(2)水・衛生
水と衛生の問題は人の生命にかかわる重要な問題です。水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は、2017年に世界で約8億4,400万人、トイレや下水道などの改善された衛生施設を利用できない人口は開発途上国人口の約半分に当たる約23億人に上ります。約36万人の5歳未満の子どもが、安全な水と衛生施設が不足しているために引き起こされる下痢によって命を落としています。さらに、安全な水にアクセスできないことは経済の足かせにもなっています。たとえば、水道が普及していない開発途上国では、多くの場合、女性や子どもが水汲みの役割を担っています。時には何時間もかけて水を汲みに行くので、子どもの教育や女性の社会進出の機会が奪われています。また、水の供給が不安定だと、医療や農業にも悪影響を与えます。
こうした観点から、SDGsの目標6において「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」旨が定められています。
■日本の取組
日本は、1990年代から累計して水と衛生分野における援助実績が世界一です。この分野に関する豊富な経験、知識や技術を活かし、専門家の派遣や開発途上国からの研修員受入れなどの技術協力や円借款や無償資金協力により、開発途上国での安全な水の普及に向けて支援を続けているほか、UNICEFなどの国際機関を通じた支援も行っています。具体的には、①総合的な水資源管理の推進、②衛生施設の整備等による安全な飲料水の供給と基本的な衛生の確保、③食料増産等のために水(農業用水など)を安定的に利用できるようにする支援、④排水規制等による水質汚濁の防止、および緑化や森林保全による生態系の保全、⑤予警報システムの確立、地域社会の対応能力の強化等による水に関連する災害の被害軽減など、ソフト・ハードの両面で支援を実施しています。
アジア・大洋州地域では、日本は、ミャンマー、カンボジア、ベトナムといった国々で上水道の整備・拡張のための事業を実施中であり(パラオは実施済)、地方の給水率の改善が課題となっているカンボジアにおいても、2017年3月に無償資金協力「コンポントム上水道拡張計画」の交換公文署名が行われました。人口増加や経済発展が進むインドにおいては、2018年3月、深刻な水不足に対応するため、海水淡水施設の整備を行う円借款「チェンナイ海水淡水化施設建設計画(第一期)」の交換公文署名が行われました。
また、アフリカでは、日本は安全な水へのアクセス改善、給水率の向上に向けた事業を実施しており、たとえば、スーダンにおいては、給水環境を改善するため、コスティ市における浄水場施設の新設および整備の協力を行っています。
ほかにも日本は、日本NGO連携無償資金協力によって、日本のNGOによる水・衛生環境改善事業を支援しています。たとえば、特定非営利活動法人APEXは、インドネシアにおいて2017年2月から3年間の予定で、低コストで運転管理が容易でありながら、良好な処理水質が得られるコミュニティ排水処理システムの広域的普及促進事業に取り組んでいます。また、2017年度には、ジャワ島内で12基分の設置が進んでおり、このシステムはインドネシアの公共事業国民居住省の推奨するシステムとなりました。
こうした取組と並行して、草の根・人間の安全保障無償資金協力などによる協力、国内および現地の民間団体と連携した開発途上国の水環境改善の取組も、世界各地で行われています。
また、環境省でも取組を行っており、たとえば、アジアの多くの国々において深刻な水質汚濁が生じている問題に対して、関連する情報・知識不足を解消するため、同省はアジア水環境パートナーシップ(WEPA)を実施し、アジアの13の参加国の協力の下、人的ネットワークの構築や情報の収集・共有、能力構築等を通じて、アジア水環境ガバナンスの強化を目指しています。
●パキスタン
ファイサラバード上下水道・排水マスタープランプロジェクト
技術協力(2016年7月~2019年6月)
パキスタンの第三の都市であるファイサラバード市では、安定的かつ衛生的な水の供給や水道施設の整備が急務となっています。さらに、上下水道料金の徴収率の低さや適切な設備投資や維持管理に必要な資金の不足など、同市の上下水道事業体であるファイサラバード上下水道公社(WASA-F)の経営状況も大きな課題となっています。
こうした同市の上下水道に関する問題を改善するため、日本は「ファイサラバード上下水道・排水マスタープランプロジェクト」を実施しています。このプロジェクトでは、2038年までの20年間における上下水道事業および経営体制の長期計画に基づき、パイロット地区におけるメーターの設置、新たな料金徴収体系の導入などにより、持続的な水道事業体制の確立を目指す取り組みが行われています。これにより、パイロット地区の水道契約数を約20%増やすことに成功しました。また、横浜市など日本の自治体の協力を得て、給水時間をこれまでの6時間から12時間に拡大することに成功し、給水水質の改善を実現するなど、衛生面でも大きな改善が見られました。今後、長期計画の内容を踏まえ、設備投資の拡大や、上下水道の維持管理やWASA-Fの経営のさらなる改善を行っていく予定です。
●ブルキナファソ
村落給水施設管理・衛生改善プロジェクト・フェーズ2
技術協力プロジェクト(2015年9月~2020年3月)
ブルキナファソは、厳しい自然環境にさらされており、生活環境、水、衛生設備へのアクセス改善が喫緊の重点課題とされています。日本は、無償資金協力による給水施設建設や専門家の派遣など、様々なスキームを活用し、長年に渡り、ブルキナファソの水資源分野で継続的に支援してきており、本案件はその一つです。
2011年以降、日本は、ブルキナファソの中央プラトー地方および南部中央地方に、人力ポンプ付深井戸給水施設を300か所建設し、研修や井戸修理の技術指導を実施しながら、施設の維持管理を指導してきました。現在も、給水施設の維持管理システムをブルキナファソ全土へ普及する支援を実施していきます。
ブルキナファソに派遣されている小野健(おのたけし)専門家は、ブルキナファソで18年以上支援を続け、そのほかのアフリカ6か国でも給水プロジェクトに携わってきました。本案件においては、同国の水・衛生省の担当者と共に、水利用者管理組合の組織化や、組合員への研修、料金徴収システムの構築および井戸修理に関する技術指導などを実施しています。現場での活動に加えて、同国の給水施設維持管理システム改善を目的とした公共給水サービス管理国家戦略を、現地の関係者と共に策定するなど、同国の給水衛生セクターに対する政策立案支援も行っています。こうした小野専門家の活動は、「日本の顔が見える支援」として、ブルキナファソ国内外で高い評価を得ています。