(6)環境・気候変動対策
環境・気候変動問題は、これまでG7/8、G20サミットで繰り返し主要テーマの一つとして取り上げられており、近年では2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」においても取り上げられるなど、国際的にその取組の重要性が一層認識されています。これまでも日本は、これらの問題解決に精力的に取り組んできており、今後も引き続き、国際社会における議論に積極的に参画していきます。
■日本の取組
●海洋環境の保全
海洋プラスチックごみ問題は、海洋の生態系、観光、漁業、および人の健康に悪影響を及ぼしかねない喫緊の課題として、近年その対応の重要性が高まっています。2018年6月、G7シャルルボワ・サミットにおいて、安倍総理大臣は、この問題が開発途上国を含む世界全体の課題として対処する必要があること、リデュース・リユース・リサイクルの「3R」や廃棄物処理に関する能力向上等の対策を国際的に広げていくことが不可欠であること、また、2019年のG20大阪サミットでこの問題に取り組むことを表明しました。
また、2018年11月のASEAN+3首脳会議において、安倍総理大臣は「ASEAN+3海洋プラスチックごみ協力アクション・イニシアティブ」を提唱し、各国から賛同を得ました。同イニシアティブでは、①環境上適切な廃棄物管理および3Rによるプラスチックごみ管理の改善、②海洋プラスチックごみに関する意識向上・研究・教育の促進、③地域的・国際的協力の強化が表明されました。また、同月の日・ASEAN首脳会議においても安倍総理大臣から、海洋プラスチックごみ対策に関するASEAN支援の拡大が表明されました。
●気候変動問題
気候変動問題は、国境を越えて取り組むべきグローバルな課題であり、先進国のみならず、開発途上国も含めた国際社会の一致した取組の強化が求められています。1997年に採択された京都議定書が先進国のみに削減義務を課していたことなどから、すべての国が排出削減に取り組む新たな枠組みとして、2015年にパリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においてパリ協定が採択され、2016年に発効しました。2018年に開催されたCOP24では、温室効果ガス削減に関する世界全体の努力の進捗状況を検討する、タラノア対話(議長国のフィジー語で「透明性・包摂性、調和」を意味する促進的対話)が実施されたほか、2020年以降のパリ協定の本格運用に向けて、パリ協定の実施指針が採択されました。また、気候変動対策にかかる資金(気候資金)について、2020年時点で、先進国から途上国に対して1,000億ドル供与する目標に向けて、着実な進捗が各国から確認されました。
日本としても、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で26%(2005年度比で25.4%)削減する「自国が決定する貢献(NDC:Nationally Determined Contribution)」*の達成に向けて着実に取り組むとともに、環境・エネルギー分野での革新的な技術開発の推進や、途上国における気候変動対策支援に積極的に取り組んでいます。
その一つとして、日本は優れた低炭素技術などを世界に展開していく「二国間クレジット制度(JCM)」*を推進しています。これは、途上国への低炭素技術等の普及や気候変動対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用する制度です。日本は2013年に、モンゴルとの間で初めて、JCM実施に係る二国間文書に署名したことを皮切りに、2018年末までに17か国との間でJCMを構築しました。2016年以降、インドネシア、モンゴル、パラオ、ベトナム、タイで省エネルギーや再生可能エネルギーのプロジェクトからJCMクレジットが発行されており、JCMは世界全体での排出削減に寄与しています。
また日本は、「緑の気候基金(GCF)」*を通じて、気候変動分野で途上国支援を行っています。これまでに93件の案件がGCFのプロジェクトとして承認されており、また、2017年7月にはJICAおよび三菱UFJ銀行が認証機関として承認されたことにより、日本が案件形成の段階から協力することが可能となりました。
●生物多様性
近年、人類の活動の範囲、規模、種類の拡大により、生物の生息環境の悪化、生態系の破壊に対する懸念が深刻になってきています。日本は、2010年10月に生物多様性条約*第10回締約国会議(COP10)を愛知県名古屋市で開催するなど、生物多様性分野の取組を重視しています。また、愛知目標*の達成に向けた途上国の能力養成などを支援するため、「生物多様性日本基金」に拠出しており、条約事務局において、本基金により生物多様性国家戦略の実施を支援するワークショップ開催等が進められています。
また、近年ゾウやサイを始めとする野生動植物の違法取引が深刻化し、国際テロ組織の資金源の一つになっていることが、国際社会で問題視されています。10月、ロンドン(英国)で開催された「第4回野生動植物の違法取引に関する国際会議」に、阿部俊子外務副大臣が出席し、象牙の違法取引対策について、国内象牙取引管理を引き続き厳格に実施していくことに加え、生息国におけるゾウの密猟対策支援を推進していくこと等を表明しました。
●環境汚染対策
日本は、環境汚染対策に関する多くの知識・経験や技術を蓄積しており、それらを開発途上国の公害問題を解決するために活用しています。2013年に日本で開催された「水銀に関する水俣条約外交会議」において、日本は議長国として「水銀に関する水俣条約」の採択を主導しました(同条約は2017年8月に発効)。日本は、水俣病注15の経験を経て蓄積した、水銀による被害を防ぐための技術やノウハウを世界に積極的に伝え、グローバルな水銀対策においてリーダーシップを発揮していきます。2018年11月に開催された水俣条約第2回締約国会議においては、条約の運営を主導するビューロー会合(理事会に相当)のアジア・太平洋地域の代表として、会合の円滑な実施に貢献しました。また、EUと共同で水銀廃棄物の範囲や分類の具体的基準についての提案を行うなど、水銀の規制に係る国際的なルール作りにも積極的に貢献しています。
- *自国が決定する貢献(NDC:Nationally Determined Contribution)
- パリ協定第4条2に基づき、各国が自ら決定する温室効果ガスの削減目標のこと。パリ協定では、5年ごとにこれを提出し、目標達成のための国内措置をとることとされている。
- *二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)
- 開発途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用する仕組み。
- *緑の気候基金(GCF:Green Climate Fund)
- 2010年のCOP16で採択されたカンクン合意において設立が決定された、開発途上国の温室効果ガス削減・吸収と気候変動適応を支援する基金。
- *生物多様性条約
- 生物に関する問題に国境はなく、生物多様性問題に対する世界規模での取組が必要なことから、1992年に「生物多様性条約」が採択された。同条約は①生物多様性の保全、②生物多様性の構成要素の持続可能な利用(生態系・種・遺伝子の各レベルでの多様性を維持しつつ、生物等の資源を将来にわたって利用すること)、③遺伝資源の利用から生ずる利益の公平な配分を目的とする。先進国から開発途上国への経済的・技術的な支援を実施することにより、世界全体で生物多様性の保全とその持続可能な利用に取り組んでいる。
- *愛知目標(戦略計画2011-2020)
- 2010年のCOP10において採択された、生物多様性条約の2020年までの戦略計画で掲げられた目標。2050年までに「自然と共生する世界」を実現することを目指し、短期目標として、2020年までに生物多様性の損失を止めるための行動を実施するため、20の個別目標を設定。
- 注15 : 水俣病は、工場から排出されたメチル水銀化合物に汚染された魚介類を食べることによって起こった中毒性の神経系疾患。熊本県水俣湾周辺において1956年5月に、新潟県阿賀野川流域において1965年5月に公式確認された。