(3)万人のための質の高い教育
教育は、貧困削減のために必要な経済開発において重要な役割を果たすと同時に、個人が持つ才能と能力を伸ばし、尊厳を持って生活することを可能にし、他者や異文化に対する理解を育むことで、平和の礎となります。また、教育を通じて、貧困削減のために必要な経済社会開発のための知識を得ることができます。ところが、未だ世界には小学校に通うことのできない子どもが約6,400万人もいます。特に、紛争の影響下にある国や地域で学校に通えない児童の割合は、初等教育では2000年に29%であったものが、2014年には35%(約2,150万人)に上昇しており、深刻な課題となっています。
このような状況を改善するために、SDGsの目標4として「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」が掲げられました。国際社会は、2015年に「教育2030行動枠組」*を策定し、SDGs目標4の達成を目指しています。
■日本の取組
日本は、「国づくり」と「人づくり」を重視しており、開発途上国の基礎教育*や高等教育、職業訓練の充実などの幅広い分野において教育支援を行っています。2015年の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」採択のための国連サミットに合わせ、日本は教育分野における新たな戦略である「平和と成長のための学びの戦略」を発表しました。この戦略は、開発協力大綱(2015年閣議決定)の教育分野の課題別政策として、開発教育専門家や教育支援NGO、関連国際機関等と幅広く意見交換を行い、策定されたものです。同戦略では基本原則として、①包摂的かつ公正な質の高い学びに向けた教育協力、②産業・科学技術人材育成と社会経済開発の基盤づくりのための教育協力、③国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大を挙げ、学び合いを通じた質の高い教育の実現を目指しています。
2017年7月の国連ハイレベル政治フォーラムで、岸田外務大臣(当時)は、子ども・若年層に焦点を当て、教育、保健、防災、ジェンダー分野等を中心に2018年までに10億ドル規模の支援を実施する旨表明し、日本は脆弱な立場に置かれた子どもへの教育機会の確保や職業訓練、女性・子どもの人権状況の改善や子どもの感染症対策・衛生改善等の支援を着実に実施中です。
また、初等教育の完全普及を目指す国際的な枠組みである「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」*に対して、日本は2008年度から2018年までに総額約2,653万ドルを拠出しました。GPEの支援を受けたパートナー国では、2016年には、2002年と比較して7,700万人以上の子どもが初等教育を受けられるようになりました。また日本は、2018年12月、バングラデシュの初等教育の質の向上を目的として、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行、UNICEFといった他のドナーと連携し、同国の初等教育政策実施のための財政支援を行う無償資金協力「第四次初等教育開発計画」の交換公文に署名しました。
アフリカに対しては、2016年のTICAD VIにおいて、日本は2016年からの3年間で約2万人の理数科教員を育成することを表明し、科学技術分野の基礎学力強化にも貢献しています。また、ニジェールをはじめとした西アフリカ諸国では、学校や保護者、地域住民間の信頼関係を築き、子どもの教育環境を改善するため、「みんなの学校プロジェクト」を実施しています。
このほか、アジア・太平洋地域の教育の充実と質の向上に貢献するため、国連教育科学文化機関(UNESCO)に設置した信託基金を通じて、SDGsの目標4の進捗を議論するアジア太平洋地域教育2030会合(APMED2030)の開催および同地域のSDGsの目標4達成に向けた取組を支援しています。ほかにも日本は、日ASEAN間の高等教育機関のネットワーク強化や、産業界との連携、周辺地域各国との共同研究、および「留学生30万人計画」に基づく日本の高等教育機関等への留学生受入れ等の多様な方策を通じて、開発途上国の人材育成を支援していきます。
●エジプト
エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)「エジプトにおける日本式教育の導入」
技術協力プロジェクト(2017年2月~(実施中))、円借款(2018年~(実施中))
エジプトでは現在、日本による教育分野への支援が非常に注目を浴びています。
「教育は、水であり、空気である。」これは、エジプトに伝わる、教育の重要性を表す言葉です。どこの国でも、自国民の教育は、国の発展を左右する重要なものです。2015年の安倍総理大臣のエジプト訪問時に、エルシーシ大統領から「日本式教育の導入」への関心が示され、翌2016年に合意された「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」の一環として、大統領の強いリーダーシップの下で、着々と進められています。
もともと、エジプトでは、学校教育の質が十分確保されているとはいいがたい状況でした。このような状況下、日本は、2017年2月から「日本式教育の導入」として、日本人なら誰もが経験している、学校での掃除、日直、学級会などを、日本語で「トッカツ(特別活動)」と呼んで、現地の学校での導入を進めています。これらを通じて、子どもたちの協調性や責任感、相手を思いやる心などを身につけてもらうことを目指しています。
2017年から開始されたパイロット校での活動を経て、2018年9月、この日本式教育を導入する学校が、「エジプト・日本学校」として、新たに35校開校しました。児童の保護者からは「子供が家で積極的に手伝いをするようになった。」という声が寄せられ、教員自身からも「子供の意見をより聞くなど、子供への接し方が変わった。」という声が聞かれています。
「トッカツ」の取り組みは今後、エジプトの学校に更に広まっていくと期待されますが、人づくりは一朝一夕には進むものではありません。エジプトの事情に合わせて日本式教育が根付くよう、これからも息の長い支援を続けていきます。
●持続可能な開発のための教育(ESD)の推進
2014年に日本で開催された「持続可能な開発のための教育(ESD)*に関するユネスコ世界会議」以降、「国連ESDの10年(UNDESD)」の後継プログラムとして採択された「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」の下、世界中でESDに関する活動が展開されています。国際的な推進プログラムであるGAPが2019年で区切りを迎えることを受け、日本の提案により、UNESCOはGAP後継枠組の草案に取り組んでおり、2019年春のUNESCO執行委員会に草案を提出することとなっています。また日本は、UNESCOに拠出している信託基金を通じてGAPの実施を支援するとともに、「ユネスコ/日本ESD賞」を創設し、これまで12団体に授与するなど、積極的にESDの推進に取り組んでいます。現在、ESDをさらに推進するためのGAP後継枠組みについて、国際的な議論が進められています。
- *教育2030行動枠組(Education 2030 Framework for Action)
- 万人のための教育を目指して、2000年にセネガルのダカールで開かれた「世界教育フォーラム」で採択されたEFAダカール行動枠組の後継となる行動枠組。2015年のUNESCO総会と併せて開催された「教育2030ハイレベル会合」で採択された。
- *基礎教育
- 生きていくために必要となる知識、価値そして技能を身につけるための教育活動。主に初等教育、前期中等教育(日本の中学校に相当)、就学前教育、成人識字教育などを指す。
- *教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE:Global Partnership for Education)
- 開発途上国、ドナー国・機関、市民社会、民間企業・財団が参加し、2002年に世界銀行主導で設立された途上国の教育セクターを支援する国際的なパートナーシップ。2011年にファスト・トラック・イニシアティブ(FTI:Fast Track Initiative)から改称。
- *持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
- 持続可能な社会づくりの担い手を育む教育。「持続可能な開発」とは、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させる」開発を意味しており、これを実現する社会の構築には、環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な現代社会の課題を、自らの問題としてとらえ、その解決を図る必要があり、そのために新たな価値観や行動を生み出すことが重要であるとしている。