社の3社で都市高速鉄道(MRT)の建設を受注することができました。」
今後も、スリランカで積んだ経験を活かして、主に開発途上国を中心に、PCで建設するインフラ需要の多い地域へのビジネス展開を積極的に行っていきたいと、西尾副社長は期待を膨らませています。