匠の技術、世界へ 1
地震を体験できる起震車で人々の防災意識の向上へ
~地震が多いペルーへの起震車の供与~
日本同様、マグニチュード7~9クラスの巨大地震もしばしば発生するペルーでは、人々の防災意識の強化に力を注いでいます。主にペルーの国立工科大学内の地震・津波防災教育・啓発センター(CESATT)によって、防災教育に関する教材作成やプログラム開発、啓発ワークショップやトレーニングが行われています。こうした活動には、JICAの協力による防災専門家の派遣をはじめ、日本のさまざまな知見が活用されています。
その一環として、防災関連機材の要望に基づきペルー国家防災庁(INDECI)に、2018年2月、ODAの「中小企業ノン・プロジェクト無償資金協力」※によって日本の起震車が3台供与されました。起震車とは、地震を想定した揺れを起こす振動装置付きの自動車のことで、過去に起こった地震の揺れを分析しデータを登録することで、様々な種類の地震を擬似体験できるようになっています。実際に日本の多くの自治体では起震車が導入されており、起震車による臨場感のある振動を体験することによって、震災への備えがいかに大切か、住民自らが認識し、被害を最小限に抑えるために何をすべきか対策が講じられています。

起震車引き渡し式典における(右から)キシック国防大臣、高木在ペルー臨時代理大使、チャベス防災庁長官(写真:在ペルー日本国大使館)
ペルーが起震車を導入することになったきっかけは、INDECIのホルへ・チャベス長官が来日した際、起震車に乗って地震を体験したところ、ペルーの小中学校等の教育機関での防災訓練時に、日本の最新技術を持った起震車を活用することで、児童・生徒の防災への意識を向上したいと強く思うに至り、起震車の提供につながりました。ペルーへ送られた起震車の製造を手掛けたのは、飛鳥特装株式会社です。今では東京23区をはじめ各地方自治体に飛鳥特装の起震車が導入されているのみならず、アルジェリアやチリなどへも送られ、現地で活躍しています。
「他国の起震車と比べて、私たちのつくる起震車は小回りが利くため、様々な場所にすぐに出向いて多くの人に地震を体験してもらうことができ、さらにさまざまな『揺れ』に対応できるのが特徴です」と説明するのは、同社技術部の川名浩太(かわなこうた)氏。飛鳥特装の起震車は一回あたり2分間、震度7までを体感できるもので、過去に起きた地震の揺れ(前後・左右・上下方向)をリアルに再現することや地震の揺れを自由に設定するなど、ニーズに合わせてカスタマイズすることが可能です。また、川名さんはペルーにも出向き、INDECI職員に操作方法やメンテナンスなどの技術指導を行いました。「たとえ同じ震度でも、ペルーでは、日本とは建造物の造りが異なるために被害状況も大きく違うので、現地に即した防災対策ができるように起震車を改良しました。」といいます。
この起震車を用いて、国立工科大学日本ペルー地震防災センター(CISMID-UNI)は2018年6月から地震体験の防災教育を実施し、これまで22の防災イベントにおいて、4,500人に対して啓発活動を行っています。イベントに参加したほとんどの人から、起震車での地震体験は非常に有益な体験であり、地震対策の重要性を認識するきっかけとなったという声が寄せられました。これまでもINDECIが保有する簡単な起震装置による地震体験はできましたが、今では小回りのきく起震車が、ペルーの各地に赴き、現地の人々が地震の揺れを体験できるようになりました。起震車は、防災関係者およびペルー国民の防災教育に大いに役立っています。この起震車の導入を皮切りに、今後ペルーの人々の防災意識が一層高まり、各家庭において大規模災害に対する備えを行うようになっていくことが期待されています。

ペルーの人が起震車を体験している様子(写真:INDECI)
※ 「経済社会開発計画」の旧称の1つ。外務省が実施する調達代理方式の無償資金協力。