2018年版開発協力白書 日本の国際協力

6 中央アジア・コーカサス地域

中央アジア・コーカサス地域は、ロシア、中国、南アジア、中東、欧州に囲まれており、この地域の発展と安定は、ユーラシア地域全体の発展と安定にとっても大きな意義を有しています。また、この地域には石油、天然ガス、ウラン、レアメタル(希少金属)などのエネルギー・鉱物資源が豊富な国も含まれることから、資源供給国の多様化を目指して資源・エネルギー外交を展開する日本にとっても戦略的に重要な地域です。この観点から日本は、これら地域の国々における人権、民主主義、市場経済、法の支配といった基本的価値の広まりを支え、同時にアフガニスタンやパキスタンなど、中央アジアに近接する地域を含む広域的な視点も踏まえつつ、同地域の長期的な安定と持続的発展のための国づくりを支援しています。

■日本の取組

日本は、旧ソ連の崩壊に伴い独立した中央アジア・コーカサス諸国に対し、1991年の独立以来、市場経済体制への移行と経済発展に向けた各国の取組を支援するため、経済発展に役立つインフラ整備、市場経済化のための人材育成、保健医療など社会システムの再構築など多彩な分野で支援を行っています。

中央アジアとの関係においては、同地域が開かれた地域として安定・発展し、域内国が共通の課題に共同で対処することが重要であるとの考えから、日本は2004年に「中央アジア+日本」対話の枠組みを立ち上げ、地域協力の「触媒」としての役割を果たすよう努力してきました。近年は対話にとどまらない、より実践的な協力を目指しています。

2018年1月にタジキスタンのドゥシャンベで開催された「中央アジア+日本」対話・第12回高級実務者会合(SOM)では、実践的協力の新たな優先的分野として観光分野に取り組んでいくことで一致しました。これを踏まえて開催された第4回専門家会合(2月)及び第2回ビジネス対話(3月)では、中央アジア各国の観光の実務専門家を招聘(しょうへい)し、日本の観光業関係者と意見交換を行いました。このビジネス対話では、各国からの参加者と日本企業・経済団体の関係者との間でのビジネスマッチングも行われました。

7月に開催したシンポジウム「東京対話」では、中央アジア及び日本の有識者により「中央アジアの地域協力と地域安全保障の戦略的展望」をテーマとして活発な議論がなされました。議論の範囲は中央アジアの地域協力にとどまらず、アフガニスタン情勢や中東情勢が中央アジア地域に及ぼしうる影響等にも及び、同地域の重要性が改めて認識される機会ともなりました。また、11月東京において各省関係者の参加を得て行われた第13回高級実務者会合では、観光を中心とした実践的協力、地域安全保障、地域協力、貿易・投資、開発等についての意見交換が行われました。

コーカサス諸国との関係では、河野外務大臣が2018年9月にコーカサス3か国(アルメニア、ジョージア、アゼルバイジャン)を訪問した際、日本がアジアと欧州をつなぐゲートウェイとして重要な役割を担うコーカサス地域の自立的な発展のための協力を進めたいとの考えの下、国づくりのための人づくり支援と、インフラ整備やビジネス環境整備を通じた魅力的なコーカサス造りの支援を柱とする「コーカサス・イニシアティブ」を発表しました。

このほか、日本は中央アジア・コーカサス諸国に対して、2017年までに10,647名の研修員の受入れ、3,463名の専門家の派遣をしており、他にも、若手行政官の日本留学プロジェクトである人材育成奨学計画や、日本人材開発センターを通じたビジネス人材育成など、新しい国づくりに必要な人材の育成を支援してきています。

●ウズベキスタン

タシケント州立がん診療センター医療機材整備計画
草の根・人間の安全保障無償資金協力(2017年3月~2018年1月)

ウズベキスタンの首都タシケントにある州立がん診療センターは、耳鼻腫瘍科、小児腫瘍科、婦人腫瘍科などからなる大規模な医療機関であり、年間で約7万2000人の外来患者が受診する地域の拠点病院です。

ウズベキスタン政府は、国家計画に基づき、保健医療サービスの向上を目指しているものの、各病院に配分される予算が限られており、予算の多くを医薬品の購入や医療従事者の人件費等に充(あ)てざるを得ない状況となっているため、各病院では、品質の良い医療機材に買い換えるための資金が不足していました。

内視鏡機材供与式において挨拶する伊藤伸彰駐ウズベキスタン大使(写真:在ウズベキスタン日本国大使館)

内視鏡機材供与式において挨拶する伊藤伸彰駐ウズベキスタン大使(写真:在ウズベキスタン日本国大使館)

タシケント州立がん診療センターも、年間約8,000件近くの内視鏡検査を実施していましたが、既存の機材は絶えず修理を余儀なくされ、レンズの劣化、カメラ内の色彩分析装置の故障により、胃がんや食道がんなどの正確な診断が困難な状態にあり、良質の機材導入が急務となっていました。

このような状況の下、日本は草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて、同センターに日本製の高品質かつ高解像度の内視鏡機材一式を供与しました。こうした協力により、現在では、この内視鏡機材が有効に活用されており、毎日15~20人、週に100人を超える患者の診断が適切に行われるようなったことにより、現地の人々のがんの早期発見、治療に非常に役立っています。

【日本の国際協力の方針】中央アジア・コーカサス地域の重点課題
図表Ⅲ-7 中央アジア・コーカサス地域における日本の援助実績
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