2018年版開発協力白書 日本の国際協力

3 大洋州地域

太平洋島嶼(とうしょ)国は、日本にとって太平洋で結ばれた「隣人」であるばかりでなく、歴史的に深いつながりがあります。また、これらの国は広大な排他的経済水域(経済的な権利が及ぶ水域、EEZ)を持ち、日本にとって海上輸送の要となる地域であるとともに、遠洋漁業にとって大切な漁場を提供しています。太平洋島嶼国の安定と繁栄は日本にとって重要です。

一方、太平洋島嶼国には比較的新しい独立国が多く、経済的に自立した国家を築くことが急務です。また、経済が小規模で、第一次産業に依存していること、領土が広い海域に点在していること、国際市場への参入が困難なこと、自然災害の被害を受けやすいことなど、小島嶼国に特有な共通の問題があります。このような事情を踏まえ、日本は太平洋島嶼国の良きパートナーとして、自立的・持続的な発展を後押しするための支援を実施しています。

■日本の取組

太平洋島嶼国における政治的な安定と自立的経済発展のためには、社会・経済的な脆弱(ぜいじゃく)性の克服や地域全体への協力が不可欠です。日本は、太平洋島嶼国で構成される地域協力の枠組みである太平洋諸島フォーラム(PIF注6との協力を進めるとともに、1997年以降、3年ごとに太平洋島嶼国との首脳会議である太平洋・島サミット(PALM)を開催しています。また、2010年以降、3年ごとに太平洋・島サミットの中間に中間閣僚会合が開催されているほか、2014年以降、毎年国連総会の機会をとらえ、日本・太平洋島嶼国首脳会合をこれまで4回開催しています。

2018年12月、パラオにてレメンゲサウ・パラオ大統領と会談した鈴木憲和外務大臣政務官

2018年12月、パラオにてレメンゲサウ・パラオ大統領と会談した鈴木憲和外務大臣政務官

マーシャル諸島の首都マジュロ環礁の道路脇にて、草の根・人間の安全保障無償資金協力により整備された小型エクスカベーターを用いて、水道管設置のために土を掘り起こしている様子。(写真:関千鶴)

マーシャル諸島の首都マジュロ環礁の道路脇にて、草の根・人間の安全保障無償資金協力により整備された小型エクスカベーターを用いて、水道管設置のために土を掘り起こしている様子。(写真:関千鶴)

2018年5月、福島件県いわき市で第8回太平洋・島サミット(PALM8)が開催され、「I 自由で開かれた持続可能な海洋、II 強靱かつ持続可能な発展の基盤強化、III 人的交流・往来の活性化」を柱とし、これまでの実績を踏まえた、従来同様のしっかりとした開発協力の実施と、成長と反映の基盤である人材の育成・交流の一層の強化(3年間で5000人)を謳(うた)った協力・支援方針が発表されました。

このPALM8で表明した支援方針も踏まえ、日本は、港湾・空港など基礎インフラ整備などの二国間の協力や、複数の国を対象とした技術協力を実施しています。PALM8第1の柱である「自由で開かれた持続可能な海洋」では、太平洋島嶼国の担当職員に向け違法・無報告・無規制漁業(IUU)の抑止のための研修を行いました(詳細はコラム「案件紹介」を参照)。また、「強靱かつ持続可能な発展の基盤強化」では、太平洋島嶼国において災害に強靱な社会を構築するため、日本の知見や経験を活用しつつ、各国気象局の人材の育成や、住民が適切に避難できる体制づくりなどの包括的な支援による「防災の主流化」や、太平洋島嶼国の廃棄物管理にかかる人材と制度の強化に取り組んでいます。また、太平洋島嶼国の気候変動問題への対処を支援するため、日本はサモアにある地域国際機関である太平洋地域環境計画事務局(SPREP)と連携し、各国の気候変動対策に携わる人材の育成に向けた取組を進めています。「人的交流・往来の活性化」では、太平洋島嶼国の将来を創る若い行政官等に対する、本邦大学院における修士課程教育と、本邦省庁等におけるインターンシップを実施する事業などを行っています。

●大洋州12か国注1

違法・無報告・無規制(IUU)漁業の抑止にかかる政策・対策
国別研修(2018年11月~12月)

広大な排他的経済水域(EEZ)を有する大洋州では、豊かな海洋資源が現地の人々の生活を支えています。しかし、近年、違法・無報告・無規制(IUU:Illegal Unreported and Unregulated)漁業により、限られた海洋資源の持続性が脅かされていることや、経済的な損失が大きな問題となっています。例えば、大洋州ではマグロ類のIUU漁業が年間約700億円規模に及ぶとの報告もあります注2

日本は、大洋州でのIUU漁業への対策支援として、2018年11~12月に大洋州12か国(パプアニューギニア、フィジー、トンガ、バヌアツ、サモア、ソロモン、マーシャル、ミクロネシア、パラオ、キリバス、ツバル、ナウル)を対象に、本邦での国別研修「違法・無報告・無規制(IUU)漁業抑止にかかる政策・対策」を実施しました。研修には12ヶ国の12名のIUU漁業対策担当者が参加し、水産庁、海上保安庁等からの講義や現場視察を通し、関係省庁間の連携の重要性、漁業関係法令違反事件の処理などの日本におけるIUU漁業対策への理解を深めました。これにより、日本と太平洋州諸国の関係省庁間の連携も深めることができました。

そのほか、日本とともに「自由で開かれたインド太平洋」を進めている米国からIUU対策の専門家が来日し、講義を実施しました。研修後、研修員からは日本で学んだことを生かし、母国のIUU対策強化に取り組んでいきたいという声が聞かれました。

日本は、今後も大洋州のIUU漁業対策強化に向けた支援を継続していきます。

海上保安庁職員によるIUU漁業対策の説明を受ける研修生(写真:JICA)

海上保安庁職員によるIUU漁業対策の説明を受ける研修生(写真:JICA)

海上保安庁の巡視艇についての説明を受ける研修生(写真:JICA)

海上保安庁の巡視艇についての説明を受ける研修生(写真:JICA)


注1 パプアニューギニア、フィジー、トンガ、バヌアツ、サモア、ソロモン、マーシャル、ミクロネシア、パラオ、キリバス、ツバル、ナウル

注2 フォーラム漁業機関(Pacific Islands Forum Fisheries Agency:FFA)報告による。

【日本の国際協力の方針】大洋州地域の重点課題
図表Ⅲ-4 大洋州地域における日本の援助実績

  1. 注6 : PIF加盟国・地域:オーストラリア、キリバス、クック、サモア、ソロモン、ツバル、トンガ、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、マーシャル、ミクロネシア連邦、フランス領ポリネシア、ニューカレドニア
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